わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

除法逆除法 - 包含除か等分除か

いきなりですが問題です.

次の問題は,包含除の場面でしょうか,等分除の場面でしょうか.

1組は,36人います.校外学習の班を決めるのに,何人かずつに分けると,ちょうど,4つの班ができました.1つの班を,何人にしたのでしょうか.

元ネタです.「1組は」から始まる問題文は,p.85の〈例題〉です(一部表記を変更しています).

文章題の完全習得学習と指導

文章題の完全習得学習と指導

完全習得学習については,完全習得学習とは : Be ambitiousで整理されています.そこで書かれている「工数がかかる」について,『文章題の完全習得学習と指導』では,取り上げている指導の数が少なく,1問あたりに要するページ数が多いことと,対応しています.
包含除・等分除の判別には,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160522/1463842800で取り上げた「ドドレ型」「ドレド型」を使うことにします.
具体的にはこうです.「何人かずつ」を□とし,□を用いた式で表すと,式は36÷□=4となります.わられる数の36も,□も,単位は「人」で,同じ種類の量ですが,商の4はそれらと異なり,「班」です.ということで,「ドドレ型」の包含除の場面だと分かります.
ですが,この問題は,「36人を,4つの班に分けると,1つの班は何人ずつになりますか」と同じことを言っているのに気づくと,式は,36÷4=9となります.わられる数と商が人数で同じ種類の量,わる数はそれらと異なる量,となると,「ドレド型」,等分除の場面です.
というわけで,見方によって包含除にも等分除にもなる,というのが答えです.
同じページには,「問題の指示に従って問題の場面を捉える観点(例題では包含除)から,問題を解決するために,問題を捉え直す観点(例題では等分除)へと観点を変更し,問題を再構成しなければならない」とあるほか,読み進めていくと,表や図を用いた解説や,場面の理解の試みが見られます.


場面を素直に式にするとコレコレだけれど,そこから未知の数量を求めるにはコンナにするんだよ,というのは,算数教育では「逆思考」と呼ばれます.たし算の場面だけれどひき算で求める(たとえばhttp://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/02/page2_09.html)のは,加法逆の減法と言います.ですが,『文章題の完全習得学習と指導』では,「の」を取り除いて,加法逆減法と表記しています.たし算とひき算の間では「加法逆減法」「減法逆加法」「減法逆減法」を,かけ算とわり算の間では「乗法逆除法」「除法逆乗法」「除法逆除法」を,それぞれ考えることができます*1
このことと,「かけ算の順序」にも少し注意しながら,読んでいくと,除法逆乗法の例題に「みんなでタクシーにのります.5台のタクシーに分かれてのると,1台に4人ずつになりました.タクシーにのったのは,みんなでなん人でしょう.」(pp.86-87)とあり,「□÷b=c(等分除)」「c×b=□」にそのまま当てはめ,□÷5=4,4×5=20(5×4=20ではなく)と書いて,何の支障もありません.
続いて「えんぴつがたくさんありました.7本ずつくばったら,ちょうど,8人にくばれました.えんぴつはなん本ありましたか.」(p.87)については,わり算でいくなら□÷7=8で,かけ算の場面だと認識したときの式は7×8=56です.それに対し,同書に記された文字式「□÷b=c(包含除)」「c×b=□」に割り当ててみると,わり算の式は□÷7=8だけれど,かけ算の式が8×7=□となり,かけられる数とかける数が入れ替わってくるのは,興味深いところです*2
とはいえ,乗除算の逆思考を,授業で取り上げるなら,「紐を4等分した一つ分を測ったら9cmあった.はじめのひもの長さは何cmか」のタイプの方が,紐を使って操作できるし,「4等分」だからといって,9÷4にしてはいけないよといったことも学べるので,より良いように思います.「紐を…」については,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140131/1391118525で整理してきましたが,把握している中で最も古い『小学校指導書 算数編』は1978年発行,ということで『文章題の完全習得学習と指導』よりもほんの少し前となります.
上記とは別に,1つの場面に対して,包含除か等分除か---子どもたちはその用語を使わない(指導しない)のを前提としても---を考えさせるというと,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20121108/1352323800が思い浮かびます.
これらの事例と対比させると,除法逆除法に焦点を当てて時間をかけるというのは,「完全習得学習」と相まって,古くさいアプローチのようにも感じられます.

*1:「加法逆加法」「乗法逆乗法」は,ありません.□+x=yまたはx+□=yで表される場面から,□を求めるには,□=y−xと,ひき算をしないといけないからです.「減法逆減法」は,x−□=y⇒x−y=□,「乗法逆乗法」は,x÷□=y⇒x÷y=□と表せます.

*2:「□÷b=c」が,包含除に基づくというのなら,対応するかけ算の式は,「b×c=□」となるのが自然です.