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組体操の技「クイックピラミッド」について

近年,運動会の組体操(組立体操)で見かける「人間ピラミッド」には,主に3つのタイプがあります.「俵型」と「三角錐型」と「クイック」です.俵型と三角錐型については,しばしばリスクや,段数制限の必要性が指摘されています*1.本日は「クイックピラミッド」に焦点を当てます.「組体操は学習指導要領に記載がない」を起点にで取り上げて以降,得た情報も書いていきます.
作り方は,下図のとおりです(『子どもも観客も感動する! 「組体操」絶対成功の指導BOOK』p.47).

6人で行います.イラスト中央の完成形から見ると,最下段の3人は四つんばいで,膝から足先までと手を,地面につけます.中段の2人は,中腰(鉤形)の姿勢で足は地面,手は最下段の人の背中です.そして最上段は1人で,四つんばいの姿勢をとり,手は中段の人の背中(肩に近いところ),膝は中段の人の腰元となっています.全員が正面を向きますし,正面から見て,隠れてしまう人はいません.
ですが,この完成形は,最下段が四つんばいになって,次に中段の人が…というのではなく,ワンテンポで一気に組み上げます.そのための準備が,イラスト左に描かれています.すぐに体を伸ばせるよう,全員がちぢこまり,頭を下げておきます.最下段になる人は,肘から先と膝から先を,地面につけます.中段・最上段の人はというと,足は地面で,お腹と腕は,下になる人の背中にくっつきます.
それで合図がかかると(または自分たちの番になると),みんなが伸び上がります.最下段と中段は,完成形の姿勢になります.最上段の人はジャンプし,先述のとおり,膝を,中段の人の腰の上に置きます.
もう一度,合図がかかると,最上段の人は後方に飛び降ります.その際,最下段・中段の人の足を踏まないようにする必要もあります.最下段・中段の人は,準備の状態に戻るだけです.飛び降りた最上段の人が,準備と同じ状態になれば,伏せる→組み上げる→伏せる→組み上げる…で何度でも,瞬時にピラミッドができ,消えるという次第です.


この組み方を解説した動画もあります.ここでは技の名称が「3段ピラミッド一気立ち」となっています.

よしのよしろう(吉野義郎)という指導者の名前は,10段や11段の三角錐型ピラミッドの推進者*2ということでよく見かけ,批判されてきました.「3段ピラミッド一気立ち」も「10段ピラミッド」も,教職修士を得るために提出した成果の概要(http://repository.hyogo-u.ac.jp/dspace/bitstream/10132/6919/1/YW40202022.pdf)より,読むことができます.兵庫教育大学教職大学院の指導教員(増澤康男)との連名による解説(http://e-tech.life.hyogo-u.ac.jp/j-leader/weblib/data/49.pdf)でも,最初のページに,3段ピラミッド一気立ちが取り上げられています.
埼玉県組体操協会では,「ポップアップピラミッド」と呼んでいます.横一列に組んで,一気に立ったり伏せたり,順番(ウェーブ*3)にしたりしています.動画を探してみたところ,画質が良くない上に,ポップアップピラミッド単体の解説は見当たりません.ともあれ,https://www.youtube.com/watch?v=ZI9Qz5bKN2Ihttps://www.youtube.com/watch?v=ynuweu23e9gが参考になるのではと思います.
https://www.youtube.com/watch?v=h6SkSguZyAsは,幼稚園の運動会での組体操です.2分過ぎから,下段から順を踏んで3段のピラミッドを完成させ,伏せてから,一気の完成を決めています.


書籍からだと,技の解説の代わりに,動画を見て採用したというのがあります(『組体操指導のすべて―てんこ盛り事典』p.21; 転載元).

(4) 大技を決める
これもテーマに沿って考えていく。今回とても参考になったサイトを紹介する。それは、You Tubeだ。You Tubeで「組立体操」や「組体操」と検索すると様々な動画がヒットする。これらの中には非常に役に立つものも多い。その中でも、よしのよしろう先生の組体操の動画が一番役に立った。よしのよしろう先生の動画は、彼が考え出した技を解説付きで紹介してくれている。たいへん分かりやすい動画である。その中から、「一気扇」と「一気ピラミッド」を採用した。これらの技の詳細は、よしのよしろう先生の動画に詳しいのでここでは省略する。簡単に説明すると、一気に5人で扇を作ったり、一気に3段ピラミッドを作ったりできるのだ。作るだけではない。壊すのも一気に行えるのである。だから、繰り返し作ったり、壊したりできるすぐれものである。これこそ、私が考えたテーマにぴったりであったので、採用した。運動会当日もこの大技で大歓声が起きた。拍手が鳴り止まなかった。

これを読むと,昨年秋に見せてもらった,うえの子の運動会のことを思い出します.5・6年生が組体操をしていました(うえの子を含む1・2年,そして3・4年は,それぞれダンスでした).はじめはいくつか1人技,そして人数の多くなる技へと展開し,ラス前に,女子だけで4段の三角錐型ピラミッドと,男子だけで4段のタワー(円塔タイプで,下2段は立たない)をつくっていました.それなりに拍手もありました.ですが最も拍手を得ていたのはラストでした.横並びで正面を向き,クイックピラミッドの一斉起伏を数回したあとウェーブでした.
他の本を見ていきましょう.まずは…『DVD付き みんなが輝く組体操の技と指導のコツ (ナツメ社教育書ブックス)』では,pp.72-73より見ることができます.技の名前は「高速ピラミッド」です.カラー写真で解説されています.準備段階の中段の人は,片膝をついて最下段には密着しておらず,中段の隣り合う2人は腕を交差させている*4など,冒頭のイラストと少し異なっているところもあります.
昨年刊行された『楽しい体育の授業 2015年 09月号』(http://www.meijitosho.co.jp/detail/11312より,電子書籍版を購入できます)では,p.9に「一気立ちピラミッド」を取り上げています.やり方は,ここまで書いてきた内容から大きく離れていませんが,最後の写真では土台が4人になっているものが見られ,バリエーションとして興味深いところです.
段数を増やせるでしょうか.wikipedia:人間ピラミッドでは,「ブラジルのニテロイのチームが披露した瞬間起立四段ピラミッド」というのが,イラストつきで解説されています.俵型の4段と同じように10人,それと補助1人で実施します.ですが学校教師向けの組体操の本で,これを取り上げたものは,見当たりません.


