わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

←「かけ算の順序」←

リンクされていました.

これで見ると、かけ算の式には順序があると思っているのは、小学2年生の80%強、大学生の40%程度ということになりますね。

「この調査では」「となった(であった)」を抜かすわけにはいきません.問題文の与え方次第でいくらでも変わります.
例えば,

  • 「1はこに 4こずつ ケーキを 入れていきます。 6はこでは なんこに なりますか」

を見せることなく,

  • 「おかしの はこが 3つあります。 1つの はこには、おかしが 5こずつ はいっています。 みんなで なんこに なりますか」

だけを与えて解かせれば,その正解率はもっと下がると思われます.2問を同時に*1提示したことによって,解答者は2つの出題の“構造の違い”に気づきやすくなります.
例えば平成22年度の全国学力・学習状況調査の小学校算数A[2](1)で

8mの重さが4kgの棒があります。
この棒の1mの重さは何kgですか。求める式と答えを書きましょう。

という出題がありますが,ここに「重さが8kgで4mの棒があります。(以下同じ)」といった問題を合わせて出題しないのはなぜだろうと考えてみれば,金田論文で行われた調査が通常の学力調査と異なることの想像は,難しくありません.
なお,「金田論文」は,当雑記で金田で検索すれば,時間を遡る順にエントリが出てきます.重要なものを,古いものから新しくなる順に並べ替え,リンク(いくつかは引用つきで)します.

「かけ算の順序」と書くから可換性に目が行くのであって,かわりに「乗法の被乗数と乗数に対する理解」と書くことにすれば,「かけ算で表せるのはどんなときか?(今解こうとしている問題は,かけ算を使って解けるか?)」「かけ算の式を立てるのに必要な数量は,何と何か?」「そして,どのように表記すれば,立式の意図が伝わるか」と,分けて考える/指導するのに役立ちそうですし,ネットの議論を離れ,学校現場の現状を知ったり,数学教育専門家らの論文を読んだりする際に,有用となりそうです.

5月20日:乗法の意味,情報の価値

*10:『さらに,次の基準A,Bを設定した.基準Aでは,被乗数と乗数の位置を問わず正答とした.例えば,「5×6」の話を作ることが要求されている作問課題に対して「6×5」の話が作られたときも正答とした.同様に,文章題では「5×3」の式を作るべきところ「3×5」の式でも正答とした.これに対して,基準Bでは,そういった場合を正答として認めなかった.算数の正答基準として適切なのは,基準Bであると考えられる』, p.42.

5月31日:『かけ算には順序があるのか』を読んだ *10

「6×4=24」と解答した唯一の学生,《BA型》の文章題bでは,B×A=Pに対応する「5×3=15」を書いたのでしょうか,それともこっちは,A×B=Pに対応する「3×5=15」だったのでしょうか.しかしこれは私個人の興味であって,あいにく論文での関心は,正答率の比較に向けられています.
遠山の『矢野君の言うように考える子がときどきあるんだよ』については,もととなった1問だけからはその推測が適切かどうか分からず,《AB型》・《BA型》の問題を織り交ぜながら何問か与えて,その答案から,カード式配り方(トランプ配り)で考える習慣がついているのか,思い違いだったのかを,探らないといけないのかなと思っています.
ここで,解答(者)から出題に視点を移します.私の関わっている授業や試験では,ボーナス問題的な小問であっても全員が正解となるのはなかなか難しく,思い違いをしている答案は,どうしても現れます.授業中なら解説するなり,解説をWebページに載せるなりします.総括的評価に位置付けられる,期末試験においては,正解例と解説を書く際に100%でない正答率を添えながら,今後そのようなケアレスミスをしないようにと願うのみです.
そういう経験をもとにすると,大学生が(小学生も)全員同じ答案を書かなかったことは,その実験の信頼性,出題の妥当性を支えているようにも思えます.

6月18日:もう少し,書きむしるか

個人的には,この論文の内容について少々気になるところもあるのですが,ともあれ「かけ算の(式の)順序」の文脈で言うと,「順序を持たせるべきではない」と考える個人またはグループによって,この論文を超える,学術的に信頼の置ける成果が挙げられるのか,疑問を持っています.
それを学術的な問題ではないとしたとき,その普及活動が「ゲーム脳」「水伝」にならないか,不安があります.

7月29日:聞いた見た書いた

金田論文を初めて取り上げたのは5月20日で,『かけ算には順序があるのか (岩波科学ライブラリー)』を読むより前のことです.このエントリは,「かけ算の順序」という表記を使わないようにしていくきっかけとなりました.それに対して冒頭のリンク先は,手にしていない文献の,Webから読んだ断片的な情報をもとに,「かけ算には順序があると思っている人の割合」というタイトルにしています.「かけ算の順序」を論争にしているのは誰なんだと,思わずにはいられません.
今回と合わせて,文献を十分に読み込めていない人なんだなという印象は持っていて,過去に先月2日(十進位取り記数法)8月15日(かけ算のきまり=性質)7月28日(第2用法)で取り上げています.
文献を読み込むというよりは,新情報を目にしたとき,次にどう行動するかという,いわば態度の違いがあるようにも思えます*2.メタメタさんの記事では後半に,次のように書かれています.

