わさっきhb

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小学校の授業で、かけ算に順番があるという誤ったことを教えないでください〜横浜市の回答

所感

回答の最初の文が,問い合わせに対応していないところに,まず戸惑いを覚えました.読み直すと,「<投稿要旨>」となっています.ということで,問い合わせの全文と思って読んではいけないのですね.
理由の中心となるのは「式の意味」.もう一つ挙げるなら「累加」.
問い合わせた側は,要旨として圧縮されることを含め,その問い合わせがどのようになるかをよく理解していなかったのかなあと想像します.たとえば「40年50年も」と書いたら,「今はこうなっているんですよ」というニュアンスの返答ができる余地を与えてしまうのです.
投稿要旨も回答の仕方も,好きではありません*1.ともあれ,このような回答の事例ができ,誰でも読めるというのは,大切なことです.魚拓をとっといて,個人的なアーカイブに追加しておくとしましょう.

情報源

関連(書籍など)

2年生の導入時では,被乗数と乗数を明確に区別して扱っているが,これもかけ算の意味の理解を確かにするためと考えられる.図1のみかん全部の個数を4×6=24と表すときに,被乗数4が一つ分の大きさ,乗数6が幾つ分を表していることを大切に扱う必要がある.ただしこの意味は世界共通でなく,例えば英語ではこれを6×4=24とするので,被乗数,乗数の意味は逆になる.なお昭和44年の「小学校指導書算数編」では,基準にする大きさのいくつ文かにあたる大きさを「表わす」ことに触れているが,表現という側面からは被乗数と乗数の意味が特に重要となる.またかけ算の学習は,例えば2の段では被乗数が2の場合に乗数を1から9まで系統的に変化させ(図2),8×2などはここで扱わないが,これもかけ算の意味を大切にしていることの一つの現れであろう.
(布川和彦:かけ算の導入, 日本数学教育学会誌, 92(11), 2010年)

Students are required to clearly distinguish between multiplicands and multipliers at this stage because this distinction helps them understand the meaning of multiplication. Teachers pay attention to whether their students understand that multiplicands express sizes of units and multipliers express numbers of groups. These meanings are reversed from the viewpoint of some educators elsewhere in the world. The amount of oranges in Figure 1 is expressed as 4×6=24 in Japan. The expression 6×4 is not usually allowed at the introductory stage.
(Nunokawa, K. (2010). Multiplication: introduction.)

乗法の場面、「1ふくろにミカンが3こずつ入っています。5ふくろでは、ミカンは何こでしょう。」は、3×5と立式される。立式は、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」とまとめられ、それぞれ被乗数、乗数という。ところで、「オリンピックの400メートルリレー」や「このDVDは16倍速で記録できる」、「xのk倍は」の式は、どのように表わされるであろうか。それぞれ、一般的には「4×100mリレー」、「16×」、「kx」と表される。被乗数と乗数の位置が教科書の書き方と逆になっていることに気付くであろう。この例から分かるように、乗法では、数の位置ではなく、数が意味する内容に注目して、どの数が1つ分の数であるか、いくつ分はどの数かをしっかりと読み取ることが大切である。第2学年や第3学年では、読み取った数を、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」と表現できることが重要であり、逆に、この立式ができているかで、数の読み取りができているかを判断できる。しかし、高学年になり、乗法では交換法則が成り立つことや外国での立式を知り、数の意味をしっかり理解できていれば、必ずしも第2学年で学んだ順序で立式することを強制しなくてもよい。
(『小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)』pp.91-92)


(『まるごと2年生 2年生担任が まず読む本 (教育技術MOOK)』p.16)

東京都算数教育研究会が昭和44年1月に東京都の2年児童約2,000人について行った調査によると,次のように報告されている.
〔問題〕8×6のもんだいをつくりました.よいものに○をつけなさい.
(1)( )みかんが一つのおさらに8こ,もう一つのおさらに6このせてありますが,みかんはなんこありますか.
(2)( )えんぴつを6本かいました.このえんぴつは1本8えんです.いくらはらえばよいですか.
(3)( )1まい6えんのがようしを8まいかいました.いくらはらえばよいですか.
(『整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)』p.117)

補足:上の引用は,1978年に書かれた記事*2の一部です.当時も現在も,(2)のみに○をつけるのが正解と思われます.

「3×2になる問題を絵で書いてごらん」といってやらせてみると,子どもたちは喜んで絵をかきます。
〔子どもがつくった3×2の絵題〕

ところが,2×3の絵題になっている子がいます.

そこで,Mくんにたずねてみました.
T「○○パンの車の絵ね」
M「そう」
T「うまいねえ.きみ,このトラックの問題は何×何の問題?」
M「3×2」
T「そうか……じゃあ,このトラックの絵の横に,3×2のタイル図をかいてごらん」
M(わらばん紙の余白にフリーハンドで右の図をすらすらかく.)

