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組体操のピラミッド(俵型・三角錐型・クイック・足つき)について

 近年,運動会の組体操(組立体操)で見かける「人間ピラミッド」には,主に2つの組み方があります.「俵型」と「三角錐型」です.
 俵型(平面型,三角形型とも呼ばれます)とは,N段だと最下段にN人が横に並び,その上にN-1人として,1段増えるごとに横並びの人数を1人ずつ減らしていき,最上段(N段目)はたった1人となって,みな四つんばいになり正面を向く組み方です.見る側からすると,演技者全員が正面から見えます.ですので組み上がったあとの笛で,全員が顔を上げる,といったパフォーマンスも可能です.
 三角錐型(立体型とも呼ばれます)とは,最下段は台形の隊列で四つんばいとなり,立ち上がる最上段を除き,残りの者は中腰に似た姿勢をとり,背中に他の者が乗る組み方です.見る側からすると,4段以上の場合,正面から見えない人が出てきます.
 いずれのタイプも,高い段数を組み上げる際のリスクが認識され,自治体や学校で段数制限を行うようになってきました.高さはほどほどにして,広がりを見せながら一体のピラミッドを構成するというアプローチもあり,その場合,最上段が2人や3人になることもあります.
 より安全で効果的な技を,学校の先生方が追求していく中で,次の2つのピラミッドも知られるようになりました.「クイック」と「足つき」です.
 クイックというのは,学校の運動会では6人で構成し,完成形は3段になるのが一般的です*1
 はじめに6人は,伏せた状態をとります.それで合図がかかると(または自分たちの番になると),みんなが伸び上がってピラミッドの形態になります.最下段と中段は,起き上がるのに対し,最上段の人はジャンプして,膝を中段の人の腰の上に置きます.
 もう一度,合図がかかると,最上段の人は後方に飛び降りるとともに,全員が伏せて,最初の状態に戻ります.伏せる→組み上げる→伏せる→組み上げる…とすることで何度でも,瞬時にピラミッドができ,消えるという次第です.全演技者の数だけピラミッドを作り(例えば120人なら20個のピラミッドが横並びとなります),一斉起伏やウェーブによって,観衆にインパクトを与えることも可能です.
 「クイックピラミッド」は,「3段ピラミッド一気立ち」「ポップアップピラミッド」「一気(立ち)ピラミッド」「高速ピラミッド」と書かれることもありますが同じ技です.組み方のバリエーションとして,伏せた状態の最下段は体を伸びきっているか,それとも膝を折り曲げた状態にしているか,という違いも見られますが,それによって名称の区別がなされているようには思えません.
 足つきは,基本的に俵型ですが,下から2段目だけ,足を地面につけて中腰の姿勢になります.俵型と三角錐型の折衷タイプと言うこともできます.俵型と同じく,演技者全員が正面から見えます.(2019年6月に,より詳しい分析を行いました.いくつかの7段ピラミッドの構成と荷重計算よりご覧ください.)

事例

 俵型と三角錐型で高段のものについては,危険なケースとして分かりやすい例を見つけ,ここでリンクしていきたいと考えています.
 クイックですが,吉野義郎氏が手がけた次の2つの動画が参考になります.

 クイックをもう一つ.以下は,幼稚園の運動会の組体操動画です.2分過ぎから,下段から順を踏んで3段のピラミッドを完成させ,伏せてから,一気の完成を決めています.

 足つきで4段の実例(写真)を,以下より見ることができました.2015年の運動会です.

  • http://www.city.omura.nagasaki.jp/sanjyousyo/kyoiku/kyoiku/shiritsugakko/sho/sanjyo/katsudo/6nen/undoukai.htmlデッドリンク

 三角錐型で広がりを見せる組み方については,以下の記事よりご覧ください.

関連書籍など

組体操指導のすべて―てんこ盛り事典

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子どもも観客も感動する! 「組体操」絶対成功の指導BOOK

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運動会企画 アクティブ・ラーニング発想を入れた面白カタログ事典

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荷重計算(1)

 荷重計算の試みについて,体育科教育 2016年 05 月号 [雑誌]に寄稿した内容をベースに,その後得た情報を加え,ここで整理しておきます.
 インターネット上で読めるうち比較的古いものに,2005年のコンクール入賞作品があります.俵型を対象とし,5段までをおもりによる実測で,さらに12段までを手計算により算出して,同じ段でも,位置によって支える重さが異なることなどを明らかにしています.

 2016年2月には,俵型において,体重と段数を入力すると,つぶれたときの衝撃力を試算できる入力フォームが,Web上で公開されています.

 組体操のリスクを指摘してきた内田良氏は,三角錐型で10段および11段の人間ピラミッドについて負荷計算を行い,土台の者にかかる荷重を公表してきました.それによると,151人による三角錐型10段の場合,背面から2列目の中央部にいる生徒には3.9人分,196人による同11段では,最大4.2人分の荷重がかかります.

