わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

複内包量を持つ,乗法の結合法則

14. 「1あたり量×いくつ分」ではいけないの?
(略)

  • 乗法の結合法則を学習する際,1あたり量どうしの積が出現します.次元解析などを知っている大人には造作のないことですが,3年生の児童に,パー書きの単位の一部が消えて新しいパー書きの単位が作られることの意義を知らせ,習熟させる必要があるかどうかというと,疑問に思います.
3日前の

結合法則は個人的に好きな話で,今月,そしてもう少し前には

*5:と言いたいのですが,3年で学習することになる,乗法の結合法則の指導には難があることを挙げておきたいと思います.このアプローチでは,1あたり量(内包量)どうしでのかけ算を必要とするように見えます.《積指向》に基づく結合法則は,(学年は上がりますが)体積の縦・横・高さの関係で説明できるといえばできるのですが,「縦×横×高さ」と一つ,書いてしまうと,「(縦×横)×高さ」と「縦×(横×高さ)」しか見ることができないのです(かけ算の組み合わせは6通りあるはずなのに).なお,非可換な群(環,体)においても要請されるという点において,代数的構造を見るにあたり結合法則は基礎的なものであると言えますし,小学校の学習においても,総合式と分解式を学ぶ際の有用な架け橋になると考えています.

今月2日

なお,「かけ算の式には順序があるのか」と書いたとしても,乗法の結合法則に関すること,すなわち「a×b×cを計算する際,(a×b)×cとするのかa×(b×c)としてよいのか」といった,式の評価の順序と,間違えられないようにしないといけません.

7月27日

と書いています.直接的に,結合法則を検討したのは,先月20日7月30日です.
なぜ好きなのかというと,書換え系の合流性を連想できる,というのがあります.ある情報から,分岐して見かけの異なる2つの情報になったとしても,その後の進め方として適切なものを選べば,ともに同一の情報に至る,という性質です.
3日前の上記引用では,幸いにも,おかしい書き方をしていなかったのですが,今月2日の中の「1あたり量(内包量)どうしでのかけ算を必要とする」は,舌足らずでした.
ともあれ,まずは,「1あたり量(内包量)どうしでのかけ算」を含む事例を挙げることにします.http://members.jcom.home.ne.jp/pc-library/library2gakusyuu/18syoninkenn/sugimoriitou.pdfからの引用で,本時に書かれている問題は,次のとおりです.

1こ90円のシュークリームが、1はこに3こずつ入っています。2はこ買うと、代金は何円になるでしょう?

本日は,よく批判されている「かけ算の順序」には立ち入りません.式で表すと,90×3×2です.ここで,パー書きの単位を入れると,90円/個×3個/箱×2箱となり,前の2つをかけて,90円/個×3個/箱=270円/箱とするのが,「1あたり量(内包量)どうしでのかけ算」です.3個/箱×2箱=6個とし,これを乗数(外延量)として90円/個にかける,という計算をすれば,「1あたり量(内包量)どうしでのかけ算」を回避できます.
「1あたり量(内包量)どうしでのかけ算」を伴わないけれども,結合法則が関係する場面が,あるのでした.問題はこんな感じ.

ある店のレンタカー料金は,1日につき5000円です.2台を3日間借りると,代金はいくらになるでしょう?

出典はなく,創作です.レンタカーにおける複比例については,5月27日に取り上げていますが,そこでは数値を使っていませんでした.
レンタカー料金の計算ですが,問題文に出現する順に必要な数値を取り出し,かけ算にすれば,答えは出ます.5000×2×3=30000 答え30000円です.
パー書きの単位を入れると…5000円/台・日×2台×3日となります.「円/台・日」が一つの単位で,「日」は「円/台」ではなく「台」と結びつきます.
そして5000円/台・日という量は,『量の世界―構造主義的分析 (1975年) (教育文庫〈8〉)』で書かれている,「複内包量」と言えそうです.この用語はp.173にあり,またp.175では「cal/g・Kまたはkcal/kg・K」として,比熱の単位を表記しています.
ところで式ですが,5000円/台・日×3日×2台としても差し支えなさそうです.それぞれ計算をし,意味づけをしてみます.

  • 5000円/台・日×2台×3日=(5000円/台・日×2台)×3日=10000円/日×3日=30000円…2台借りるので1日につき1万円.3日なら,3万円.
  • 5000円/台・日×2台×3日=5000円/台・日×(2台×3日)=5000円/台・日×6台・日=30000円…1台1日5000円を1ユニットとして,6ユニット分使用するのだから,3万円.ユニットの単位はここでは「台・日」だけど,「(のべ)日」や「(のべ)台」でもいいような気がする.
  • 5000円/台・日×3日×2台=(5000円/台・日×3日)×2台=15000円/台×2台=30000円…3日借りるので1台につき15000円.2台なら,3万円.
  • 5000円/台・日×3日×2台=5000円/台・日×(3日×2台)=5000円/台・日×6日・台=5000円/台・日×6台・日=30000円…二つ上と同じことなので以下略.

単位を考えなければ,別段難しさを感じさせない,乗法の結合法則を確認できる事例です.ただ,問題文では「1日につき5000円」としていますが,複数台のレンタカーを借りるという場面を想像すると,「1日・1台につき5000円」と考えなければいけません.これは,パー書きを式に持ち込むことの困難性とも言えますが,本日は,

  • n1[d1/d2]×n2[d2/d3]×n3[d3]=(2通りの計算過程あり,省略)=n1*n2*n3[d1]

に加えて

  • n1[d1/d2・d3]×n2[d2]×n3[d3]=(2通り以上の計算過程あり,省略)=n1*n2*n3[d1]

となる,実用的な事例が発見できて,これはこれで満足です.


タイトルを変更しました(当初は「複内包量の結合法則」でした).