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西村京太郎と十津川警部とトリアージ

十津川警部 トリアージ 生死を分けた石見銀山 (講談社ノベルス)

十津川警部 トリアージ 生死を分けた石見銀山 (講談社ノベルス)

西村京太郎の本,というのは,これまで,読んだことがありませんで,「トリアージ」を,有名な作家が,どのように取り上げて,作品にするのか,興味を持ち,購入しました.
さくっと,読み終えました.面白い本でした.ふだん,読んでいる本と,比べて,読点が,多いかな,という,気もします.
…疲れるのでいつもの文体にします.
以下,ネタばれを含みます.
『初出誌 = 「小説現代」'08年3月号〜9月号』とありますので,執筆開始時には秋葉原の襲撃事件,そしてそこでのトリアージはなかったわけですが,さて最後の章の執筆時には影響があったでしょうかどうでしょうか.
んでそのトリアージは第七章(最後の章)*1.3分間(はじめ1分間は動けなかったので実質2分間)で30人以上にトリアージタグをつけるというのは,無謀といいますか,小説ならではの設定といいますか.
トリアージ作業は,医師ひとりに託されたのですが,事前事後の不安を取り除く目黒所長と,トリアージ判定に納得のいかず暴力行為を振るう“連れ”を制して諭す(pp.174-175),十津川警部の存在には,好感が持てます.
ただ,『こちらの若い女性と,この六十代の男性と,どちらが緊急性を要するかを,もう一度,診断してみたいんです』(p.173)と,搬送の優先順位を決めるためにトリアージするように書かれているのは,フィクションとはいえ,疑問を持ちます.トリアージは,傷病者ごとに(他の傷病者と比較することなく)重症度を見て分別を行うものであり*2,そこから,病院へ搬送すべきか(どこの病院へかを含めて)は,トリアージした人ではなく,タグを見て救急隊などが判断するよう,役割を分担するのが自然ではないかと思ったのです.

*1:最初の章で十津川警部が搬送の優先順位を決めたのを,トリアージとみなすかどうかですが,個人的にはみなしたくないです.実施者が非医療者ですし,タグがあれば赤と黄がつけられたかもしれませんが,タグがなかったわけですし.自分の専門でたとえてみると,手軽な(そして容易に解読可能な)暗号方式で「たまたまうまく秘密通信できた」からといって,その実装は情報セキュリティに何ら貢献しない,といったところです.

*2:wikipedia:トリアージによると,判定基準に「総傷病者数」「医療機関の許容量」「搬送能力」が含まれているので,素人判断ですがここから,その人の状態だけを見れば赤だけど,傷病者間の比較によって,黄あるいは黒と判断することが許される/すべきケースがあるのかもしれません.