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Wikipedia:かけ算の順序問題のリード変更案について

ノート:かけ算の順序問題 - Wikipediaの議論で,リンクなくtakehikomの名前が入っていました.それを含む議論のいくつかについて,思うことを述べることとします.以下で出典を書いていない引用(箱囲み)は,上記ページからです.

1. 出題例

  • 「「いくつ分×1つぶんの数」の順序に書かれた式を誤りとする記述はほとんどなかった」、先に白駒さんが示した東京書籍のページほか、(略)

いったんここで止めます.というのも,東京書籍のページの問題文は,「子どもが 4人 います。みかんを 1人に 3こずつ ふくろに 入れて くばります。くばる みかんの 数を もとめる しきを かきましょう。」で,B県学力調査として挙げています.
一方,上の引用から2つ前の項目でリンクしている「平成22年度実施 学力実態調査の集計と考察 (数と計算 数量関係)」では,「子どもが 3人 います。みかんを 1人に 4こずつ ふくろに 入れて くばります。くばる みかんの 数を もとめる しきを かきましょう。」となっています.
2つの問題は,「4」と「3」の数字だけが異なり,あとは同一です.正答率は違っていますので,東京都プラス1県で実施されていると読むことができます.
“基準量が後に示された問題”を,一つの学級や学校を超えた範囲で問い,乗法の意味の理解の状況を測ることが,広く行われているのではないかと思っています.基準量が後に示された問題については,こちらをご覧ください.
全国を対象としたものには,総合初等教育研究所が2005年に実施した計算力調査があります.2年に「6つのはこに,ケーキが8こずつはいっています。ケーキはぜんぶでなんこあるでしょう。」とあります(3年にも,1箇所だけ漢字に変えた,同一文章の出題があります).タイプI・タイプII(未習問題)がついていないことから,その問題作成や採点に当たった人々の間では,この場合の式は8×6になると学校で指導していることを,前提としているのが推測できます.

2. サンプリング

  • 「「いくつ分×1つぶんの数」の順序に書かれた式を誤りとする記述はほとんどなかった」、先に白駒さんが示した東京書籍のページほか、takehikomさんがたくさんサンプリングしています。

当ブログ上での「サンプリング」の集積地は,次の4つでしょうか.

2011年の取りまとめ時点で,1冊の本に,「「いくつ分×1つぶんの数」の順序に書かれた式を誤りとする」ものと,かけられる数・かける数を交換した2つの式のどちらも正解というものがありました.どちらも正解の出題には《複数解》というラベルをつけてきました*1
その後,問題集ではない書籍とつき合わせることで,一方のみを正解とするものが「倍の乗法」,両方認められるものが「積の乗法」に基づいている,という認識に至っています.「本稿では倍(multiple)に関する小数の乗法を考察の対象とし,積(product)に関する小数の乗法は取り上げない」と記して前者のみを対象としている文献や,四則演算の分類表で乗法を「倍」「積」に大別している解説書も,持っているのですが,直近では,分数の根っこについて私が語れる2,3の事項/数学となら、できること 読書猿Classic: between / beyond readersで「multipleの掛け算」「productの掛け算」という表記により,2種類のかけ算を取り上げているのが注目に値します.
そのような「倍」と「積」の違いに注意すると---批判する人々は違いを軽視するか,「積」に依拠して考えているらしい点と合わせて---wikipedia:かけ算の順序問題で引用されている「おはじきを例に順不同な例」*2http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:KoushijouMikaKakezan.pngの図示*3は「積」と関連するものであり,論争の対象となっている出題は「倍」であると,区別することができます.

3. かけ算の順序の国際比較

ありがとうございます。 出典として以下のものを提出しておきます。逆順のルールが主流の国や言語圏が存在する[11][12]。 順不同の国は依然要出典ですね。--Gyulfox(会話) 2013年7月6日 (土) 07:54 (UTC)
これは出典になりえないのが残念ですが、予備知識としてインドやニュージーランドも日本方式とは逆順[13]ということです。--Gyulfox(会話) 2013年7月6日 (土) 08:27 (UTC)

ノートでは,「日本のかけ算は「いくつ分×1つぶんの数」の順序だが,海外では逆である」という方向に進んでいるように見えますが,日本の算数教育に関わっている人々は,そういった違いを考慮した上で,授業を計画し実施しているという実情には,たどり着いていないようです.
把握している中で最も古い文献は次のものです.

その最後のページ,「参考文献」の何項目かで注意書きがありまして,以前に書き出しています.

4) 4×2は,英語ではfour times twoまたはfour twosなどという関係で,乗数と被乗数がわが国の場合と反対になっている.
8) 以下では,乗数,被乗数の順については,わが国の表記による.
9) (略)なお,註4)で,アメリカでは,乗数を先にかくとのべたが,最近では,わが国の場合のように,乗数をあとにかく方法(乗数をoperatorとしてみる場合に統一的にでき便利である)をかなり取り入れるくふうがされている.この場合,3×4は3 multiplied by 4などと呼んでいる.
(p.77,転載元)

古さとしてはその次に,『[isbn:9784480091963:title]』p.67が来ます.巻末の出典情報を信頼するなら,「次元を異にする3種の乗法」の初出は,科学朝日1977年5月号です.

