わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

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http://math.artet.net/?eid=1421833でリンクをもらいましたので,手短に思うところを書いておきます.
後半の検討について,自分なりにとことん考え言葉(や図表)にすることに,異議を唱えるわけではありませんが,教科書やWebの情報の他にも,目を通しておくべきものがあるように思いました.具体的にいうと,2×2の表を用いた,大人モードでの乗法・除法の意味理解については,『算数・数学科重要用語300の基礎知識』のp.187, p.189が挙げられます.より新しい本だと,『算数教育の理論と実際』p.107にある図5-2-8も,同様の表と言ってよさそうです.


それから,

だったら、1mから8gに向かう下から上の矢印も考えられそうなものであり、右上の64gが知りたいときに、8m×8g/m=64gと答えを求めることができるはずです。でも、いまとのころそのような矢印は見つけられていません。

http://math.artet.net/?eid=1421833

について,教科書から離れますが,類例があります.


(『田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』p.146)

なのですが,『筑波大学附属小学校田中先生の算数4マス関係表で解く文章題―小学4・5年生 (有名小学校メソッド)』の中で,上下方向に矢印を向けてしかも「×数」としているのは1箇所だけで,それは割合から百分率への変換です.
事例を通じて知見を得て,出版するまでの過程で,同じ行に同じ単位(同種の量)として4マス関係表をつくる場合,上下方向に「かける」ことはしないほうが得策---そのようなかけ算は教育上有益でない---と考えるようになったのではないでしょうか.


別記事で

現在の教科書はどうなっているかというと、小学校算数教科書6社の比較(かけ算から割合まで)で示したように、検定教科書を出している6社は、小学校高学年の数量分野でこの二重数直線を多用しています。
 実際に教科書会社がどのような意図でこの図を使っているのか、教室で先生がどのように教えているかはわかりませんが、少なくともいえることは、この図は2量の比例関係に注目した図であるということです。そして、小4の段階から導入していますので(それより前は未確認)、比例という概念を学ぶ前に、比例を用いて乗除を理解させようとしていることがわかります。しかし、比例そのものの学習では二重数直線を使いません(比例の学習では、おなじみの2量の対応表を用いている)。

http://math.artet.net/?eid=1421823

とありますが,二重数直線の教科書採用については,現行の学習指導要領解説に図がある(p.166, p.169)のが大きな要因であるように思っています.一つ前では,見られません.
その図と説明を見た限り,「2量の比例関係に注目した図」というのは適切でないようにも思います.主眼は,「小数の乗法の意味」です.
小4の段階からあるのは,小5で,小数の乗法をよりスムーズに理解できるようにするためというのが思いつきます.リレーの助走のようなものです.


それでリンクを通じて,興味深い記事を知りました.

本文は,数教協スタイルの「1あたり量」「内包量」,そしてパー書きの推奨で,ポジショントークと思いつつ読み進めました.
「〔2012年4月6日 追記〕」のところがすごかったです.おつかれさまです.で,

したがって、自分の解き方だけが正解でありそれに従った立式だけが正しいという考えは間違っている。世の中にはそういう教師がいて自分の教えたやり方に従わない子供の考えた式に×をつける者も確かに存在する。その教師は文章題の解決に用いられた式には意味があると考えているかも知れない。しかし「間違った」立式をした子供が表現した式にも意味があるというところまで想像力が及ばなかったのではないか。(略)

ことば・その周辺 PC版「割り算から見た量(1)――内包量と外延量」

言いたいことは,直後の「だから」以降なのだろうなとは思いつつも,「間違った」立式を見た教師・子供の対応について,思い浮かぶものがあるので,いくつか例を挙げます.