 数学者の西山豊氏は,2段から8段までの俵型,および4段から10段までの三角錐人間ピラミッドについて,各演技者の負荷量を算出し,最大荷重などを表にまとめるとともに,高段ピラミッドの危険性を指摘しています.

 また以下のページでは,三角錐型10段ピラミッドを対象として,さまざまな角度から見ることのできる3Dモデル,および10段までの各演技者にかかる負荷が,カラーになっていました.

 足つきについて,内田氏が「俵型のピラミッドで「7段」を記録した学校」として,事例を紹介しています.記事末尾の注2に「最下段は四つんばいの状態になり、下から2段目の生徒は、最下段の生徒の背中に手を乗せて、足は地面につける。つまり、下から2段目までは立体型の組み方を利用する。それより上は、通常の俵型の組み方になる」とありまして,この構成法は「足つき」です.本文に戻って,この組み方の「一人にかかる最大負荷は、3.81人分」としていますが,西山氏による表の「平面型・6段」の最大荷重と合致します.

荷重計算(2)

 上に挙げた試算では,どの演技者も同じ体重としています.
 私は2015年10月,自重や荷重割合などを任意に設定して試算のできるRubyスクリプトを開発しました.その後,より手軽に計算ができるよう,エクセル版も公表してきました.

 当ブログの記事を中心に,関連情報を以下にて取りまとめています.

 体育科教育 2016年5月号の記事では,荷重算出のモデル(荷重計算(1)で挙げた方々による試算も同様の方式です)についても解説しています.次の組み方から話を始めます(5人による組み方で,「やぐら」「山」などと呼ばれます).左右対称の形で,最下段は四つんばい,2段目は中腰でそれぞれ外側を向き,最上段は中腰の2人の上に立って正面を向きます.

 この図の左から2人目に着目して,荷重算出の考え方を示します.

 他の者(上位者)の手足を通じて,上から荷重がかかります.そこに自重が加わり,自分の手足を通じて下へ荷重をかけます.
 かける荷重は,実際の重量(実数)よりもむしろ,割合で指定するほうが計算しやすくなります.その場合,かける割合はいずれも0より大きく,各演技者の割合の合計は1以下となります.合計が1でないとき,地面に足をついていることを意味します.
従来の試算では「腕に3,足に7」の比で荷重をかける方針が,よく用いられています.割合に換算すると,左腕と右腕が0.15ずつ,左足と右足が0.35ずつです.俵型の場合や,三角錐型の最上段の者は,かける荷重が左と右で0.5ずつとなります.
 このモデルでは「荷重がかかる」「荷重をかける」関係のみに基づいています.考慮されていない中で特に記しておくべき要素として,各演技者の身長や腕・脚の長さ,倒立といった演技者の姿勢,そして肩などを隣り合わせることによる構造の変化(多人数で人間ピラミッドなどを構成する際に重みが外向きに広がる現象は「クリープ」と呼ばれます)が挙げられます.
 またこのモデルで算出する際,直接的な荷重と間接的な荷重との違いにも注意が必要です.5人のやぐらの図において,最上段の人が,直接,体をくっつけていない最下段の人に,どれだけの割合の負荷をかけているかは,設定しないようにします(もしすると,2重カウントとなってしまいます).ピラミッドの荷重計算においても同様です.
 俵型と三角錐型について,段数および人数を変化させたときの最大荷重を,以下にて取りまとめています.

 この記事の表において「一律1」は自重を全員1とする従来試算に基づくものです.「乱数」のほうは,まず体重を,政府統計の小学校6年と中学校1年の平均および標準偏差をもとに,正規分布に基づくランダムな値として演技者数だけ生成しました.そして配置については,最上段・上から2段目・土台以外・土台に分けた上で,従来試算での各演技者にかかる荷重の順位に応じ,生成した体重を割り当てました.より大きな荷重がかかる者にはより頑丈な者を配置する方針によって,人数が多くなるにつれて負荷の軽減が期待できます.
 自作スクリプトの初期バージョンは,任意の荷重関係を設定できるクラスと,俵型・三角錐型の荷重計算のみでしたが,のちに上述のやぐら,および足つきも,引数指定で算出できるようにしました.

