わさっきhb

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カリキュラム設計,科目設計

私が昔赴任していたところ、そこも情報工学科だったが、カリキュラムに含まれる物理の科目は、力学がなくて電磁気学がある(熱学はたぶんなかったと思う)という、実に奇妙な所であった。
初等力学の役割は、力学の問題を解くことだけではない。
自然現象などを解析する際、現象を数学の方程式(運動方程式など)に置き換え、その解を求めて、その解が問題とする自然現象を忠実に表しているか。
初等力学は、そういう数理科学のスタイルを学ぶ絶好の場なのである。
専門のコンピュータ科学の学習に進んでも、数値解析、数値シミュレーション、バーチャルリアリティ、画像処理などは、数学・物理の知識が直接必要になる。
それ以外のコンピュータ科学の分野でも、数学・物理の思考スタイルが重要になるだろう。
力学をスルーする物理カリキュラムを作った人達は、物理学がなんたるか、全然理解していないのであろう。

http://me-and-julio.blog.so-net.ne.jp/2010-03-27

10年前に上記を読めば,「たしかに,そうですねえ」くらいしか言えなかったのですが,今は違った印象を持ちます.「カリキュラム設計,科目設計,授業設計が絡む,大変な問題だよなあ」です.
3種類の「設計」は,概念設計/論理設計/物理設計のような詳細度ではなく,システム全体/サブシステム/サブシステム内のモジュールという対象の違いがあって,それぞれ設計・実装・運用・維持していくというものです.基本的に階層関係あるいは包含関係*1となりますが,これは設計における順序関係,すなわち「システム全体が決まれば,サブシステムも決まり,さらに必要となるモジュールも決まる」ということを意味しません.
サブシステムを決める際に,システム全体における整合性が問われ,必要に応じて,全体のほうを一部修正しないといけない世の中です.サブシステムとモジュールの関係も同じです.
科目設計に的を絞り,検討してみます.「力学」に関する科目を設置し,担当教員の裁量で授業計画を立て,実施し,試験で評価することで,

  • メリットは何か? そのメリットが得られるような授業および成績評価になっているか?
  • デメリットはないか? 誰にどのくらい影響するか?

が問われます.
メリットは,冒頭の引用を,使わせてもらいましょう.
一方デメリットですが,工学系の1年の初めに学ぶ(べきとされている)力学において,その「数理科学のスタイル」になじめないまま授業を終え,物理嫌い,工学嫌いを強めるという点が指摘できます.担当教員が(身につけてほしいと)期待する出題内容で試験をすると,半数以上が落ちてしまう可能性があります.特にそれを必修科目とするなら,再履修生が積み重なることを,憂慮しないといけません*2
合格率を高めるような授業内容・試験問題にすると,「担当教員が(身につけてほしいと)期待する」のところを犠牲にし,そのため,授業に熱が入らないかもしれません.また,授業内容を削ると,学年が上がるにつれ「学生はナニナニもろくに学んでいないのか?」という先生のお小言に現れることとなります.
お小言だけでは生産的でないので,対策を考えてみます.思い浮かぶのは次の2点です.

  • 「学生にはナニナニを学ばせていないのか?」と担当教員に尋ねる.
  • ナニナニの部分は自分で教える.

前者で真相を聞くなり,対策をとってくれるなりすればまあハッピーではありますが,対策はすぐには効果として現れません.1年生の科目で学んでほしいと追加したことが,4年生になって学んでいるとなるには,当たり前ですが年数を要します.また,授業ではきちんと教えているけれど学生がすっかり忘れてしまったときには,科目担当の教員の責任なのか,学生の責任なのか,判然としません.そして,「尋ねる」という行為が「脅迫」につながるかもしれません.質問という形のプチパワハラです.
後者の方法が現実的ですが,「自分の授業/研究室でそこまで教えないといけないのか」という愚痴に変わります.その悪影響は,もう書かなくてもいいですよね.
私が今いる学科の,力学の扱いは,過去からのシラバスを見直さないときちんとしたことが書けないので,今回は記述しないことにします.カリキュラム設計・科目設計に関しては,年1回,各教員が報告をして課題を共有し,必要に応じてカリキュラム改定を行っています.

*1:ただし,一つのモジュールが複数のサブシステムから利用されるかもしれません.

*2:不合格者数が多い科目,また留年生が多い学科は,外形的に,批判や改善の対象となります.