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a×b=b×aの証明

いきなりですが問題です.

任意の整数a,bについてa×b=b×aを証明しなさい.

元ネタとなるツイートがあったのですが,「このページは存在しません。」になっています.「2018東大」と書かれていたものの,2018年度入学者向けの東大の入試で実施済みなのは,今月16日・17日の推薦入試の面談(http://www.u-tokyo.ac.jp/content/400065221.pdf#page=5)のみでして,そこで上記の問題が出たとは考えにくいです.

任意の「自然数」(正の整数)a,bに対して,a×b=b×aであることの証明は,高木貞治『新式算術講義』にあります.筑摩書房の文庫本ならpp.26-28ですが,国立国会図書館デジタルコレクションで読むこともできます.簡単にいうと,累加に基づき乗法を定義してから,分配法則,結合法則,交換法則の順に,示しています.

新式算術講義 (ちくま学芸文庫)

新式算術講義 (ちくま学芸文庫)

といったところで証明です.

高木貞治『新式算術講義』の乗法の定義および「交換の法則」の証明は,a≧1およびb≧1を対象として記述されている.これを現在の書式に変更したのち,任意の整数a,bについてa×b=b×aが成り立つことを示す.以降で明示しない場合,それぞれの文字のとる範囲は自然数とする.
乗法の定義は,以下の2つの式で表される.
a×1=a
a×b=a+a+…+a (aをb個足し加える)
これらの定義から,a×1=1×a=aとなる.
はじめに,
(b+c)×a=b×a+c×a  【1】
を示す.『新式算術講義』によると,左辺はb+cをa個足し加えた和,すなわち
(b+c)×a=(b+c)+(b+c)+…+(b+c)
であるが,この右辺について加法の交換法則(a+b=b+a)を用いて順序を変更すると,
(b+c)+(b+c)+…+(b+c)=(b+b+…+b)+(c+c+…+c)
と表すことができ,この右辺は,「bをa個足し加えた和」と「cをa個足し加えた和」との和であるから,結局b×a+c×aである.これで【1】が示せた.
次に,【1】において項の数を増やしても,式が成り立つこと,具体的には以下の等式を示す.ただしn≧2とする.
(b[1]+b[2]+…+b[n])×a=b[1]×a+b[2]×a+…b[n]×a  【2】
『新式算術講義』では具体的な証明が書かれていないが,数学的帰納法を用いるとよい.まずn=2のとき,【1】においてb=b[1],c=b[2]とすれば,(b+c)×a=b×a+c×aは(b[1]+b[2])×a=b[1]×a+b[2]×aとなり,【2】が成り立つ.
次に,帰納法の仮定として,n=kのときに成り立つとする.具体的には
(b[1]+b[2]+…+b[k])×a=b[1]×a+b[2]×a+…b[k]×a
である.このとき,
(b[1]+b[2]+…+b[k]+b[k+1])×a
  ={(b[1]+b[2]+…+b[k])+b[k+1]}×a
  =(b[1]+b[2]+…+b[k])×a+b[k+1]×a
  =b[1]×a+b[2]×a+…+b[k]×a+b[k+1]×a
となる.2番目の等号では,b=b[1]+b[2]+…+b[k],c=b[k+1]として【1】を適用しており,3番目の等号では帰納法の仮定を用いた.よってn=k+1のときにも,【2】が成り立つ.これで【2】が示せた.
【2】において,b=n,b[1]=b[2]=…=b[n]=1とすると,以下の等式を得る.
(1+1+…+1)×a=1×a+1×a+…+1×a
両辺に出現する和はそれぞれ,同じものをb個(ただし,b≧2)足し加えたものである.左辺のうち1+1+…+1はbに等しいので,左辺はb×aと表せる.また右辺は(a+a+…+aとしたのち)a×bに等しい.ゆえにa×b=b×aが,aとbの一方が自然数,他方が2以上の整数の場合に示せた.これとa×1=1×aを合わせると,任意の自然数に対してa×b=b×aが成り立つことになる.
0や負の数を含む場合には次のようにする.まずaとbの少なくとも一方が0と等しい場合には,a×bもb×aも0と等しい.aが負でbが正の場合,(−a)×b=b×(−a)が成り立つことを使用し,(−a)×b+a×b=0およびb×(−a)+b×a=0を別に示しておき整理すると,a×b=b×aとなる.aが正でbが負の場合は(−b)×a=a×(−b)を用いる.最後に,aもbも負の場合は,(−a)×(−b)=(−b)×(−a)を用いればよい.

書き終えて言うのも何ですが,厳密な証明とはなっていません.加法の交換法則や等号の対称性(x=y⇔y=x)を証明・説明することなく使用していますし,上記においてa×1=1×aを分けましたが,【2】においてn≧1のときにも成り立つとすれば,分ける必要はないのでした.負の数の場合は端折りすぎでして,筑摩書房の文庫本ではpp.73-76,国デジではhttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/827403/52以降に記されており,鍵となる等式はa×(−1)=−aのようです.「現代の表記」と書いたものの,b[n]ではなくb_nと書くべきで,これはプログラマの発想(表記)です.
そもそも,出典を明記して証明に使用するというのは,入試の答え方にそぐわないものです.問題解決において何を使用してよいか,説明のために典拠の記載内容をどれだけ改変してよいか,といったことと合わせて,大学教育の中で何とかしていきたいところです.

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後日追記:高木貞治『数の概念』では,正負の数に分けることなく,最初から「整数」を考えて,定義と性質を記述しています.Webで読むこともできます.

 第一章(整数)§5(乗法)の定理1・21(交換律)が,整数を対象とした交換法則ですが,§1から読むことをおすすめします.