わさっきhb

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第3用法

いきなりですが問題です.

春男さんの家の畑の面積は30アールで,これは農地ぜんたいの面積の40%にあたるそうです。農地ぜんたいの面積はどれだけですか。

さっそくですが解答の前に元ネタです.

この文献(の授業記録*1)では,答の見当(30アールよりも大きくなることの確認),数直線に表わす作業のあと,a=b×Pという公式をもとに,30=x×0.4*2と立式し,x=30÷0.4=75(a)により答を得ています.
ですが,そのように先生が解いているのではありません.「上位群(100%),中位群(100%),下位群(70%)が正解であった」などと書かれていまして,実際には児童それぞれが解き,それを先生(著者)が観察しているという記述になっています.
当該文献には数直線の図が9つありますが,上の問題については,図がありません.そこで,自分なりに作ってみました.まずは「□×0.4=30」すなわちかけ算の関係をもとにしたもの:

次に,第3用法の公式を直接適用して「30÷0.4」としたもの:

これらの図(二重数直線)は,あえて,当時のスタイルと現在のスタイルとの折衷型にしています.現在のスタイルで重要なのは,異なる量は異なる線上に割り当てるのと,2つの数の間に矢印をつけ,「×0.4」「÷0.4」を添えているところです.その一方で,現在だと,数直線をクロスする縦線を入れるのは,0のほか「30」「□」「0.4」「1」の箇所のみとするのが主流ですが,割合でいうと0.2,0.6,0.8のところにも入れているのは今回,参照した文献のスタイルをもとにしています.
当初の問題を解くだけであれば,これでおしまいなのですが,ここから話を進めていきます.出題は,逆思考,その中でも「乗法逆の除法」と呼ばれるものになっています.「30アールは(中略)の40%」だからといって,30×0.4としてはいけないよ,という意図です.
そして次の仮説が思い浮かびます:乗法逆の除法の典型的な場面は,第3用法なのではないか?
ここで三用法について,おさらいを*3

  • 第1用法:p=A÷B,割合=比べる量÷もとにする量*4
  • 第2用法:A=B×p,比べる量=もとにする量×割合
  • 第3用法:B=A÷p,もとにする量=比べる量÷割合

「乗法逆の除法」は,以下のとおり,『小学校学習指導用要領解説 算数編』p.138にも載っています.

例えば,「96mのリボンは,24mのリボンの何倍の長さでしょう。」などのように「もとにする量」,「比べる量」から「倍」を求める場合についても除法が活用できる。さらに,「黄色のリボンの長さは72mで,白いリボンの長さの4倍です。白いリボンの長さは何mでしょう。」のように「比べる量」,「倍」から「もとにする量」を求めるような場合についても除法が活用できるようにする。
(強調は引用者)

「割合」ではなく「倍」という用語を用い,またその値が整数となっているのは,これは第4学年の内容だからです.黄色と白のリボンが別物ではありますが,数量の関係は,冒頭の畑の問題と同一であり,かけ算の式で表すなら□×4=72,わり算だと72÷4=18となります.
国学力テストにも,同様の出題を見ることができます.
平成24年度実施の小学校算数A大問8で,問題文は「犬を飼っている人は8人です。この8人は,学級全体の人数の25%にあたります。学級全体の人数は何人ですか。求める式と答を書きましょう。」となっており,上と同じ構造です.正答率は58.7%*5です.報告書には「百分率の意味について理解することに課題がある」と書かれています.
三用法に話を戻します.乗法逆の除法で,第1用法に当たるものが存在しないのかというと,おそらく人工的な場面や出題は,できるのではないかと想像しています.しかし苦労して問題文を作ったとしても,もとにする量を適切に見出した上で,「比べる量÷もとにする量」と立式しておしまい(かけ算とわり算の関係なんて,そこでは考えなくていいのだよ),となるように思えるのです.
「乗法逆の除法といえば第3用法であり,第1用法のものは存在しない」という仮説がもし,正しいのなら,それは「かけ算が1つ,わり算が2つ」という考え方を補強するものとなります.
具体的に書くと,除法の意味づけは従来,「包含除」「等分除」「乗法の逆」の3つとされてきたけれども,〈乗数と被乗数が区別される文脈〉においては,「等分除」と「乗法の逆」が同一視でき,したがって2つになるということです.〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉においては,今回の検討に左右されず,「かけ算が1つ,わり算が1つ」のままです.
次に,第1用法・第2用法・第3用法の並び順*6についても,歴史的理由とまた別の説明を与えることができます.というのも,わり算によって割合(p)を定義し,もとにする量(B)にその割合をかければ,ほしい値(A)が得られるので,そこから 第1用法<第2用法 という順序関係が得られます.かけ算の関係式から,もとにする量を求める関係式を導き出せるので,第2用法<第3用法 となります.
その一方で,二重数直線や4マス関係表を使った出題や解説,学習においては,第2用法(乗法)・第3用法(等分除の拡張)・第1用法(包含除の拡張)の順になっていることも,合理的な説明ができます.A=B×pとB=A÷pの間には,それらの式とp=A÷Bよりも,強固な関係があるのです.図示においては,矢印と「×p」があるとき,矢印の向きを反対にして,「÷p」を添えれば,値そして数量関係を維持したまま,かけ算からわり算の関係にできます.
数学(量の理論)に関しても,Nagumo (1977)を思い起こさせます.この論文では,量Qにおける線型写像を,Φ(q)=mqと式にした直後に,逆写像の式を書いています.ここでmqを「q×m」,を「q÷m」に対応づければ,第2用法をもとに第3用法の式を得ることを表しています.


関連:

*1:オリジナルの問題文は,「春男さんの家の畑の面積は30aで,これは田の面積の2/5にあたるそうです.田の面積はどれだけか.」(p.148).割合にあたる数を分数から百分率に変更するとともに,田と畑(異なる2つの比較)から,農地ぜんたいと畑(包含関係)へと置き換えました.あと「a」も「アール」にしましたが,これ,中学校の数学でも(文字式とみなしても),答えは75aになるのですね.

*2:原文では0.4は分数(5分の2)です.

*3:http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/05/page5_23.htmlも参考にしました.

*4:以前から書いていますが,A,B,pをそれぞれamount,base,proportionの頭文字とすれば,AとBの混同を減らせます.

*5:解答類型によると,「8÷0.25」と「8×4」はそれぞれ,◎による正答で,□×0.25=8は,○の正答です.□×0.25=8の反応率(%)は「0.0」(多めに見積もってもそう書いたのは解答者全体の0.5%未満)であるほか,「乗数と被乗数を入れ替えた式なども許容する」の注意書きが入っています.

*6:素朴な疑問は:なぜわり算・かけ算・わり算の順番なのか?