いきなりですが問題です.
次の2つの数量で,比例するものはどれですか.全部選びましょう.
- 身長の伸び方と体重の増え方
- 直方体の形をした水そうに入れる水の量と水の深さ
- 1日の昼の長さと夜の長さ
- 底辺が一定な三角形の高さと面積
- 面積が一定な長方形のたてと横の辺の長さ
さっそくですが解答です.正解は2と4です.1と3と5は,比例の条件に当てはまりません.そして3は和一定(昼の長さ+夜の長さ=24時間),4は反比例もしくは積一定(たて×横=面積)です.1は,“ナントカ一定”にならない関係です.
元ネタは,東京都算数教育研究会による平成24年度実施学力実態調査の集計と考察〈数と計算 数量関係〉の第6学年 大問5です.平成22年度実施分にも同じ問題があります.
さらにですが問題です.
小学校で比例を学習するとき,2つの数量は必ず異質のものでしょうか?
異質というのは「単位が異なる」と言い換えることができます.
上の5つの「2つの数量」を見ると,同質すなわち単位が同じものは,比例でないことが分かります.この発見は,その出題に限った性質なのか,それとも,小学校では異質の2つの数量の間でのみ,比例を学習するのか…
本にあたると,反例が見つかりました.

新版 小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 6年下
- 作者: 山本 良和,筑波大学附属小学校算数部
- 出版社/メーカー: 東洋館出版社
- 発売日: 2011/10/22
- メディア: 単行本
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その右には「1辺の長さが2倍,3倍,4倍…となればまわりの長さも2倍,3倍,4倍…となっていく」「まわりの長さ÷1辺の長さ=4」*1と書かれています.ただし,その授業では「比例」という言葉を使いません.「比例」という用語を学習するのはその次の授業で,さらにその次,p.28でまた正方形を取り上げます.表のすぐ下に,「まわりの長さ÷1辺の長さ=4」「y÷x=4」「y=4×x」と式が並べられています.
この本でも,また他の算数の解説を見ても,異質な2つの数量の間で比例を学習すべきであるとは書かれていません.小学校学習指導要領解説 算数編を見ておきます.以下のページ番号はhttp://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/16/1234931_004_2.pdfのノンブルからです.「比例の意味」(p.206)として(ア)(イ)(ウ)を書いている中で,(ア)の最初に「二つの数量A,Bがあり」(p.206)とあり,そこからは,異質か同質かは問わないと読むことができます.
ここで「かけ算の順序」に視点を移し,式を見比べることにします.
正方形のまわりの長さの式は,小学校学習指導要領解説 算数編にも書かれています.「第4学年で,□,△などを用いた式を取り扱う場合としては,例えば,正方形の一辺の長さと周の長さの間の関係を□×4=△と一般的に表す場合が考えられる。」(p.159)のところです.第6学年には,正方形のまわりの長さの式は見られませんが,「比例の関係を表す式は,(ウ)の商をkとすると,y=k×xという形で表される。」(p.207)のもとで,y=4×xで表すことが期待されています.
□×4=△とy=k×xを見比べると,□をx,△をyにそれぞれ置き換えること,そして記号や文字を使った乗法の交換法則と,等号の可換性により,それら2つの等式が同等視できることになります.
とはいえ,「記号や文字を使った乗法の交換法則」や「等号の可換性」を使うのは,いわば代数的なアプローチです.小学校ではそのようなことをしませんし,『板書で見る…』においても,y=4×xと式に表したあと,□×4=△と比較したり,「これ,4年では□×4=△と習ったよ」と子どもが反応したりなどは,見当たりません.
とはいえ,□×4と4×xの違いはというと,Vergnaud (1983, 1988)などをもとに,具体的に書くことができます.
まず,□×4については,「正方形の一辺の長さを4倍すれば,まわりの長さになる」というわけで,倍概念が根拠となっています.
それに対し,y=4×xのほうは関数関係です.伴って変わる2つの数量xとy(正方形の一辺の長さとまわりの長さ)について,表や,商一定の式をもとに,比例であることを確認したら,比例の性質により,y=4×xと表されるというわけです.4は比例定数*2で,単位まで考えるならその単位はxとyから定まります.正方形の一辺の長さとまわりの長さの単位をともにcmとするなら,比例定数4の単位はcm/cm,というよりは単位なし(比例定数は無次元量)とみなすのが自然です.
倍概念と関数関係については,以下をご覧ください.
- Vergnaud, G. (1983). Multiplicative Structures, In Lesh, R. and Landau, M. (Eds.), Acquisition of mathematics concepts and processes, Academic Press, pp.127-174. isbn:012444220X
- Vergnaud, G. (1988). Multiplicative Structures. In Hiebert, J. and Behr, M. (Eds.), Number Concepts and Operations in the Middle Grades, Vol.2, pp.141-161. isbn:0873532651
- 『算数・数学科重要用語300の基礎知識』(p.187)
- 次のステップ
- 1988年のmultiplicative structures
(最終更新:2014-03-27 朝)