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ローマ字は訓令式かヘボン式か,それとも

ローマ字の方式について,Webで情報収集をしていました.
よく知られているのは,たちつてとをtatitutetoと綴る「訓令式」と,たちつてとをtachitsutetoと綴る「ヘボン式」です.訓令式は小学校の国語で使用されている(らしい)のに対し,学校の外に目を向けると,ヘボン式ばかりだよ,というと,かけ算の順序論争を彷彿とさせます*1
小学校のローマ字指導はどうあるべきかについては,授業やテストの事例を見ておくべきかなと思いまして,判断を保留します.ただ,大学教育・情報教育ではというと,訓令式ヘボン式,そして「日本式」と「ワープロ式」を理解し,必要に応じて使い分けられることが重要に思えてきました.ここで理解し使い分けるのは,教員のみならず学生もです.小学校のローマ字学習の経験をもとに,大学で学び直す機会があれば,4種類のローマ字の方式を知っておくのが有益であると言えます.
「日本式」は,訓令式のもとになった方式です.
ワープロ式」は,後で引用するとおり,ある文書で用いられている呼称ですが,広く使われているわけではありません.wikipedia:ローマ字入力で,その綴り方や長所・短所などが整理されています.
ただし3点,注意すべきことがあります.一つは長音の綴りです.「あんごう」を日本式や訓令式で書くとangô,またヘボン式英米規格ではangōと,「おう」に当たる母音は1文字(アクサン付き母音字)なのに対し,ワープロ式ではangouと綴り,「おう」はouの2文字です.
2番目は,「じ」と「ぢ」,「ず」と「づ」の区別です.ワープロ式(それと日本式)では,ziとdi,zuとduと,書き分けられます.ですが訓令式ヘボン式では,同一視されています.
最後の注意点は,綴りのルールから少し離れた話です.日本式も訓令式ヘボン式も,手書きやプリントアウトにより,比較的長期間,その記載内容が保持されるのに対して,ワープロ式は通常,PCの日本語入力で使用されますので,打ち込んだ綴りが表示されたり,計算機内部で維持したりするのは,極めて短時間となります.
大学教育・情報教育に携わる自分にとって,ローマ字は次の2つの科目で意識してきました.一つは,今年度から担当している,学部1年生向けの情報処理科目です.日本語入力はWindowsも(1回だけ使用した)Linuxも,ローマ字かな変換を使用してもらいました.かな入力をしたいという問い合わせは,ありませんでした.
もう一つは,情報セキュリティの暗号解読課題です.学生には,単一換字暗号による暗号文を提示しています.平文は,日本語文章のローマ字表記です.「訓令式を使用」と指示してきたのですが,実際には,ワープロ式を基本としていました.なお,年度によっては,原文の外来語を英単語に変換して平文に入れ,暗号解読のヒントにしてもらうこともありました.
ローマ字にするのに,初期には手作業をとっていましたが,記載ミスもありました.ここ数年はKAKASIを用いて機械的に変換しています.
今年度の課題*2の一部を取り出し,変換例を示します.

$ cat kanjikana.txt
二人にとっては暗号遊びのたのしい台本
$ kakasi -JH -KH -iutf8 < kanjikana.txt > kana.txt
$ cat kana.txt
ふたりにとってはあんごうあそびのたのしいだいほん
$ kakasi -Ha -rkunrei -iutf8 < kana.txt > romaji.txt
$ cat romaji.txt
hutarinitottehaangouasobinotanosiidaihon

ところでこの変換に関して,長音の扱いを除き,ヘボン式でも差し支えなかったのですが,訓令式にしているのは,平文・暗号文を構成する字種を少し減らして*3,解読をちょっとだけ楽してもらおうというのと,ザ行の扱いにちょっと配慮してねという意図があります.
ザ行の件は,もう少し具体的に書きましょう.解読を進めていき,「じ」と読める箇所が出たときに,子音字のほうを"j"とすると…間違いです.訓令式ではjを使わないから,ではなく,他の同じ暗号文の文字を"j"にすると,読みがおかしくなるからです.今年度だと,平文がtukawazuniとなる箇所があり,これがtukawajuniだと変です.


以下,調査して,なるほどそうなっているのかと思った一節を取り出しておきます.

(ア) 第3学年においては,日常使われている簡単な単語について,ローマ字で表記されたものを読み,また,ローマ字で書くこと。
(略)
ローマ字表記が添えられた案内板やパンフレットを見たり,コンピュータを使う機会が増えたりするなど,ローマ字は児童の生活に身近なものになっている。これらのことから,これまでは第4学年であったものを,今回の改訂では,第3学年の事項とし,ローマ字を使った読み書きがより早い段階においてできるようにしている。「日常使われている簡単な単語」とは,地名や人名などの固有名詞を含めた,児童が日常目にする簡単な単語のことである。

