先週の木曜と土曜の出来事です.実家の母(あっちのおばあちゃん)は,ダジャレやジョークやウケ狙いが嫌いというわけではないけれど,本人から意図して発することはほとんどありません.周囲の人がびっくりするような母の発言は,「素」というわけです.
すえの子の運動会の2日前
夕食を終えたとき,すえの子が,あっちのおばあちゃんと電話したいと言いだしました.
週末は,年長のすえの子にとって,保育所最後の運動会です.
以前に,実家の母に来てもらうことで,了解をもらっていたけれど,この日の晩,すえの子が不安になり,自分から電話をして確かめたいというのです.
受話器を持たせ,パパは番号を言い,すえの子に打たせてみました.
しばらく待つと,実家の母が出まして…
すえの子の「もしもし」を聞き,「あっ,すえの子ちゃんやね〜,運動会行くよ〜」という声が,受話器から1メートルくらい離れた,パパのところにも聞こえました.すえの子もパパも,しばらく何も言えず,笑っていました.用件が,終わってしまったのです.
ここで昔話を思い出します.自分が結婚するより前の出来事です.あるとき,実家の母に電話がかかり,受話器を取りました.そこで,受けた側なのにかけた側の用件を一切聞かず,自分のことをしゃべりまくって,「じゃあね」で電話を切ったというのです.
そんなことを,すえの子に言うわけにも,電話の向こうに問いただすわけにもいきません.ほどなくすえの子も,我に返りまして,運動会の競走や演技のことを話し始めました.結果はここに書いたとおりです.
運動会当日の朝
和歌山市駅まで,実家の母を迎えに行きました.子らは行きたい行きたいあっちのおばあちゃんと会いたいとせがみましたが,ママが一喝して制しました.一人で駅まで行き,母を拾って,保育所そばの駐車スペースまで運びました.
その車内での会話です.70代も後半に差しかかった母は,見た目は健康そのものですが,将来のことが不安でたまらないのでしょうか,唐突に,「あんた,あたしの遺言書を書いてくれへんか」と言いだしました.
冷静を装って,「それはあかんわ.母さん,自分で書いてや.あるいは弁護士さんに相談するとか」と返しましたが,心の中では,母の伝説がまた一つ,増えました.遺言というのは,相続人,母からするととりあえず2人の息子(兄と自分)の間で,紛争を避けるという意味合いがあります.推定相続人は証人や立会人になれないなど,法的に決められた制約もあります.
ひと呼吸おいて,母は「そっか…」とつぶやきました.しばらく沈黙が続いたあと,「母さんな,80歳まで…」と言いはじめました.将来への不安について,別の表現をとってきました.
「80歳と言わんと,もっと長生きしてや.孫はまだまだ成長するねんから」という答えを用意したところで,母の次のセリフは,「働きたいねん」でした.
言葉を失いました.後期高齢者に差しかかって,仕事を辞めたいではなく続けたいと言う人は,自分にとっては初めてです.おそらく母の周囲にもいないはずです.
ところで,当ブログで「うえの子」「さきの子」「あとの子」「すえの子」と書いてきている,自分の4人の娘に関しては,不確定な未来を自分よりも長く生きていくことを想定して,叱ることが(逆に叱られることも)あります.
母の背中が見えてくる,年齢になってきました.