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大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

大学の本・大学生の本7冊

本棚を見直しまして,僭越ながら,大学教員におすすめの本を取り上げることにしました.

タイトルを見ると「改革」の本かなと思いますが,実際には「原点に立ち返ること」,すなわち大学というものの歴史を確認できる本になっています.国内外*1の事情を概観することができます.

大学はディシプリン化した学術によって成り立ち,発展していきます.ディシプリンを捨てて大学は成り立ちません.原点に返った改革のためには,ディシプリン本来の方法を再発見し,その力を十分に発揮させる必要があるのです.もちろんディシプリンは,そのそれぞれの固有性ゆえに狭隘化するという欠点を孕んでいます.しかし,ディシプリンにも分化や新生があります.
(p.26)

部屋の前方に座らせる,授業後半は英語でするなど,ラディカルにも思えますが,「徹底的に励まし,叱ること」「授業資料を入念に準備すること」「自分の生き方や学んだことを提示すること」などは共感が持てます.

「なんだ,みんな案外素直じゃないか.
大丈夫,何とかなる.みんなできるようになる.みんなできるようにしてあげる.大丈夫,素直という『やる気』のモトは持っているんだから.
今の君たちは『やる気』がいつのまにか眠りこんでしまっただけだよ.
大丈夫,私の講義を1年間しっかり受講すれば,自分のやる気の出し方がわかる.
そして一人前のエンジニア,一流の研究者のタマゴという自信と自覚が持てるようになる――」
(pp.22-23)

これは大学生向けの本ですが,それを教員が買って読んではいけないというルールはありません.実際,1年のゼミでアドバイスをする際の参考になる,ちょっとした情報が詰まっています.

「いまどきの学生」を嘆くコメントに,「授業で解説した問題をそのまま出題するとだいたいできていても,ちょっとした応用問題になると正答率が急に低くなる」というものがあります.試験後に学生が「先生! 習ってもいないことを試験に出さないでください」といってくる場合もあるそうです.
先生の側は,習った基本的なことを使って応用的な問題も解答できるところまでを「勉強」と見ているのに,新入生は授業で教えてもらったことを確実に解答できるようにするのが「勉強」と見ていたりしたら,そういう差ができてしまいます.
(pp.7-8)

大学生活のこと,社会人になってから経験すること,技術者倫理のことが,コンパクトにまとめられています.本文は,1項目1〜2ページで41項目からなります.学生が一人で読むこともできますが,低学年のゼミなどで,何項目かを選んで輪講に使うのがいいでしょう.

皆さんが大学に進学したのは,「皆さん自身が持っている土地を耕し,肥沃な畑をつくるため」なのです.(略)他の人の助けを借りながらも,まかれた種に水をやり,さらに多くの栄養素(略)を吸収して大きく育てるのは皆さん自身の手で行わないといけません.
(p.2)

もう1冊,大学生向けの本です.レポートの取りまとめ方についてもページを割いています.事務職員を「先生」と呼ぶ(p.31)ような慣習は,私の大学にはないですね….

「あの先生は休講が多い」といううわさが流れることがあります.理由がはっきりしない休講が多い場合です.ただ,教員が休講理由を言えない場合があることも覚えておいてください.例えば,入学試験に関連した仕事の場合です.
(p.39)

大学生や大学教員を直接のターゲットとした本ではありませんが,助け(ヘルプ)の求め方,助けを求められたときの対処,そしてそこでの人間関係などが,読みやすい用語・表現・事例でまとめられています.

家族でありながら交流の見られない家庭,先生に心を開いて相談する生徒がいない学校,本音でぶつかり合う場を奪われた子どもたち.自分の窮地を救ってくれるはずの家族や学校の先生,そして友だちまでもが信じられないという子どもたち.どこにも安心して自分を任せることのできる人がいない不安な日常生活を積み上げてゆけば,心が病んでいくのは当然とも言えます.
自分の気持ちを自分でどうにもできなくなったときに,安心して自分を委ね率直にたすけを求めることができる人がいれば,人は再び生きる意欲を復活できるでしょう.人にたすけを求めることは,目の前の問題を解決することにとどまらず,人生を安心して,楽しく,明日への期待に胸をふくらませて生きていくために,生涯にわたって欠くことができない行動なのです.
(p.152)

大学での勉強方法について,ノートのとり方,レポートの取りまとめ方,討論の仕方などが解説されています.第1刷発行が1995年ということもあり,「インターネット」への言及がない*2のですが,この点を除けば,今でも通用する内容ばかりです.

大学の教員は,その存在そのものが「多機能」です.一般的には,「講義をする人」と見られていますが,それだけではなく,諸君の親たちと同様に「人生経験」を持っています.特定のことに関心を持ち続けて教員になった経過から,ものの見方がユニークでわかりやすい人が多いようです.さらに,社会人に比べると時間のゆとりがありますから,若くても「趣味」をもっている人が少なくありません.しかも,たいていは何かの「特技」を持っています.さらに,自分の専門分野やその関連分野に関しては,「専門知識」が豊富で,しかも複雑な現象や問題を解明する,「方法論」や「研究技術」を持っています.
このうちのいくつかは大学教員でなくても持っていますが,こんなに揃っている職業人はそれほど多くありません.しかも,教員は人にものを教えるのが職業ですから,講義以外のことでも,機会があれば教えたがる特性を持っています.
(p.233)

*1:UNESCOの教育分野分類(pp.24-25)を除けば,「国外」といっても「アメリカ」なのですが.

*2:ワープロ」に関するアドバイスはあります.