小学校学習指導要領解説 国語編

まず、ローマ字の方式について整理したい。一般の方がローマ字のつづり方で混乱するのは、音韻体系と表記法の区別ができていないからである。日本式ローマ字と訓令式ローマ字(およびヘボン式)は、理論と応用の関係にある。訓令式は「現代語の音韻」(昭和61年7月1日内閣告示第一号 現代仮名遣いの付表)を採用した表音式仮名遣いの表記法として確立した。歴史的仮名遣いと現代仮名遣いが異なる表記法であるように、表音式仮名遣いもまた異なる表記法なのである。従って、それぞれ別の表記法である歴史的仮名遣い、現代仮名遣い、表音式仮名遣いの三者を同一にすることは原始的に不可能である。歴史的仮名遣いの「かなづかひ」は、現代仮名遣いでは「かなづかい」になる。表音式仮名遣いでは「かなずかい」になる。これらは表記法の違いから生じるのであって、五十音、あるいはローマ字の表が導いたのではない。
表記法を実際の音に対応させようという考え方を表音主義という。現代仮名遣いは歴史的仮名遣いよりも実際の音に近く、表音式仮名遣いは現代仮名遣いよりもさらに実際の音に近い。他方、表記法ではなく、音韻体系(五十音)をローマ字に写したのが日本式ローマ字である。日本式はさまざまなローマ字表記法に適用する前段階にある。上の例をふたたび取り上げれば、歴史的仮名遣いに従う場合は「kanadukahi」、現代仮名遣いに従う場合は「kanadukai」とつづる。前者を歴史的仮名遣いによる厳密翻字、後者を現代仮名遣いによる厳密翻字という。表音式仮名遣いに従う場合は「kanazukai」になる。これが訓令式である。現代語の音韻によらないつづり方は、すべて日本式に立ち返る必要がある。

日本式(訓令式)ローマ字の拡張表

ISO 3602 は,強制力こそ ありませんが,世界の 標準です。学術,芸術,産業など さまざまな 分野で ひろく つかわれる ことが 期待されています。それにも かかわらず,日本政府は この 標準に 賛同する 意思を しめしていません。国内で バラバラに なっている ローマ字の 方式を この 標準に あわせて 統一する うごきも ありません。
ちなみに,中国語と 韓国語(朝鮮語)を ラテン文字化する ルールにも 国際標準が あり,中国政府と 韓国政府は それらに 賛同する 意思を あきらかに しています。もちろん,中国と 韓国の 国内ルールは その 標準に したがっています。
国際的な 場面で「北京」が Beijing と 表記されるのは このためです。国際的な 場面で「釜山」が Busan と 表記されるのも このためです。外国も これらの 国際標準を 尊重しています。
それに 対して,国際的な 場面で「広島」が Hirosima と 表記される ことは ありません。ISO 3602 が ないがしろに されているからです。日本政府が これを 無視している くらいですから,外国が これを 尊重する はずも ありません。

ISO 3602

欧文で文章を書く際に、我々の姓名や住所その他、日本の事物を表記するに当たっては、ローマ字を利用するほかはありません。その際、少々混乱が起こります。ローマ字にはヘボン式訓令式の2種類があるからです。しかもどちらを標準とすべきかについて、わが国官庁の間にさえ、意見の対立があるからです。すなわち、文部省は訓令式を妥当と考えていて、小学校では訓令式によりローマ字を教えています。これに対して、外務省の方ではヘボン式を妥当として、旅券申請その他でヘボン式の使用を事実上強制しています。もっとも、外務省も、訓令式が絶対に駄目、といっているわけではありません。有効な旅券を期間内に切り換える場合には、原則として戸籍謄本の提出を省略できるのですが、非ヘボン式表記希望者の場合には戸籍謄本の提出を省略できない、という少々裏口的、あるいはいびり的手段でヘボン式を強制しているのです。

ヘボン式か訓令式か

ところが,日本式は その 表音主義を 徹底していない ように みえる ところが あります。「じ」/「ぢ」など,おなじ 音声なのに 別の つづりに している 点です。どういう わけでしょうか。それは 日本式が 次に しめす ふたつの 原則を 採用しているからです:

  • 各々の かな文字が 単独に あらわしている 音声は 独立の 存在として みとめる。
  • かな文字で 書いてある とおりに 読まない ものは 発音に したがって 書く。

ひとつめは,文字が ちがえば 音声も ちがう(はずだ),という かんがえです。つまり,「じ」「ず」「い」「え」「お」/「ぢ」「づ」「ゐ」「ゑ」「を」は 文字が ちがうので 音声も ちがう(はずだ)と かんがえ,zi, zu, i, e, o / di, du, wi, we, wo ,という 風に 別の つづりに しています。実際,明治・大正の 時代には「じ」「ず」/「ぢ」「づ」の 発音を 区別する 人も おおかった ようです。
ふたつめは,「には(庭)」「いへ(家)」「かほ(顔)」「思ふ」「〜でせう」「わうさま(王様)」など,文字の とおりに 読まない ものは 発音に あわせて 書く,という 意味です。
要するに,ひとつめの 原則が ある ため,表音主義を 徹底できていない ように みえて しまう わけです。

