「あいただいま.うえの子もすえの子も,さきの子もあとの子も,元気か? みな笑顔で,よろしい! …あれ?」
「手ぇ洗いや」
「ああ,洗うねんけど,さきの子,左手のあっかいのん,ケガか? 蚊ぁか?」
「それねえ,噛まれたんよ.保育所でね.男の子と,おもちゃの取り合いになってんて」
「ケンカかいな」
「まあ1歳児やし,他愛もないんやけどね」
「噛むってか…」
「先月,うえの子が幼稚園で,男の子のほっぺた,噛んでんけどね」
「あ,せやったな.加害者側から今度は,被害者側ってかいな…」
「ちなみに,うえの子とその男の子とは,今は仲良しらしい」
「うんまあ,それで,さきの子はどないしたん?」
「迎えに行ったときに,丁寧に説明とお詫びと言うてくれて,そのあと,保育所の所長さんからも電話があってやね」
「へえ…」
「まあケガそのものはね,そのうち消えるからええかなと思ってんねん」
「お前も強いなあ」
「強いといったら,この子やで,さきの子…」
「…」
「噛まれてもな,泣かんかってんて」
「よっしゃ,手ぇ洗ろたぞ」
「居間の子どもらの,相手したってくれる?」
「あいよ(戸を開ける)…あ! こら,さきの子,部屋のど真ん中で,お尻ふきを1枚1枚取り出してるんか! 笑ろても,ダメなもんはダメ! 没収します!」
「あ〜!!」
「泣いてもダメ!」