ピラミッド間の関係

 「三角錐型3段」「クイック3段」「足つき3段」は,最上段の姿勢は異なるものの,完成形(荷重がかかる/荷重をかける関係)は同じとなります.4段もそれぞれ同じです.
 同種のピラミッド間では,俵型のN段は,俵型のN-1段の下に,N人が横並びとなっています(実際の組み上げ方は最下段のN人からですが).足つきも同様です.
 荷重に関しては,俵型のN段と足つきのN段は,最下段を除いて同じ荷重となり,最下段は,下から2段目の人が,体重のどれだけを最下段の人にかけるかに依存します.腕:足=3:7の比,および体重は一律という2つを仮定したとき,足つきのN段の最下段各演技者の荷重は,俵型のN段の最下段それぞれの3割となります.足つきのN段(N≧3)において,最大荷重は下から2段目で中央の者(偶数並ぶときは2人)となります.俵型の負荷量の表を用意しておけば,そこから足つきの負荷量も容易に計算できます.
 三角錐型のN段も,三角錐型のN-1段の下に,最下段に台形の隊列で並ぶという関係です.ここで上からk段目(1≦k≦N)の人数は,Nに依存することなく求められます.
 k=1のときは1人だけ,k=2,k=3のときは横並びの2人だけです.
 4≦k≦Nのときは,最前列にk人,後ろの列にk-1人,と減っていきまして,列数lは床関数(小数部分切り捨て)を用いてl=\lfloor\frac{k}{2}\rfloorと表せます.この段の人数は,初項がk,公差が-1であるような等差数列の先頭からl個(第l項はk-l+1であり,その段のもっとも後ろの列には,k-l+1人が並ぶことを意味します)の総和ですので,\frac{l(k+k-l+1)}{2}kl-\frac{l(l-1)}{2}と表されます.

クイックをめぐって

 クイックピラミッドでは,荷重(負荷)計算の試みが見当たりません.段数が少ないほか,完成形よりも起伏時の動作が重要視されるためです.
 またクイックは,空間上に互いの意図する造形を構築し,美の共同感ともいうべき雰囲気を味わうことができる(「組立体操」の特徴であり,他のピラミッドも該当します)のに加えて,互いに力を貸したり,体重を利用し合ったり,体のもつ特質や技術を提供し合うことによって,一人では得られない効果を得ることができる(これが,浜田靖一氏や日本体育大学 体操教室の唱える「組体操」です)という特色も持っています.
 クイックに関して,いくつか関連情報を紹介します.以下では,「3段ピラミッド一気立ち」を中心にDVD教材作成について成果報告をしています.

 この件,前述の西山「組体操・人間ピラミッドの巨大化を考える」でも引用されていますが,そこでは「3段ピラミッド一気立ち」のほか,浜田の組体操の考え方や,死者・重傷者を出した事例に配慮の上で,吉野が指導や教材開発を行ってきたことに触れられていないのは,残念に思います.
 次に,『教育という病』p.66では,次の文章が1つの段落となっています.

 埼玉県組体操協会が開催した第4回全国組体操講習会のチラシには、「大好評! すぐに実践できる『大ピラミッド』『ポップアップピラミッド』そして『ウィングピラミッド』のポイントを徹底講習」と大きな見出しがある。多大なリスクを抱えた種目の紹介とは思えないフレーズである。

 大ピラミッドの段数や構成人数は不明です*2が,さまざまなピラミッドを一緒くたにしている印象を持ちます.なお,「ポップアップピラミッド」は上で書いたとおりクイックと同じです.「ウィングピラミッド」は三角錐型(足つき)3段の完成形から,最下段の端の2人が外れる形をいいます.そこからさらに,最下段の真ん中の人も抜けた「スカイピラミッド」というのも考案されており,小学校教諭で埼玉県組体操協会の方が著者の『いまこそ安全!組体操〜「高さ」から「広がり」へ!新技50〜』に収録されています.
 これらについて,次のように認識しています.高段ピラミッドや補助倒立・サボテンを取り上げながら,「これまで学校でなされてきた組体操は危険だ」と唱えてきた人々が,ここ数年の間に開発され展開してきたクイックピラミッド---いくつもの別名の存在が,その普及を示しています---に対しては,意義もリスクも,きちんと提示することが,できない状態となっています.
 さて,当ブログでクイックピラミッドを好んで取り上げているのには,いくつか理由があります.もっとも大きいのは,本で読んでちょっと面白いなと思った数日後に,子どもが通う小学校の運動会にて,5・6年生が演じる組体操のトリを,(名称のアナウンスはありませんでしたが)クイックピラミッドの一斉起伏とウェーブが飾っていたからでした.また別の事情として,クイックピラミッドについて整理した記事に対し,「組体操 技」といった検索語でアクセスがありまして,関心がある人は少なくなさそうに思っているのです.

*1:学校の運動会という枠を外すと,wikipedia:人間ピラミッドでは,4段や5段の「瞬間起立ピラミッド」が取り上げられています.

*2:https://twitter.com/ryouchida_riris/status/512132251266473984によると,2014年7月19日に実施された第4回全国組体操講習会の他サイト開催案内を2か月後に知ってツイートしています.archives.orgで埼玉県組体操協会を調べたところ,2014年はなく,http://web.archive.org/web/20150426233059/http://kumisaitama.jimdo.com/が最も古いのですが,第五回全国組体操講習会2014.9.6に「⑦ピラミッド(栗原)「四角錐型VS三角錐型大ピラミッド徹底解説」」というのが入っています.