統計は無いでしょうが、私がこの問題を、ネット上ではなくリアルに話した10数人の30代〜60代の人の反応から、また私自身の経験からも、40才前後から上の世代では、限りなく0%に近いと思います。(20代の人の中には、「そんなことを小学校の先生が言っていたな」と思い出す人もいました。本人は、「順序は無い」派ですが。)
 ということは、40代以上の小学校の先生は、教科書で、かけ算の順序を教えるときには、これは導入時のきまりなんだ、という意識で教えるのでしょうが、30才前後以下の小学校の先生の40%(以上)は、導入時のきまりを超えて、大学生になっても守るべききまりと思って教えるのでしょう。

キーワードは「経験」と「推測」です.
私も,新情報を目にしたときは「推測」を積極的に活用します.しかしそれだけではなく,ブログで公開する---思案し,書く時間がじゅうぶんにとれる---のですから,「経験」よりも優先するのは「歴史」*3です.言い換えると,この種の調査が文書化されれていないか,探すことです.
まずは次の文献でしょう.

小数の乗法の学習を済ませている,6校・約300名の5年生児童に,他のいくつかの出題とともに「7×2.4の式で求められる問題を1つ作りましょう」を与えたところ,4分の1近く*4が「2.4mのリボンが7本ありました.それをぜんぶつなげると何mになりますか」といった種類の文章題を解答したとあります.ちなみに正答率は,より厳密な◎のみだと13.2%,○(いわゆる準正答)を加えて21.0%となっています.
正答率・通過率などの数値情報はありませんが,『さんすうの授業 第1階梯―自主編成研究講座 小学校1・2・3年生』p.176では,「6×8の文章題をつくりましょう」と与えて,かけ算の意味がわかっているかを確認しています.「1はこにトイレットペーパーが6ロールはいっています。そのはこが8こあります。トイレットペーパーはなんロールありますか。」や「車が8だいありました。どの車にも人が6人ずついます。ぜんぶでなん人いるでしょう。」はOKなのに対し,「1さつ8ページの本があります。その本が6さつあります。全部で本のページはいくつでしょう。」は,つまずいていると見なしています.
上記2点は,本エントリ内の「(※)」のところでも例示していますので合わせてどうぞ.
(某日追記:7月17日に,「逆にしている子は一人しかいなかった」という事例を取り上げています.)
金田論文も含め,数は少ないながら,正答率(通過率)をいくつか知ると,例えば第3学年3組 算数科学習指導案で,いわゆるレディネステストとして

ジュースのかんが6つのテーブルの上に7本ずつあります。かんはぜんぶで何本ありますか
(p.3)

として式と答えを書かせる問題に対し,「7×6」が30人,そして明記はありませんが「6×7」が2人なのも,不自然には思えません.なお当該文書では「6×7」のほうを正答とし,その出題から

かけ算を用いる場面を理解している児童は100%であるが、かけ算の意味まで確実に理解している児童は、ほとんどいない。問題の中に出てくる数字を順に並べて式に表している児童が大多数である。
(同)

としていますが,「(7×6ではなく)6×7と書いたのが30人だ」ではなく「7×6を30人が書いて,文書作成者(先生)はそれを誤答扱いしてしまった」と解釈するべきなのでしょう*5
別の観点で見ると,金田論文の調査で大学生の正解率40%弱は,やや高いかなという思いもあります.それは,自分の担当科目(情報セキュリティ)の試験で,昨年度は正答率0%の問題が出ましたし,今年度も同種の訂正問題で17.4%という小問*6があったのと,比較してのことです.
まとめ:

  • 一方は学術文献を読んで「かけ算の順序」からの脱却を図ったのに対し,もう一方はそこに記載されている事例から「かけ算の順序」を見出した.
  • 一方は関連情報を見つけて照合を試みるのに対し,もう一方は経験をもとに結論を下している.

*1:同文献p.42に記述があります.解答時間はこの2問で5分程度とのこと.

*2:(某日追記)関連:あなたは「批判者」ですか?「学習者」ですか? ~本『QT 質問思考の技術』 - ライフハックブログKo's Style

*3:経験と歴史との対比は有名だと思いますが,念のため,wikipedia:オットー・フォン・ビスマルクを挙げておきます.そして,これを挙げるときの基本中の基本ですが,私が愚者です.

*4:解答類型eは「23.5%」.取得したPDFファイルでは,p.5右の丸2の小見出しと,解答類型eおよびfの説明は間違っていると思われます.解答類型eの説明を自分なりに書いてみるなら,「2.4×7でとらえているもの」でしょうか.

*5:「6×7と書いたのが30人だ」が真実だとしたら,2年生の段階で「2つの数字をかければいいんだよ」すなわち非順序もしくは《積指向》で教えているという可能性が考えられます.しかし学年間の学習内容の連携を重視する,現在の小学校の算数教育では,その可能性が十分高いようには到底思えません.

*6:授業Webページでは,試験問題と正解例・解説をダウンロードでき,小問ごとの正答率も載せています.