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もちろん、僕は教育の専門家じゃないからなんとも言いがたいんですが、あれで×を食らった子供が本当にその結果に納得しているかの調査とかあるんですかねー。あとその後の理解度の追跡調査とかも。
「掛け算順序問題の画期的な解決方法」についての補足 - novtanの日常
「その結果に納得しているかの調査」も「その後の理解度の追跡調査」も,ないんじゃないかなと思います.というのもそんな調査をする「目的」も,そういった調査をするにあたってこれまでどんなことが明らかにされているかの「状況把握」にせよ,調査をすべきだという人々は取りまとめてきていないので,そんな調査をするニーズが出てこないのです.
私自身は,診断的評価・形成的評価・総括的評価の3点セットのもとで,論争の対象となっているかけ算の文章題の使われ方については,おおよそ次のように考えています.
- 診断的評価(ある単元の学習に先だち,それまでの学習事項が定着しているか)や総括的評価(多くの人が想像する形式のテスト)では,すでに学習した内容に基づき正誤判定がなされている.またレディネステストにおいては,なぜバツかなぜマルかはあとで先生が言い(回復学習),それで子どもたちが思い出してそうだったと理解する.
- 形成的評価における出題では,そこで評定をしない分,なぜバツかなぜマルかを“形成”していくことになる.
診断的評価の一例を,「計算の意味の理解」の調査における一考察にまとめています.その記事の前半では,クラスだとか解答者全体(いわゆる母集団)における正答率について,見つかったものを列挙していたのですが,人数や実施回数の面で重要な,都算研の学力実態調査が抜け落ちていました(平成22年度,平成24年度).ナニナニ評価というのを初めて聞いたという方は,『教育評価』と題する本を書店で購入してもいいですが,Webで手軽にというのなら,評価と設計をご覧ください.
そのほか,かけ算という演算の意味を取り扱った介入研究として,次の3つを把握しています.3番目の文献は,「掛け算の順序」に批判的な人々も取り上げています.
- 岸本忠之: 小数の乗法における学習状態の移行, 富山大学教育実践総合センター紀要, No.1, pp.1-8 (2000). http://ci.nii.ac.jp/naid/110000094748, http://hdl.handle.net/10110/576
- 高島純: 整数の乗法の理解過程に関する研究: 茂男君と和男君へのインタビューを通して, 上越数学教育研究, No.15, pp.75-84 (2000). http://ci.nii.ac.jp/naid/110000087958, http://www.juen.ac.jp/math/journal/files/vol15/takashima.pdf
- 宮田佳緒里, 蛯名正司, 工藤与志文: かけ算の意味理解を促すための問題状況の図示の試み---学習支援教室に参加する児童への教授活動を事例として---, 東北大学大学院教育学研究科教育ネットワークセンター年報, No.11, pp.53-60 (2011). http://ci.nii.ac.jp/naid/40018948844 http://www.sed.tohoku.ac.jp/~edunet/annual_report/2011/11-06_miyata.pdf
「その結果に納得しているかの調査」も「その後の理解度の追跡調査」について,あらためて自分のスタンスを書いておくと,次の2点です.
- 基本的にそんな調査は不要.
- するなら,したい人がしてくださいね.でも結果を出したら,私も,算数教育の専門家も批評しますよ.
もとの記事に「実は元ネタがありまして…」として何か適切な情報源にリンクがされていたら,明確に皮肉的ネタとなっていたのですが.