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クイックピラミッドは組体操なのか,組立体操なのか〜2018年の本を読んで考える

安全に配慮した組体操・組立体操の指導法 DVD付

安全に配慮した組体操・組立体操の指導法 DVD付

著者である三宅良輔・日本体育大学教授について,ブログ内を検索すると,組み体操(サボテン・倒立・肩車)について思うことで名前を書いていました.
それはさておき今回の本です.購入したのは,クイックピラミッドの作り方を解説していたからです(p.63).

解説文の中で特徴的なのは,下段の3人は腕をクロスさせないこと*1です.一方,下段の人の足先(伏せの状態で,足を立てておくか,つま先を伸ばすか)については,DVDを見て判断できる情報は入っていませんでした.
ジャケットの裏と,目次の前の「はじめに」(p.3)に,組体操と組立体操の違いが書かれていました.「はじめに」のほうを書き出します.

先生方は「組体操」と「組立体操」の違いをご存じでしょうか。組体操は2人以上の人が組んで動くパートナー体操やグループ体操のことです。そして、この中でさらに表現的な造形をつくるものが組立体操です。危険が伴うタワーやピラミッドは組立体操の中の1つなのですが、「組体操は危ないから全部やめる」という誤解が生じています。まず、この「組立体操」と「組体操」の違いを知っていただきたいと思います。

「この中で」とあることから,組立体操は組体操の一部であると読むことができます.組立体操の技は,組体操の技である(逆は真ならず)ということです.組体操の例として「地蔵倒し」を紹介しています(p.18, p.39).
ただし,本文でも,DVDでも,それぞれの技が組立体操か,組体操かを,とくに明確にはしていません.上で貼り付けた画像の左上に,「組体操」と表示されていますが,これを含む各技のタイトルでは「組体操・組立体操」となっています.
クイックピラミッドは他の多人数技と同様に,表現的な造形をつくるものだから「組立体操」であり,組んで動くので組体操の要素も十分に含まれていると,思ってよさそうです.


過去の記事より*2


ポイントは,このピラミッドが決まったときの2段目の人の姿勢です.中腰なのです.
素直に思い浮かぶ,3段のピラミッドというと,まず下に3人が四つんばいになり,その上に2人が乗って四つんばいになり,そして最後に1人が乗る…なのですが,それではクイックにできません.「せーの」の号令の次の瞬間,最下段の3人は四つんばいになり,2段目は中腰,そして上に来る1人は,2段目の2人の背中に跳び乗ることで,すぐに3段のピラミッドができる,というわけです.

「組体操は学習指導要領に記載がない」を起点に
  • 5・6年生が組体操をしていました.ラス前に,女子だけで4段の3次元ピラミッドと,男子だけで4段のタワー.最後は横並びで正面を向き,クイックピラミッドの一斉起伏を数回したあとウェーブしていました.
小学校の運動会でコナミとドラクエ

組立運動はスタントピラミッド(STUNT PYRA MID)とかピラミッドビルディング(PYRAMID BUILDING)とか呼ばれて,学校教育の中では運動会や体操発表会などで,かなり昔から親しまれ,よろこばれてきた種目である。
この本で扱う組体操の方は徒手体操の中で,1人で行なうよりも2人,またはそれ以上の人数の人達が組んで力を貸しあったり,重さや抵抗を与えあったりして効果をあげようとする方法で,組立運動のように表現的ではないが,かなり面白くこれも昔からちょくちょく行なわれていたものではある。

驚いた?! 人間ピラミッドって組体操じゃなかったの?

『組体操指導のすべて』には,ポップアップピラミッド(クイックピラミッド)が見当たらないなあ,あれのやり方や安全性が,文字になっていればなあ…と思いながら,先頭から読んでいると,すごいのが目に飛び込んできました(p.21,著者は和歌山県太地町立太地小学校 沖平和生).