T「よし,じゃあ……かけ算のことばでいうと,①は? きみのはトラックだから」
M「1だいに3人」
T「は?」
M「2だい.あれ?」(自分の絵は1台に2人になっています.)
M「……」
だまって自分の机についたMくんは,こんどはつぎの絵をかいて持ってきました.

こんどは3×2の問題になっています.このように,かけ算の図のかき方がわかり,すいすい作図ができるようになっている子でも,かけ算の意味や,1あたり量の意味がしっかり身についていないことがあります.
(『さんすうの授業 第1階梯―自主編成研究講座 小学校1・2・3年生』pp.174-175)

関連(Webの情報)

乗法が用いられる具体的な場面を,×の記号を用いた式に表したり,その式を具体的な場面に即して読み取ったり,式を読み取って図や具体物を用いて表したりすることを重視する必要がある。その際,乗法の式から場面や問題をつくるような活動も,乗法についての理解を深め,式を用いる能力を伸ばすために大切である。
式に表す指導に際しては,「1袋に5個ずつ入ったみかんの4袋分」というような文章による表現,○やテープなどの図を用いた表現,具体物を用いた表現などと関連付けながら,式の意味の理解を深めるとともに,記号×を用いた式の簡潔さや明瞭さを味わうことができるようにする。
(『小学校学習指導要領解説 算数編』p.98

学習指導要領は「教育課程の標準」「各教科で教える内容」を定めたものであり、例示として片方の順序を示しているところはあっても、その片方の順序でのみ式を書くことを要請する文は存在せず、他方の順序を不正解とすることもない。学習指導要領・学習指導要領解説に基づき教材や授業、テストとして具体化されていく中で、特定の順序が選択される。そのとき、逆の順序に書かれた式を正解とするか不正解とするかは様々である[14]。

かけ算の順序問題 - 学習指導要領・学習指導要領解説の記述

補足:「[14]」は,上で「乗法の場面、」から引用した書籍のことです.学習指導要領・学習指導要領解説の記述のセクションは,T.m.930こと私が改訂に携わりました(初めてのWikipedia編集―かけ算の順序問題).出典を入れるよう提案をしたのは,T6n8さんで,このお名前は今回の情報源の[twitter:@temmusu_n]さんと類似しています.

 かけ算の式を書く順番について、進研ゼミでは(1つ分の数)×(いくつ分)=(全部の数)で立式するよう指導しております。理由は以下の通りです。
1:式は単なる「答えを出すもの」ではなく『数量の関係を表すもの』として指導しています。学習指導要領には「乗法が用いられる場合とその意味」として「乗法はひとつ分の大きさが決まっているときに、そのいくつ分かに当たる大きさを求める場合に用いられるつまり累加の簡素な表現として乗法による表現が用いられることになる」とあるので、そのような乗法の意味に合わせて立式をしています。
 かけ算の式を「単なる答えを出すためのもの」としてではなく「数量の関係を表すもの」としてとらえて、式を見たときに、誰でも同じ意味に読みとれなくてはいけないため、『飴を5個ずつ4人に配る』のであれば5×4と表現することが必要で、4×5では『飴を4個ずつ5人に配る』というように状況が変わってしまいます。

5人に飴を4個ずつ配ると飴はいくつ必要か 赤ペン先生回答│NEWSポストセブン

「かけ算の順序」に疑問を持つ人が教育委員会に働きかけ,教材の撤去や,正解判定の明確化(あるいは変更)をさせるという事例が,昨年そして今年と,起こっています.

今後もこのようなことが広がっていくのだろうかと考えてみたとき,その交渉や決定のプロセスにおいて,算数・数学教育に携わってきた人々の活動や経験,また成果(論文・報告書など)が,じゅうぶんに反映されない可能性を憂慮します.

非公開 - わさっき

1月22日追記

有名どころがTwitter上で酷評していました.

ツイートには現れていませんが,両者とも,自分の主張が国内外の算数教育において異端者であることを自覚しているようなところが見えます.例えば,平成27年から使用される,小学校の教科書について,今年度は検定の段階ですが(教科書Q&A:文部科学省),ツイートを見る限り教科書作成に携わっておらず,言ってみれば算数教育の非専門家が,独自見解をもとに,外野で騒いでいる姿なのです.
部分的にはなるほどそうですねというところもありますし,それぞれ教育の仕事を通じて生徒や学生に影響力を与えている方々なので,今後も距離を置いて見ていくとします.そうそう,http://hashtagsjp.appspot.com/tag/%E6%8E%9B%E7%AE%97は興味深い情報源となっています*3

(最終更新:2014-01-22 朝)

*1:この所感も,上から目線となっていて,自分自身,好きではありません.

*2:花村郁雄: かけ算の意味と方法―つまずき事例―, 新しい算数研究, No.85, pp.19-22 (1978).

*3:そこは,人が入れ替わり立ち替わりで自分の主義主張を話したり,複数人でやりとりしていたり,そうかと思うと突然,静かになったりする,街頭の(「かけ算の順序」ネタ専用の)名所であるように感じています.