「日本のかけ算は「いくつ分×1つぶんの数」ですね,海外では逆だけれど」という趣旨のことが書かれた解説や書籍には,次のものがあります.◆は,当ブログで主要部を引用しているところへのリンクです.

そういった式の表示の違いに配慮しながら,国際交流や教材開発を行っている事例として,次のものがあります.

「順不同の国」というか文献として,一つ思い浮かぶのは,Anghileri&Johnson (1988)です.

When considering how the symbolic expression 3×4 is interpreted by adults and children, we find the most common expressions are "3 multiplied by 4," "3 times 4," and "3 fours." Some people will use the expressions quite interchangeably on the understanding that all three are equivalent; in the domain of mathematics this may be acceptable but in real life there is an important distinction between these different interpretations. (略)

([http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20121222/1356112738:title=転載元])

とはいえその次の段落には,「4つずつキャンディを持っている3人の子どもは,3つずつキャンディを持っている4人の子どもよりも,運がいい(キャンディの総数は同じなのだけれども)」と書かれています.「a×bとb×a(例えば,5×6と6×5)が同じでないような,日常生活の例を挙げなさい.」という練習問題も入っています.
この文献から導き出せるるのは,3×4の解釈には大きく分けて2通りあるという「現状」のもと,「算数の指導」としては3×4と4×3は区別すべき,だと理解しています.

4. 何と何の対立か

(*5) 双方の対立を「採点方針」に合わせました。

このすぐ上の差分から,修正後の文案を取り出すと,次のようになります.

かけ算の順序問題は、かけ算によって解が得られる文章題において、算数を学ぶ過程において適切とされる指導法に基づいて、特定の順序で書かれた式のみを正解とする採点方針と、どの順序で書かれた式でも正解とする採点方針にすべきであるという主張の対立である。特に1970年ごろから日本で広く話題となり、「かけ算の正しい順序」「かけ算の順番」などとも言われている。

これを見てみると,「どの順序で書かれた式でも正解とする採点方針」をとっている事例・文献があるのかが,気になってきます.2年生でです.

それから,「特定の順序で書かれた式のみを正解とする採点方針」を対立の一つに設定すると,asahi.com(朝日新聞社):2×8ならタコ2本足 - 花まる先生公開授業 - 教育が論争の対象外となってしまうように見えます.もう少し書くと,上の文案では,「どの順序で書かれた式でも正解とする採点方針」に賛成する人々は,「算数を学ぶ過程において適切とされる指導法に基づいて」には賛成なのか,もしくはこれにも反対するのか---多くの人は反対しているのが,朝日の記事への,はてブを含めた反応でしょう---が,分かりにくくなるのです.
なので,現状の「(略)逆順は不正解として扱う指導法と、(略)不正解として扱うのは不適切であるという主張の対立である」のほうが適切なように思います.

5. その他

もともとこの問題を解き明かしていけば、数学者の森毅氏がインドや西洋の順番のルールを見て、子供たちにはより合理的に教えるべきだと考えて日本的な逆順のルール推奨を提唱して、それが小学校学習指導要領に反映されたところまでは良かったけれども、一部の教科書と指導書に逆順ルール以外を誤りであると説明するものが出てきて、それに則って教師たちが計算式にペケを付けはじめたところから、朝日新聞が取り上げて世論がもりあがったという、そういう話です。

森毅氏が…提唱して、それが小学校学習指導要領に反映された」は,時系列が合っていません.
というのも,「逆順ルール以外を誤りである」とする,学習指導要領の試案が,昭和26年に出ています.http://www.nier.go.jp/guideline/s26em/chap5.htmにある,「3人のこどもに,えんぴつを2本ずつあげようと思います。えんぴつがなん本いるでしょう。どんな九々をつかえばわかりますか。」という問題です.

それから正しい順番が存在するという主張が実数(虚数や超実数もですが)において数学の世界では常に「偽」なのでなじまないのは当たり前です、これは誰かさんの批判というわけではなくて出典不要のことです。「教師たちは「数学的にも算数的にも」根拠があると信じ始めているようにみえる」(高橋誠 2011, p. 47.)ような今日では、百科事典としてひとこと説明に加えておくべきでしょう。

「正しい順番が存在するという主張」を誰がしているのかにも,注意を払うべきでしょう.
授業例や学習指導案を見てきた範囲で,小学校の算数で,論争の対象となる出題やその指導において「順序」「順番」という言葉は使われてきていません.

教室を離れ,先生を含む“大人の議論”とする場合には,かけ算の指導に関連する「順序」の使われ方について,配慮が必要となります.事例や状況を,[http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20121105/1352042888:title=ここ]で整理してきました.

