わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

かけ算の式,比例の式

いきなりですが問題です.

以下の表について,水の深さが時間に比例する関係を式に表しましょう.

時間x(分) 1 2 3 4 ...
水の深さy(cm) 4 8 12 16 ...

1冊x円のノートを4冊買います.代金をy円としてxとyの関係を式に表しましょう.

正方形の一辺の長さx cm と,まわりの長さy cmの関係を式に表しなさい.

上から順に《水の問題》《ノートの問題》《正方形の問題》と書くことにします.元ネタは比例の関係式は、y=(決まった数)Xx ? - 身勝手な主張で,いくつか数値を変更しています.
さっそくですが解答です.《水の問題》は,1分間で水の深さが4cmになり,x分過ぎたときの水の深さy cmを式にせよということなので,y=4×xと表せます.中学校式に書くならy=4xです.
《ノートの問題》は,1冊あたりの値段(単価)がx円で,それを4冊だから,「(ぜんたいのねだん)=(ひとつのねだん)×(買ったかず)」*1に当てはめると,y=x×4となります.中学校式に書くならy=4xです.
《正方形の問題》は,《ノートの問題》と同様に,1つの辺の長さがx cmで,正方形は4つの辺でできていますから,式はy=x×4です.中学校式に書くならy=4xです.
それで,元ネタと答え合わせをしてみると,《正方形の問題》で表したy=x×4は,「減点3点!?」とのこと.ありゃ*2,比例の式は「y=きまった数×x」で表すというのを確認するための,テスト問題だったのですか.


上で書いた,xとyの式は,「y=4×x」「y=x×4」「y=4x」の3種類です.「×」が入っているのは,小学校の立式で,ないのは中学校です.
文字式の小中の違い(あるいは小中連携)について,積ん読にしていた本に書かれていました.

学校と教師を変える小中一貫教育―教育政策と授業論の観点から

学校と教師を変える小中一貫教育―教育政策と授業論の観点から

(略)算数科・数学科で「文字の式」を繋ぐとき,最も課題になるのが,乗法の順序に関する事項である。例えば,1つa円の品物を3個購入したときの代金について,小学校の表記ではa×3と表す。aは1個あたりの値段を表すので,あくまでもaがかけられる数であり,普通3×aとは書かない。ところがこれを文字の式で表記すると3aであるり,文字どおり読めば,3×aを表す。もし,「文字の式」まで前倒しを測るのであれば,a×3であっても,文字式の約束によって,掛け算記号を省略した上で数を先に書くので3aと表すという理解を持つ必要があるだろう。(p.95)

個人的な理解は次のとおりです.

  • 「1冊x円のノートを8冊買います.いくらになりますか」に対して,小学校6年ではx×8で表します.ここでxはかけられる数,8はかける数です.
  • 「1冊8円の文具をx個買います.いくらになりますか」のときは,小学校6年では8×xとします.ここで8はかけられる数,xはかける数です.
  • 中学校では「1冊x円のノートを8冊買います」も「1冊8円の文具をx個買います」も,8xで表します.8はxの係数です.「8倍のx」と言う人もいます.
  • x×8や8×xという式では,単価が被乗数で,8冊またはx個を買う場合の金額が積になります.被乗数は,基準量であり,乗数は,積を求めるために使用されるもう一つの数量として使用されます.
  • 8xという式は,「xを8倍したもの」と解釈することができます.そこでは,xと8xとを比較することになります.x円やx個,8冊や8円といった数量の意味は,その比較では考慮されません.これは「式の形式的処理」と関連します.
Re: 擁護する主張に追加予定

「式の形式的処理」は,「式に表す」「式を読む」と合わせて3点セットの一部です.この3点セットを提案したのは藤井斉亮氏*3で,小学校算数・中学校数学の学習指導要領解説と照合すると,直接これらの用語は出てきませんが,重なる要素はあります.文字式は主に中学の数学でよく研究・実践されていて,2008年告示の学習指導要領(教科書は2011年度から)で小学校でも学ばせるようになった,という流れです.