日本式

今回のアンケート調査から,国語の時間において学んだローマ字を通し,児童は英単語を読むことに興味・関心を持ったことが明らかになった。そして,ローマ字学習をしたことで,児童は英単語が読みやすくなったと感じている。特に英語へのアクセス環境が整備されている小学校で行われている英語活動を体験している児童は,英語活動を経験していない児童に比べより強く上記2点を思っていることが判明した。
また,テストにおいてはローマ字をうまく活用し未知語を読んでいる一方で,ローマ字の影響を直接受けていると思われる結果もあった。そして,児童が音と文字を一致させることに限界があるのではないか,ということも明らかになった。そこで,今回の調査のまとめとして次の4点を挙げる。
(略)
上記4つの点は,英語教育や英語活動の中で解決できる問題ではない。ローマ字を学習することで児童は日本語が持つ独自の音韻構造について知識を深める。そして英語を聞き,英語が持つ音韻構造を目にすることで,英語や日本語を含めた言語に対し興味や関心をさらに抱くようになる。児童の知的好奇心をくすぐり,言語が持つユニークさに気づいてもらうためには,1つの言語教育からのアプローチだけでは不可能であり,国語教育における「ローマ字指導」および英語活動で行われている「文字に触れる活動」の連携は必要不可欠だと考える。

ローマ字指導と小学校英語活動における有機的な連携

主なローマ字表記の伝統的な形式は主に二つあり、それぞれ訓令式ヘボン式と呼ばれています。これらの形式についてのより詳細な情報は、Japan Style Sheet (Society of Writers, Editors and Translators, 1998)にあります。近年では第三の、非公式な形式が出てきています。ここではそれをワープロ式と呼ぶことにします。
ワープロ式は、コンピュータで(かな入力ではなく)ローマ字入力で日本語を打ち込む際の方法に基づいています。たとえば「じゅうよう」は、J-U-U-Y-O-Uと入力します。この方法に慣れたためか、今では多くの人が「じゅうよう」という単語をローマ字表記する際、(訓令式のzyūyō,ヘボン式のjūyōのように)長音記号を使わずに、母音をひとつ増やしてjuuyouと表記する傾向がみられます。また、「ん」という音節はN-Nと打ち込まなければならないことが多いため、多くの人が「けいひん」のような単語をKeihinnと綴っています。このワープロ式は電子メールやその他の非公式な場面では便利ですが、主な刊行物で正式に採用されてはいませんし、学術論文には不向きです。
どのローマ字表記形式を使用するにしても、たくさんの日本語をローマ字表記しなくては
いけないとなると、長母音や単語の区切り方などを表す際、多くの困難な問題に直面するでしょう。特別な理由から選択したいと思うローマ字表記形式があるのでなければ、以下で説明する、ヘボン式を基本とした形式を使用することを推奨します。

日本語のローマ字表記の推奨形式

ローマ字入力とかな入力を比較すると、以下のような長所・短所・指摘がある。
長所

  • 使用する基本のキーがアルファベット「A」〜「Z」の26個のみと少なく、覚えやすい。長音符に必要な「-」(ハイフン)を例外とすればキーボードの3段のみで済み、ホームポジションからの手指の運動範囲が狭い。
  • 濁音・半濁音でも清音と打鍵数が変わらない。
  • シフトキーを使う必要がない(英文・記号を入力しない場合。)。
  • QWERTY配列のタイピングとローマ字が既習であれば、すぐに使うことができる。
  • 職業上のスキルとしてタッチ・タイピングまでこなす必要がない場合、ローマ字のほうがキーの位置を探しやすい。
  • かな入力が習得できない者、ひらがなが理解できないが、アルファベットの理解可能な外国人にも使用することができる。

短所

  • 漢字から効率よく変化したかな1文字を2〜3文字にローマ字に分解し、さらに1文字ずつ入力するため、入力方法としては効率が悪い。
  • ローマ字未習者は「ローマ字かな変換表」を用意し、ローマ字綴りを習得しなければならない。
    • ローマ字そのものは、小学3年生の国語でも習うことになっている。
  • 日本の人名・地名を記すローマ字ではほとんど用いられない、特殊な綴り(例:「デュ」→「dhu」など)を用いる場合もあり、効率よく入力するためにはそれらの特殊な綴りも覚える必要がある。
  • 英語未習の者にローマ字学習をさせると、英語の学習を開始した際の困難が生じ、学習の妨げになることが多い。総じて、日本人の英会話習得率の低さにつながっている。[要出典]
ローマ字入力 - Wikipedia

それと,http://kokugo.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/joho/series/18/pdf/kokugo_series_018_10.pdf*4によると,昭和20年代後半に「文部省によるローマ字教育実験調査」を実施していて,全国20の実験学級の情報が,1枚の表になっています.その表には,「つづり方の式」という欄もあり,ざっと数えると,K=訓令式が6学級,N=日本式が7学級,H=標準式(ヘボン式)が7学級でした.

*1:もちろん違いも容易に想像できて,「日常生活で使われているかけ算を探しましょう」とすると,一つ分の大きさ×幾つ分が多く見つかり,「日常生活で使われているローマ字を探しましょう」だと十中八九,ヘボン式となっているはずです.

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150513/1431464636

*3:訓令式ではcとjが出現しません.

*4:PDF化された文書一覧はhttp://kokugo.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/joho/series/よりアクセスできます.