岩永, 恭雄「算数・数学の指導に必要な数学の知識・素養について」信州大学教育学部紀要 119:1-6(2007)は「かけ算の正しい順序」に対する批判の節に追加できる内容ですね。

おお,この文献は面白いぞ,刊行年も2007年でわりと新しいし,と思いながら読みましたが,「小学校における算数では,いわゆる積に当るものとしては2項演算だけであり,作用の考えが必要になる内容はなく」は算数教育の知見に反するなあという印象を持ちました.論としては一つの考え方だけれど,学校教育に反映させるには,「誤った指導」と断じる前に,これまでの蓄積と照らし合わせ,調整を図っていく必要があるように感じます.知見・蓄積として,「積…2項演算」の課題は,かけ算には本来,順序がないの後半で3つ,引用して示したとおりです.
「批判の節に追加できる内容」であることには同意です.なお,トランプ配りと積の結びつきについては,遠山が1972年に書いたのと同じ考え方が根底にあると言えます.過去にも検討してきましたが(例えば,りんごのかけ算),今月,別の観点で記事を書いてみることにします.*5

逆順のルールが主流の国や言語圏が存在するの出典として黒木玄「かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきである」全体を引かれるとなんだかわかりませんので場所を特定願います。見た感じはっきりそういう情報はみつかりませんでした。

氏が今年書いたものとして,http://genkuroki.web.fc2.com/sansu/#gokaiがあります.例えば「英語圏においても6×8は「6個の8の和」(被乗数は8)を意味するとは限らない」とあり,その他を見ても,「逆順のルールが主流の国や言語圏が存在する」ことよりも,言語と数式を結びつけるべきではないという趣旨のように見えます.

話を戻して済みませんが、読者理解のために加えた中立的な説明が、いつのまにか批判文として扱われてしまっています。 言い回しは柔軟に変えていただいて結構ですが私の最初の案は、以下の通りだったはずです。

・・・(中略)1あたり×いくら分の順序に統一された教科書、教科書指導書、市販の学習参考書は広く見られるが、正しい順序があるという主張は数学の交換則にはなじまず、世界統一の教え方でもない[7]。文部科学省による学習指導要領および指導要領解説ではとくに規定されていないため、指導法は学校や教師に任されている。

「なじまず」「世界統一の教え方でもない」などの表現は特に問題があるとは思えませんが、例えば「ヨーロッパ式やインドとは逆」など他の良い言い方があるなら換えて頂いても良いのですが、批判文として書き換えてしまっては困りものです。--Gyulfox(会話) 2013年7月8日 (月) 15:49 (UTC)

引用にあたりレイアウトを変更しています.んで:

  • 上に書きましたが,「正しい順序があるという主張」は学校では採用しておらず,批判する人々が持ち出した主張・見方です.そういった(批判側の)主張がどのようになされてきたかについては,(ノート内ででも)整理・検討を期待したいところです.
  • 交換則を前提としても,a×bとb×a,a+bとb+aがそれぞれ「違う」ことは,算数・数学を指導する際の注意点として,国内外の書籍で記されています.当ブログでの取りまとめは□×△と△×□の違い:事例です.高木貞治も言及していますので,朝四暮三をご覧ください.

新たに思い浮かんだ疑問:

  • かけ算以前に算数において「世界統一の教え方」があるのでしょうか?
  • かけ算について世界レベルで語るなら,School Mathematics Study Group (SMSG)が不可欠ですが,誰も取り上げないのはどうしたことでしょう?

*1:《複数解》は多くの場合,図を伴っていました.それと,こういった話で「複数解」という言葉が必ずしも良くないことを,複数解として書いてきました.

*2:ただし,算数の指導で「順不同」「どちらでもいい」としているものは見かけません.例えば『10の視点で授業が変わる! 算数教科書アレンジ事例30』p.37には,「※必ず(1つ分の数)×(いくつ分)のかけ算の意味に戻って,「どうしてかけ算に表せるのか」を話し合わせるようにする」という注意書きがあり,かけ算の式を含む子どもの発言も,この方針に沿ったものとなっています.『小学算数なっとくワーク2年生』p.101でも,2×8=8×2を導くのに同様の方針をとっています.ところでおはじきの例を引用する場合,同ページの「数の乗法的な構成」にも意識を向けたいところです.すなわち,「乗法(的)とは何か」の検討が欠かせないように思っています.

*3:このような図を,授業で子どもが描いたらおそらく,「3人はどれ?」「4個ずつはどこ?」といったツッコミが,他の子どもまたは先生から来るのではないかと予想します.その図は,問題文にある「3人」「それぞれ4個ずつ」の情報が落ちているのです.

*4:ノートの「起源について」でも,リンクされています.

*5:8月になってから追記:書き上げることができませんでした.気長に,情報を揃え,執筆していくとします.