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今年の全国学力テストにみる,かけ算の順序

今年度の全国学力・学習状況調査のため作成された---震災の影響で「調査」としては実施されなかったのですが---問題・解説が,先月,公表されていました.読んでいくと,「かけ算の順序」という観点で気になる出題が,小学校の算数と,中学校の数学で,一つずつ見つかりました.

小学の問題から

A問題の大問9です.

ある会場に小学生が集まりました。
集まった小学生100人のうち40%が女子でした。
女子の人数は何人ですか。答えを書きましょう。
また,求める式も書きましょう。

文書の中では問題文+解説が先にあってpp.40-43,問題文そのものはp.97,解答類型はp.139です.ページ番号はPDFファイルのもの(先頭を1として)ではなく,ノンブルに振られている数字です.
さてこの問題文で注目したのは,「答えが先,式が後」という順序になっている点です.
A問題の解答用紙はp.120,解答例はp.124.そこでも,この順序が確認できます.対照的に大問4や5では,式が先,答えが後です.
実際,この数値なら,計算しなくても「40人」と出せるのですが,それをあえて*2,式に表してくださいと問うているように見えます.
「問題→式→計算→答え」という流れ*3とは別の解き方を,試しているように感じました.

中学の問題から

B問題の大問2です.こちらは問題文を全文引用するわけにいきませんので,関連ページを先に記しておきます.問題文+解説はpp.75-78,問題文のみはpp.156-157,解答用紙はp.151とp.157,解答類型はpp.182-183にあります.
小問の(1)は以下のとおり.

(略)下の□に当てはまる式を書きなさい。
11,12,13のとき 11+12+13=36=□

この大問の出だしに,同様の式の書き方があるので,答えはそれに合わせて,「12×3」と書くだけです.
なのですが,「かけ算の順序」として思案するなら,「3×12」もいいのかな,と思います.解答類型を見ると,まあ正解です.ただし「12×3」には◎,「3×12」と「12+12+12」には○がついています.◎と○の違いは,同文書のp.3に書かれています.
次の小問も,穴埋め式です.

前ページの説明では,3n+3を3(n+1)と変形しています。このように変形するのは,次のことを示すためです。
[(1)],[(2)]に当てはまる文字式や数を書きなさい。

連続する3つの自然数n,n+1,n+2の和が,中央の自然数[(1)]の[(2)]倍であること。

このようにして問えば,[(1)]はn+1,[(2)]は3しかなく,実際,解答類型でも,逆に書くのは正解扱いにしていません.
これを,「『何の何倍』を強制する」ために出題したと考えるのは不自然です.むしろ,「『何の何倍』を理解する」ことの支援であるように思います.思い浮かぶキーワードを一つ挙げるなら,「言葉の式」です.
さらにいうと,「小学校では,12の3倍は,12×3と書き,3×12とはしない.でもベクトルのスカラー倍なら,kx(kがスカラー,xがベクトル)のように書く.この反転は,どこで起こっているのだろう?」という疑問を解決する手がかりにもなります.もしどこかで,その疑問を書いているブログなり掲示板なりを見かけたら,改めて,この出題を見直したいと思っています.

*1:前年度は表紙に「平成22年度 全国学力・学習状況調査」と書かれていましたが,今回は記載がありません.

*2:何年か前に,エライ人あてのメールで「まげて,お願いします」と書いたことがあるなあ…と思いながら,goo辞書を引きました.http://dictionary.goo.ne.jp/srch/all/%25A4%25DE%25A4%25B2%25A4%25C6/m0e/で,漢字は「曲げて/枉げて」,意味は「道理や意志に反して行動するさま。無理を承知で頼むときに使う」.英文例も,なるほどです.

*3:毒ですが,かけ算の論争の文章を目にしていて,この流れを大前提としているのにも,がっかり感があります.こればかりでは,他の子が,そしてときには先生や自分自身が,書いた式の中におかしなものがあったとき,見抜けないかもしれません.「式や答えを書きっぱなしにしないこと」「式を読み取ること」「暗算や直感で答えが出たとしても,筆算にしたり別の方法と照合したりして,その答えが正しいと検証できること」などの技能や習慣を,学級の中で培ってほしいものです.とはいえ学習指導案を中心とした文書を目にしていると,それらを意識した授業がなされているのですが.