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負荷量計算に基づく組体操・7段ピラミッドの安全性について

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数学文化 第25号 特集=計算とアルゴリズム

数学文化 第25号 特集=計算とアルゴリズム

 またカラー画像入り(雑誌のほうはモノクロ)のセルフアーカイブhttp://yutaka-nishiyama.sakura.ne.jp/math/artpyramid.pdf*1よりアクセスできます.
 本文も参考文献も充実しており,137人による変形10段ピラミッドの構成が試みられているなど,勉強になりました.
 ただ,7段ピラミッド関連は,すっきりと読み通せませんでした.「9. 7段ピラミッドを推奨する書籍」というセクションがp.27の中ほどから始まり,p.30まで続くのですが,7段ピラミッドと関係があるのは,p.28のはじめ6行までで,あとは別のトピックです.7段ピラミッドのところに限って読むと,この組み方による事故例が出てこないため,負荷量計算以外の理由・観点で,なぜこの技が危険なのかが,読み取れません.
 危険性の判断に関して,p.27では、『組体操指導のすべて―てんこ盛り事典』の書名を挙げて,4段タワーを引き合いにしていますが,定量的ではありません.むしろ,同書p.92*2の「1:1の加重以上の負荷は、小学生段階では特に注意を要する。(略)どんなに見栄えがする技でも、それが1:1の加重以上になっていないか、判断してほしい」が量的な基準に関わってきます.
 数学文化の記事を離れて,https://github.com/takehiko/gfで公開済みのExcelワークシートをもとに,各演技者の負荷を見直してみました.以下で作成したExcelファイルは,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/files/trigonal7.xlsx?d=downloadよりダウンロードできます.
 まず,gfのexcel/sheet_opt_uni.xlsxにあるワークシートtrigonal7を,trigonal7_uniに,excel/sheet_opt_opt.xlsxにあるワークシートtrigonal7を,trigonal7_optにコピーします.前者は[西山2016]ほかの試算と同じ方法であり,各ポジションについて同じ値となっています.後者は,配置と計算方法は同じですが,体重を小学6年生を想定して,正規分布に基づき生成させ,自重に応じて配置しています*3
 コピー後の処理として,まず,左に2列,「列番号」「ソートキー」を設けました.列番号は,『組体操指導のすべて』pp.144-145および[西山2016]のpp.21-23と合うように振った,丸囲み数字です*4.ソートキーは,「荷重/自重」の列の“値をコピー”しています(これをせず,荷重/自重の列で表を並べ替えると,内部処理により値がおかしくなります).その後,リボンメニューから「並べ替えとフィルター>フィルター」を選択して,ソートキーの列のボタンを押して「降順」を選択し,荷重(割合)の大きいものから順に表示させました.
 結果ですが,上述の「1:1の加重以上」は,ソートキーの値が1以上の人が該当します.上から数えると,西山試算と同じtrigonal_uniでは15人,最適配置を試みたtrigonal_optでは14人でした.そこから例えば,自重を超える負荷がかかるのは55人中14〜15人,なので4分の1から3割の子が該当する危険な技だ,と判断することも可能です.
 しきい値で区切るだけでなく,せっかくソートをしたので,「荷重のかかる列」の検討をしてみます.並べ替えた状態で,上から,列番号の値を拾っていきます.すでに拾った番号は,飛ばします.それにより,1列目(最下段の最前面)から13列目(てっぺん)までの列ごとで,荷重(割合)の状況を知ることができます*5.trigonal_uniとtrigonal_optのほか,『組体操指導のすべて』p.145に載っている「力の負担の大きい順番」を,並べてみました.⑬は明らかに荷重ゼロなので,取り除いています.

  • trigonal7_uni:⑥ > ③ > ⑤ > ⑧ > ⑨ > ⑪ > ⑫ > ⑩ > ① > ② > ④ > ⑦
  • trigonal7_opt:⑥ > ⑤ > ③ > ⑧ > ⑨ > ⑪ > ⑫ > ④ > ② > ⑦ > ① > ⑩
  • 『組体操指導のすべて』:③ > ⑤ > ⑥ > ⑧ > ⑨ > ⑪ > ⑫ > ⑩ > ⑦ > ④ > ② > ①

 こうして並べると,まず,4〜7位の「⑧⑨⑪⑫」が3パターンとも,同じ順位になっているのが目を引きます.それより左の「③⑤⑥」で1グループ,右の「①②④⑦⑩」で1グループができています.ここで「③⑤⑥」は,最下段(四つんばい)の前から2列目・2段目(中腰)の前から2列目・最下段(四つんばい)の前から3列目が該当します*6
 最も負担がかかる者が,2つの試算と書籍とで,異なっているのは,大事なところかもしれません.『組体操指導のすべて』の55人ピラミッドの配置は,実践を通じた知見*7であることや,取り除いた⑬には荷重がかからない代わりに,下にできるだけ負担をかけないような「足さばき」や「バランス感覚」が求められ,それは負荷量計算には現れない*8ことも,忘れないようにしたいところです.


 [西山2016]のp.13(セルフアーカイブではp.2)に書かれている「人間ピラミッドは10段目で崩落することは負荷量計算により証明されている」「立体型ピラミッドは内部に崩壊する特性を持っている」は,しっくりきません.これらは負荷量計算に加えて,本文にない著者の「重い」,もとい「思い」により,得られる定理や特性ではないかと思っています.

*1:以前のURLはhttp://www.geocities.jp/ma85003/math/artpyramid.pdfhttps://www.osaka-ue.ac.jp/zemi/nishiyama/math/artpyramid.pdfでした.

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160406/1459954799を作りながら知って,記事には入れなかった件です.

*3:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160306/1457267583, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20151018/1445094000

*4:もとのExcelワークシートの「段」と「列」の値から,機械的に求められますが,面倒なので手打ちしました.

*5:列ごとの平均ではなく,最大値で比較しています.

*6:⑧は2段目の内部になります.「⑨⑪⑫」は後面,「①②④⑦⑩」は前面です.

*7:複数の書籍に載っていれば「安全」,というよりは,「十分に採用実績がある」ととらえるべきでしょうか.この本よりも前の2007年に,男女それぞれで55人ピラミッドをつくるという,TOSSランド投稿の提案文書を,先日はてブしました.

*8:計算において何を対象としていないかは,算出モデルや計算方法を示す側が明らかにしておきたいものです.http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160324/1458831599より:「内田氏の試算も,西山氏の負荷量計算も,そして当ブログで公表しているRubyExcelによるアウトプットも,「誰が誰にどれだけの割合の負荷を掛けているか」の積み重ねのみに基づいていています.(略)時間的変化や外に逃げること,もっと言うと左右の人どうしの影響(良いも悪いも)を,考慮していません.」