「ベンチが5こあります。そこに6人ずつすわっています。ベンチにすわっている人は何人でしょう」
問題をつくったA男は,数字の順序で5×6としてしまった。
そこで「絵」を描かせると,「ああそうか」とA男は6×5の式が立てられた。

(『算数の教え方には法則がある』p.71)

今日の算数の時間に,21×3の計算の仕方を考えました。それで最初に,21×3でとける問題をつくってみました。ぼくはつくってもう1回読んだら,3×21になってしまっていたので,すぐ書き直しました。
(『「板書見ながら」算数作文―話すだけの授業からの脱却』p.6)

ブラジルに行ったときに6の目のサイコロを見せて,「サイコロの目の数はいくつですか」と言うと,みんな「6」と言った。「どうして6と考えたの」と尋ねるとある子が出てきて,「3×2」と書いたんです。これを3×2と見たわけを聞きました。私がどうしてそんなことを聞いたかというと,式の後ろに潜んでいる感覚は,日本語圏以外では普通意味が逆です。3×2と言えば,日本では「3個のかたまりが2個ある」という意味ですが,英語圏も中国語圏もみんな「3個ありますよ,2つのものが」という意味です。
(略)だから,3×2とブラジルの子が書いたから,あえてちゃんと聞いてみたいと思ったんですね。そうしたら,はじめに出てきて説明した子は3個ずつのかたまりを作ってそれが2つ分と言いました。おやっ,これは日本と同じだぞと思っていると,他の仲間みんなが違う違うと言うのです。要するに間違っていたのです。どこの国も同じですね,間違える子がいるのは。本当は2個のかたまりが3個分だと別の子が説明してくれました。
(『坪田耕三の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』p.138; 日本の「かけ算」,世界へ・世界とより孫引き)

「想像力」があるからこそ,「その式,どういうこと(意味)?」と尋ねることができ,書いた本人が間違いだったことを確認できているわけです*1
記事を進めて

「4人のそれぞれに3個/人のみかんを配る」と考えて「4人 × 3個/人」と立式した数少ない子供の例を授業の中ですくい上げて、「3個/人 × 4人」も「4人 × 3個/人」もともに正しい考え方であることを説明し、それを通してかけ算の交換法則へと話を展開する教師もいるのではないか。(略)

ことば・その周辺 PC版「割り算から見た量(1)――内包量と外延量」

またここで切りますが,「残念」の言葉しか思い浮かびません.
結局のところ,「3個/人 × 4人」も「4人 × 3個/人」もともに正しい考え方であるとする授業事例がない,ということなのですね.
これまで,2年のかけ算の学習指導案をWebで読んだら,はてブしてきましたが,「4人 × 3個/人」に相当する式を正しいとする授業事例は,未だ見つかっておりません.
一つ,気にしておきたいのは,「4人に3個ずつみかんを配る」に類する問いは,教科書や1個の学級・学校を超え,複数の学校を対象とした学力調査で,乗法の意味理解の度合いを測るために出されているという点です.かけ算・資料集3(その他)の中でいくつか,出題例を載せています.
なお,「長方形の面積の公式が「縦×横」と「横×縦」」を理解するには,(囲い込みなしの)アレイをもとに,「1あたりの数」と「いくつ分」のペアを見つける活動があれば十分です.言い換えると,現在の学習の仕方で問題なく,「縦×横」も「横×縦」も理解できるようになっているわけです.
囲い込みなしのアレイと,区別したいのは,「1あたりの数」と「いくつ分」のペアが2つ,埋め込まれている状況です.p.181の風船の数,「1つの花びんに紅白1本ずつの花がさしてある.この花びんが5つあるときの花の総数はいくつであろうか」(『算数子どもの考え方教師の導き方 2年』改題),『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉』に見られる「ふしぎな花のさく木」,『誰もができる子どもに活用力をつけるワクワク授業づくり』p.69の指導案,がその例です.
風船の件は中国の事例ですが,日本の算数の授業でもその絵からは「5×3=15」と「3×5=15」が導けそうです.ですが,風船をすべて同色にして,くくられている5つが区別できなくなったら,状況が変わりまして,そこから得られる式は「5×3=15」だけになります.
アレイと式との対応づけは,次のようになります.
 … 3×5,5×3
 … 3×5のみ
 … 3×5,5×3

(リリース:Tue Aug 21 03:09:25 2012ごろ)

*1:ブラジルの例では,3×2と書いた子が間違いを認めている記述はありませんが,わざわざ明示するほどでなかっただけのことでしょう.もし「いや,これでいいんだ.だって…」と理由を言っていたのなら,著者にとって,もっと印象に残る出来事になっていたはずです.