論語の有名なフレーズ,『学びて思わざれば則ち罔し,思いて学ばざれば則ち殆し』*1を,アレンジして,プレゼン指導に活用したいと思うようになりました.
一つは,「学ぶ = 話す内容に関する知識を得る」「思う = 話す内容を整理する」という対応づけです.凝縮して,「学ぶ = 周辺知識(を得る)」「思う = 全体計画(を決める)」にすると,
周辺知識だけで全体計画のないプレゼンは則ち罔し
全体計画だけで周辺知識のないプレゼンは則ち殆し
となります*2.
もう一つ,あります.プレゼンには事前準備が欠かせません.学生には,発表練習をする前に,一人でしゃべってみて時間を計るよう指示しています.私自身が国内外問わず学会発表をする際にも*3,何度か一人で言ってみて,時間を計りながら,より伝わりやすくなるよう修正しています.
この場合,「学ぶ = 練習をする」「思う = 欠陥を見つけて改善する」という対応づけになります.上記の「周辺知識」「全体計画」のような情報圧縮は難しそうなので,むしろ長くして,次の文に至りました.
話す練習を何度やってもより良くしようという意識のないプレゼン準備は則ち罔し
スライドばっかりいじって話す練習をしないプレゼン準備は則ち殆し
きっかけ
本書の効用を最大限に,しかもなるべく速やかに生かすため,次の四点を実行してほしい.
- 強く,持続的な願望を持ってスタートする.(略)
- 準備は怠りなく.話そうとする内容が十分わかっていないと,自信は持てない.
- 自信満々に振舞うこと.(略)
- 練習を積むこと.これは最も大切なポイントである.恐怖心は自信の欠如が原因であり,自信の欠如は自分の実力を知らないことから来る.そして実力を知らないのは,経験不足の結果である.つまり,成功した経験を積めば恐怖心は消えるということである.
(話し方入門 新装版, pp.21-22)
講演準備
国際会議ADCHEM 2009での招待講演 | Chase Your Dream !
(略)
ようやく約60枚の講演用スライド(案)ができたのが,パリのシャルル・ド・ゴール空港のエールフランス・ラウンジでだ.その後,スライドと原稿を推敲しながら,ようやく内容が固まったのが学会前日の夜(ウェルカムレセプションの後).講演まで56時間.しかし,この段階では,まだ原稿が頭に入っておらず,発表に90分ほどかかっていた.持ち時間は60分なので,全く話にならない.ここからが勝負だ.深夜まで練習し,早朝にも練習する.やるべきことは練習以外に何もない.
学会初日.オープニングセレモニーの後,最初のプレナリー講演があった.ブラジルの石油会社Petrobrasからの発表だ.講演タイトルの通り,高度制御の現状と課題ということなので,私の講演内容とかぶっている.私の講演は3日目なので,こちらが内容を調整するしかない.プレナリー講演に対する聴衆の反応を見定めた結果,自分の講演内容を一部変更することにした.その作業は,学会プログラムが終了し,フィッシュハウスでのディナーが終了した後になる.夜中だ.講演まで32時間.なんとか60分近くまで短縮することができた.
学会2日目.朝5時過ぎに起きて,発表練習をしてから朝一番のプレナリー講演を聴きに行く.まだ,スライドと原稿に手を加えている状態だ.完璧と思えるまで,ひたすら推敲するほかない.学会2日目にはバンケットがあり,先に述べたとおり,日付が変わるまでボスポラス海峡でのディナー・クルーズを満喫した.発表練習はその後だ.しかも,ポスドクのF君の発表練習に付き合ってから.部屋に戻ると,もう午前1時を過ぎている.講演まで7時間.ここからが本気の勝負だ.発表練習をして,講演用スライド最終版を完成させて,寝る.発表時間も50分強と完璧な仕上がりだ.
学会3日目.朝6時前に起床し,最後の発表練習を実施する.もはや,講演用スライドが無くても発表できるレベルだ.発表時間はやはり50分強.申し分ない.最後に,愛用のレーザーポインターの電池を新品に入れ替えて,いよいよ出陣だ.講演開始30分前に会場に到着するように,ドミトリーを後にする.
会場は立派なオーディトリウム(講堂)で,客席は急角度の階段状になっている.舞台は高く,端に演台が用意され,中央に非常に大きなスクリーンが掛けられている.舞台上で位置関係を確かめ,どこからでもレーザーポインターによるパソコン操作が可能であることを確認する.さらに,マイクも確認する.これで,講演準備ができた.いよいよ本番だ.