(4) 大技を決める
これもテーマに沿って考えていく。今回とても参考になったサイトを紹介する。それは、You Tubeだ。You Tubeで「組立体操」や「組体操」と検索すると様々な動画がヒットする。これらの中には非常に役に立つものも多い。その中でも、よしのよしろう先生の組体操の動画が一番役に立った。よしのよしろう先生の動画は、彼が考え出した技を解説付きで紹介してくれている。たいへん分かりやすい動画である。その中から、「一気扇」と「一気ピラミッド」を採用した。これらの技の詳細は、よしのよしろう先生の動画に詳しいのでここでは省略する。簡単に説明すると、一気に5人で扇を作ったり、一気に3段ピラミッドを作ったりできるのだ。作るだけではない。壊すのも一気に行えるのである。だから、繰り返し作ったり、壊したりできるすぐれものである。これこそ、私が考えたテーマにぴったりであったので、採用した。運動会当日もこの大技で大歓声が起きた。拍手が鳴り止まなかった。

「組体操は危険だからやめてほしい」「やめます」の事例研究

組体操と組立体操の違いについて(略)体育科教育 2016年5月号でも言及がありました.
そこで指摘されている(p.12),「互いに力を貸したり、体重を利用し合ったり、体のもつ特質や技術を提供し合うことによって、一人では得られない効果をねらう体操です」という,組体操の特性は,クイックピラミッドも該当するように思えます.ワンテンポで,3段のピラミッドを作るために,最上段の人がタイミングよくジャンプし,最下段・中段の人はそれをサポートすることになるからです.途中にリンクした,幼稚園の運動会の組体操の動画では,先に何ステップかを要して,クイックピラミッドの完成形をつくり,それから伏せて,ワンテンポで再現しています.そうしたとき,準備の組み上げ段階は,クイックピラミッドのインパクトを示すことにつながっています.
とはいえ「ピラミッドのようなモニュメントや自然界の景勝など,空間に互いの意図する造形を構築し,美の共同感ともいうべき雰囲気を味わうもの」というp.13の指摘にも,クイックピラミッド(6人1組のみならず,多数による一気起伏やウェーブも)が合致するのは,間違いのないところでしょう.

組体操の技「クイックピラミッド」について

はじめに6人は,伏せた状態をとります.それで合図がかかると(または自分たちの番になると),みんなが伸び上がってピラミッドの形態になります.最下段と中段は,起き上がるのに対し,最上段の人はジャンプして,膝を中段の人の腰の上に置きます.
もう一度,合図がかかると,最上段の人は後方に飛び降りるとともに,全員が伏せて,最初の状態に戻ります.伏せる→組み上げる→伏せる→組み上げる…とすることで何度でも,瞬時にピラミッドができ,消えるという次第です.全演技者の数だけピラミッドを作り(例えば120人なら20個のピラミッドが横並びとなります),一斉起伏やウェーブによって,観衆にインパクトを与えることも可能です.
「クイックピラミッド」は,「3段ピラミッド一気立ち」「ポップアップピラミッド」「一気(立ち)ピラミッド」「高速ピラミッド」と書かれることもありますが同じ技です.組み方のバリエーションとして,伏せた状態の最下段は体を伸びきっているか,それとも膝を折り曲げた状態にしているか,という違いも見られますが,それによって名称の区別がなされているようには思えません.

組体操のピラミッド(俵型・三角錐型・クイック・足つき)について

『教育という病』p.66では,次の文章が1つの段落となっています.

埼玉県組体操協会が開催した第4回全国組体操講習会のチラシには、「大好評! すぐに実践できる『大ピラミッド』『ポップアップピラミッド』そして『ウィングピラミッド』のポイントを徹底講習」と大きな見出しがある。多大なリスクを抱えた種目の紹介とは思えないフレーズである。

組体操のピラミッド(俵型・三角錐型・クイック・足つき)について

*1:同じページの,6人組3段ピラミッドでは,垂直でもクロスでも構わないと書いた上で,クロスすることを推奨しています.https://www.jpnsport.go.jp/anzen/Portals/0/anzen/anzen_school/H29seikahoukokusyo/H29seikahoukokusyo_2_zitugi.pdf#page=5では,荷重変動・重心変動の比較がスライドになっています.

*2:記事の抜き出しが,本論よりも多くなってしまいましたが,これは当初,クイックピラミッド関連でMyBestの記事を作ろうとしていたためです.