まとめに移ります.「クイックピラミッド」「3段ピラミッド一気立ち」「ポップアップピラミッド」「一気(立ち)ピラミッド」「高速ピラミッド」と,名称には違いがありますが,6人で構成し,四つんばいが3人・中腰(鉤形)が2人・トップが1人で,タイミングよく起こし,そして伏せるのは,共通しています.
ところで,この技は,「組体操」なのでしょうか,それとも「組立体操」なのでしょうか.組体操と組立体操の違いについて,当ブログでは2月2日付で取り上げていましたが,体育科教育 2016年5月号でも言及がありました*5
そこで指摘されている(p.12),「互いに力を貸したり、体重を利用し合ったり、体のもつ特質や技術を提供し合うことによって、一人では得られない効果をねらう体操です」という,組体操の特性は,クイックピラミッドも該当するように思えます.ワンテンポで,3段のピラミッドを作るために,最上段の人がタイミングよくジャンプし,最下段・中段の人はそれをサポートすることになるからです.途中にリンクした,幼稚園の運動会の組体操の動画では,先に何ステップかを要して,クイックピラミッドの完成形をつくり,それから伏せて,ワンテンポで再現しています.そうしたとき,準備の組み上げ段階は,クイックピラミッドのインパクトを示すことにつながっています.
とはいえ「ピラミッドのようなモニュメントや自然界の景勝など,空間に互いの意図する造形を構築し,美の共同感ともいうべき雰囲気を味わうもの」というp.13の指摘にも,クイックピラミッド(6人1組のみならず,多数による一気起伏やウェーブも)が合致するのは,間違いのないところでしょう.
先日*6,組体操は「安全-危険」の軸と「成功-失敗」の軸が考えられるのではないかと書きました.本日は,さらに別の軸として,どのくらいよく,指導や,運動会で披露がされているのかというのが,取り入れられるのではと思いました.二字熟語なら「頻繁-稀有」でしょうか.これまでの2つの軸と同様,組体操の指導・実践において普遍的なものではなく,時期やコンテキストなどにより,変わりえます.
クイックピラミッドを,この3つの軸に照らし合わせてみます.まず安全か危険かについて,事故事例は不明ですが,より高い段の俵型・三角錐型よりは“安全”と言って差し支えないはずです.動画や図書からハウツーや注意点を学ぶことができ,我が子の小学校のやり方を思い出しても,“成功”しやすい技と言えます*7.解説や動画の状況は,“頻繁”に行われてきた(今後も行われるであろう)ことを示唆しますが,組体操・組立体操を特集した「体育科教育」には言及がなかったのと,昨今のピラミッド禁止の煽りを受けて,この技も採用されなくなる可能性もあります.過去に目を向けると,クイックピラミッドの発祥がいつどこ誰なのか,実は私自身,これから探求しようと思っているところなのです.

他の種類のピラミッドも取り上げながら,以下の記事で整理を試みていますので,あわせてご覧ください.

当ブログの執筆者は,情報工学を専門とする研究者・大学教員であり,小中高の教育には携わっておりません.ただ,縁あって,「体育科教育」2016年5月号に寄稿いたしました.以下もご覧くださるとありがたいです.

*1:例えばasin:B01BU6IYK0の表紙は,10人で組む,俵型の4段ピラミッドです.同誌p.20の図や,isbn:9784535602557の裏表紙で見ることができるのは,三角錐型です.

*2:例えば,https://www.youtube.com/watch?v=GGpyLGk_pYkhttp://datazoo.jp/tv/%E7%88%86%E7%AC%91%E5%AD%A6%E5%9C%92%E3%83%8A%E3%82%BB%E3%83%90%E3%83%8A%E3%80%9C%E3%83%AB%EF%BC%81/595694

*3:比較的見やすい動画には,よしのよしろう編のhttps://www.youtube.com/watch?v=y8--cs0Ad9sがあります.

*4:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160220/1455980398より:「リンク先の記事では,2つの情報源からピラミッドにおいて隣同士で腕をクロスするかしないかを取り上げながら,「中身はまったく逆のことが書かれている」と主張しています.これについては,通して読んで,妙な思考停止だなと感じました.私自身,小学校教師ではありませんが,先生方が当然のように行う「教材研究」を,組体操指導にも適用すればいいのではというのが,最初に思い浮かびます.専門用語を用いずに表現するなら,こうです:異なる方法が書かれていて,どっちにすればいいのなんてことで戸惑う必要はなく,クロスすべきか否かは,教師ら,また演技をする子どもたちが,実際に組んで確かめればいいのです.」

*5:荒木達雄: 組体操・組立体操の歴史と教育的価値―濱田靖一の思想に学ぶ, pp.12-17.

*6:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160411/1460322931.これは「組体操の荷重計算をエクセルで」の掲載誌を見るより前に,書いたのでした.

*7:実際に技が完成できることと,運動会で好評を得ることという,両方の意味を含みます.