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組体操の伝言ゲーム〜サボテン,平均

http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryouchida/20160502-00057143/の写真のキャプション「初歩的な技として知られる「サボテン」」*1について,関連情報が見つかりました.体育科教育 2016年 05 月号 [雑誌]のp.25最下段です.

「倒立」や「肩車」「サボテン」は決して初歩的ではなく,事故が起きやすい技であることを認識した上で,学校の先生方には無理のない組体操のメニューに取り組んでいただきたいと切に願う。(以下略)

「初歩的ではなく」です.
執筆者は細川暁子氏で,座談会の参加者の1人ですし,ピラミッド体験などもされています.
荒木教授の指導を受けたり,座談会ほかで意見交換をしたりする中で,誰かが「サボテンは決して初歩的ではないが…」とおっしゃったのを受けて,内田氏と細川氏がそれぞれ,上記のとおり書いたのではないかと想像します.
細川氏の記事(組体操事故を追いかけて. 体育科教育2016年5月号, pp.22-25)の別のところを読んで,ぎょっとしました.以下の箇所です(p.24).

数学が専門の大阪経済大学情報社会学部の西山豊教授によると、1人の平均体重を50kgとすると、「平面型(俵型)」5段ピラミッドの最下段の中央には156kgの負荷がかかる(図2)(3)。(以下略)

本文では上付き文字で書かれた(3)は,末尾の注によると,東京新聞の以下の記事です.執筆者も同じで,こに載っている「平面型の5段ピラミッドで受ける負荷」の画像が,上記の図2と一致します.

何にぎょっとしたのかというと,図ではなく文章,具体的には試算における「1人の平均体重を50kg」の出現箇所です.上の書き方だと,5段ピラミッドを構成する15人の体重には多少があるけれど,平均すると50kgだと読めます.
そうすると,配置によって負荷が変わってきます.下段に重い者を割り当てるのが自然ですから,その分,上段の体重は平均より下がり,負荷はより小さくなる,と推論することもできます.
元となっている計算では,どう書いてあるか,西山教授がつくられたPDFファイルを,読み直しました.

このPDF文書では,最初に「体重はみんな同じとします。」と断っています.平面型は荷重(何人分の重みを受けるか)の値のみで,p.3の最後の行で算出した3.125が,5段にしたときの最大負荷となっています.体重換算は見当たりません.
ただし三角錐のタイプでは,最大負荷量算出のあと,体重に換算しています.該当箇所は以下のとおり.

最大負荷量は3.93人分であるが、中学2年男子(平均48.8キロ)で190キロ、中学3年男子(平均54.0キロ)で211キロの重量になる。高校2年男子(平均61.0キロ)で238キロ、3年男子(平均62.8キロ)で245キロになる(以下略)

西山教授のもう一つのPDFファイルでは,俵型の荷重(体重)計算も,書いてあります.

ピラミッド5段は平面型と立体型では最大負荷量が大きく違う.東京新聞に確認したところ千葉県の事故は平面型の5段であった.平面型の5段は,最大負荷量が3.1人分であり,中3男子の平均体重を50キロとすると156キロになる(図23).大阪市教委の規制を誤解している指導者が多いと思われたので,私は大阪市教委に平面型か立体型かを明記することを要望した[30].

いずれも,みな同じ体重として試算し,「平面型の5段は,最大負荷量が3.1人分」を得た上で,これでは重量が分かりにくいであろうから,例えば「中3男子の平均体重」の「50キロ」に,この値をかけて,換算したという流れです.この展開であれば,驚きません.そして次のステップとして,演技者の体重が違っていたら,荷重はどうなるのかだとか,ピラミッドでは外に力が逃げていきやすいことに対して,どのような補助が有効となるのか*2などを,議論しやすくなります.


上で引用したうち「事故が起きやすい技である」についても,精密化が可能ではないかと思っていまして,メモを残しておきます.アイデアは,情報セキュリティや原発その他で見かける「確率モデル」を,組体操(組立体操)の個別の技に適用できないか,ということです.
具体的には,「技の実施回数×事故の発生確率=事故の発生数」という式で表します.
そうしたとき,高段ピラミッドは,技の実施回数は少ないけれども,事故の発生確率*3は高いので,事故が起こるのであり,それに対して2人技の補助倒立やサボテンは,事故の発生確率は小さくても実施回数が多い(単純計算で100人なら50回になる)ため,事故発生(そして報告)の件数が多く出る,というわけです.
同じ「事故が起きやすい技」でも,安全にするための対策が違ってきます.

(リリース:2016-05-26 早朝)

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160513/1463089017

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160324/1458831599で少し書きました.「補助」に関して,外に流れようとする力を,外部の補助者がそのまま返したら,静的な状態と同様の負荷となりますが,例えば少し上方向に押す(下支えする)ことや,危ないところを外から見定めて補助者が動くこと,もっと言うとピラミッドの各演技者の負荷は動的に変化するのを前提として,演技者・補助者が連携することで,ケガなく成功する可能性は高まるだろうと想像します.もはやその実証は困難ですが.

*3:段数にも依存します.7段の三角錐型は,実施回数も多いはずですが,事故の発生確率も,事故の発生数も明らかになっていません.http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160409/1460156285の「ただ,7段ピラミッド関連は,すっきりと読み通せませんでした」から始まる箇所について,私は8段以上よりは事故の発生確率が少なそうだと認識し,それに対して西山教授のスタンスは10〜11段と同等の危険性(事故の発生確率)を想定すべきだと,解釈することができます.