《水の問題》《ノートの問題》《正方形の問題》の共通点と相違点を見ていきます.
《水の問題》では「水の深さが時間に比例する」と明示しています.そうすると,y=(決まった数)×xで表せばいいのではとなります.決まった数は,1分間で水の深さが4cm,増えているので,この4を使えばいいわけです.y=4×xと表したあと,表のxの値,1,2,3,4を順に代入して計算すると,yの値はそれぞれ4,8,12,16となって表の値に合います.
それに対し,《ノートの問題》と《正方形の問題》では,問題文において,比例であることが明示されていません.「全体の大きさ=一つ分の大きさ×幾つ分」で求められます.どちらも,かける数は整数(分離量)です.なお,《水の問題》も,「全体の大きさ=一つ分の大きさ×幾つ分」を根拠としてy=4×xという式が立てられますが,xは連続量です*4
学習指導要領を持ち出すのなら,《水の問題》は第6学年の数量関係D(2)比例,《ノートの問題》と《正方形の問題》は同学年・同領域のD(3)文字を用いた式が,最も関連します*5
D(3)文字を用いた式は,http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/16/1234931_004_2.pdf#page=149より読むことができます.読んで容易に分かるのは,この中に比例の概念が出現しないことです.学習指導要領の記載順に,教科書をつくる必要はありませんので,結果として,6年の文字を用いた式の学習は,教科書でも問題集でも,学年の比較的はじめのほう*6になっています.
《水の問題》ではyがxに比例することを明示しています.《正方形の問題》は,経緯によると比例に位置づけて問われています.《ノートの問題》を,それらと同類とみなしてしまったことが,おかしな議論の発端と言わざるを得ません.


もちろん,《ノートの問題》のxとyも,次のように表にすれば,yがxに比例することが確認できます.

ノート1冊の値段x(円) 1 2 3 4 ...
4冊の代金y(円) 4 8 12 16 ...

このように関係を作り,比例定数はy/xで4になるというのは,先日も書きましたがVergnaudが示したうちの「関数関係」に基づいて理解するのが分かりやすいです.洋書*7が入手困難なら,『算数・数学科重要用語300の基礎知識』のp.187にそのエッセンスが記されています.
ただ,《水の問題》と《ノートの問題》は,算数において比例の関係として扱いにくそう,という思いもあります.比例の関係にある2つの量は,異なる種類なのが好まれています.『小学校学習指導要領解説 算数編』の第5学年の「簡単な場合の比例の関係」,および第6学年の「比例」で出てくる例は,いずれも,異なる種類の量どうしの比例関係*8ですし,都算研の学力調査でも,比例するものは異なる種類の量どうしです*9

*1:出典はhttp://www.nier.go.jp/guideline/s33e/chap2-3.htm.昭和33年です.このころから,今の「一つ分の大きさ×幾つ分」に相当する言葉の式があったのは,興味深いところです.

*2:わざとらしく書きましたが,この件,http://b.hatena.ne.jp/entry/detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1273260777のとおり,2012年にはてブしています.

*3:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150906/1441492568#20150906fn1

*4:《ノートの問題》のxとy,すなわち単価と料金について,たとえば62.5円のように小数の値にすることも可能ですが,小学校の算数では重視されていませんね…もし,教科書に消費税の計算を入れるとなると,端数処理に加えて,税率の変更への対処も必要になりますから.

*5:なお,一つ前の学習指導要領では,文字を用いた式がなく,比例についても式で表すことが言及されていません.

*6:出典は失念しましたが,分数のかけ算・わり算の計算で,文字を用いた式を見たことがあります.

*7:冒頭の3つの問題に対して,x×4でも4×xでもいいじゃないかという主張は,面白みに欠けるなあとも思っています.いくつかの海外文献では,交換法則を「イエス・バット」の前段に置き,それを認めた上で,バット以降で示唆に富む事例や考察を述べています.「イエス・バット」はhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150624/1435093174に書きました.butではなくalthoughを用いた文章は,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140924/1411511070で取り上げています.

*8:関連:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140309/1394310678.少し関連:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131224/1387832400

*9:http://tosanken.main.jp/data/H25/happyou/20131018-7.pdf#page=15