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2×3と3×2,答えは同じだけど,意味は違う(2014年版)

おことわり:「答えは同じだけど,意味は違う」を取り上げた記事の最新版は,3×4と4×3,答えは同じだけど,意味は違う(令和2年版) - かけ算の順序の昔話です.

たった2日で,多数のはてブ.[twitter:@akisameruu]さんをフォローすることにしまして,その後のツイートを見ました.おつかれさまという思いに加え,自分としては適切な形のリファレンスを,タイムリーに提供できるようにしておかないと,という思いを新たにしました.


画像を見て,一つ,思い浮かんだのは,ツイートでリンクしている,2×3と3×2の違いを表したというを,かけ算を学習中の小学2年生の子どもが描いたとしたら,自分は,みんな(大人)は,クラスの子どもたちは,どのように反応するのだろうか,です.
「違いがよくわかるね」でしょうか,「2×3の絵,3×2じゃないかな」でしょうか.
どのくらいのパーセンテージでそれぞれの(または他の)反応をするか,またそれは小学校の先生とそうではない人々とで違ってくるのか,断言はできません.
しかしながら,はてブのコメントを見たところでは,「2×3の絵,3×2じゃないかな」や,そこから派生し「2×3の絵は,3×2でもある」「3×2の絵は,2×3でもある」を経て,「どちらも2×3であり,3×2」と読めるものが,「違いがよくわかるね」より確実に多いと言ってよさそうです.
ちなみに私ならどう反応するか,メモしておきます.我が子が将来,そのような本人なりに描き分けたものを持ってきたら,「ふむ,こう描いてみたんやな」と反応し,後はケースバイケースでしょうね.学校の先生がこれをバツにしたというのなら,その2×3の絵を3×2(=3+3)と見られちゃったんだね,と言うことになります.


本題に進む前に,自分のスタンスを書いておきます.これまで見聞きしてきた情報をもとに,かけ算の順序の件は,次のとおり認識するようになりました.

  • 文字のみだと,「2×3は[●●][●●][●●],3×2は[●●●][●●●]」が最も簡潔です.*1
  • 「2×3で求められる」と「2×3で表される」を区別します.*2
  • 「[●●][●●][●●]は,2×3だけでなく,3×2でもあるのだ」といった主張には,賛同できません.その考え方を認めると,「[●●][●●][●●]と[●●●][●●●]は算数において区別できない」が推論できます.*3


さて,これまで書かれてきた情報(教師の経験が文字や絵になったもの)と,照らし合わせていくとします.新たなリファレンスづくりを兼ねています.
a×bとb×aの,図示による違いの表現は,2012年,2011年,そして1961年にそれぞれ出版された本に載っています.



本は,上から順番に,次のとおりです.

教科書は,平成23年度〜26年度使用の複数社で,対となる文章題を並べて提示しています.

  • 東京書籍(2年下p.21)*4
    • えんぴつを 1人に 2本ずつ,5人に くばります。えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。
    • えんぴつを 2人に 5本ずつ くばります。えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。
  • 大日本図書(2年下p.45)*5
    • 2つの ふでばこに えんぴつが 6本ずつ 入って います。えんぴつは 何本 あるでしょう。
    • えんぴつを 1人に 2本ずつ,6人に くばります。えんぴつは 何本 いるでしょう。

問題集からだと,昨年出た『算数の学習プリント―学力調査・算数的リテラシーに対応! (教育技術MOOK)』に,6×4,4×6の式を先に与え,それぞれの「式になるようなもんだいをつくりましょう」とする出題があります.
かけ算の式にするより前の段階で,違いを理解するようにしよう,というツイートも見かけます*6


算数では,どんな場合も,a×bと書いたらそれはb×aではない(b×aと表せない),としているわけではありません.一つの図が,a×bにもb×aにもなるという場面の例もあります.例えば以下の内容をもとに,公開授業が行われています.

これについては補足が必要です.これは公開授業のための「展開」として書かれたうちの一部で,学習指導案に似た形で記述されています.
番号が「3.」から始まっていますが,まずは,「はこが、4はこあるよ。それぞれのはこには、あめが3こずつ入っているよ。」という文をもとにして(絵は見せずに),子どもたちが式を答えていきます.
「3×4=12」「4×3=12」の式が出て,文と合っているかを話し合います.
その後,絵はこうなのでした,と提示します.
冷静に読めば,その図に対して「はこが、4はこあるよ。それぞれのはこには、あめが3こずつ入っているよ。」は情報不足なのが見てとれます.文からは,どの箱にも□△○が1個ずつ入っているという情報が,含まれていません.そのため,図の提示の前後で,認められるかけ算の式が変わってしまうわけです.*7


海外に視点を移します.昨年11月,台湾メディアが,自国内の教育の話題として,この種のかけ算の問題を報道しました.

問題文は「一打鉛筆有12枝,毎枝賣8元,一共幾元要如何計算?①8×12②12×8③8+12④12+8。」で,日本語に訳すと「鉛筆1ダースは12本である.鉛筆が1本8元のとき,全部で何元になるかを,どの式で求めればよいか」です.12×8を選んだら,間違いとされています.動画の途中では,老師(先生)がホワイトボードを使って解説しており,「被乘數」「單位」をかけ算の記号の左に,「乘數」「數量」を右に書いています.
ですのでこの台湾の件,日本と同じです.韓国も同様なのを,掲示板を通じて把握しています.冒頭のはてブコメントの中で,id:gimonfu_usrさんがwikipedia:かけ算の順序問題(海外でのかけ算の導入)にリンクしていますが,中国に関しては,授業観察をした秋田大学の杜威教授が,「量の扱いではやはり不具合があって,教師たちの丁寧な対応によって乗り越えているところである」と指摘している(*)ことにも,留意したいところです*8
もう一つは,1988年に出た洋書からです.主要部は次のとおり.

For children, three lots of four and four lots of three are fundamentally different. They think in concrete terms---three children each having four candies are luckier than four children each having three candies although the total number of candies is the same.

Exercises
1. Give some real-life examples of situations in which a multiplication product a×b (for example, 5×6) is not the same as b×a (6×5).

The balance or symmetry in the multiplication square relates to a very important property called the commutative property of multiplication, which states that for any two numbers a and b, a×b=b×a (for example, 3×4=4×3). Note that this is a property of numbers. While it is true that 3×4 is equal to 4×3, 3×4 may not be the same as 4×3 in a real-life situation.

要約すると,初めの引用は,「3人の子どもたちが4個ずつキャンディを持っている」「4人の子どもたちが3個ずつキャンディを持っている」とでは,キャンディの総数は同じだけれど,4個ずつキャンディを持っている子のほうが,3個ずつの子よりも"luckier"ということで,場面の違いを表しています.2番目の引用は,a×bとb×a,例えば5×6と6×5とで,違いがわかるような日常生活の事例を挙げよという練習問題です*9.最後は,交換法則(commutative property)は純粋な数における性質だよ,日常生活では違ってくるねと注意をしています.
出典は以下の本です.英文をコピーして,検索したら,和訳を含むより詳細な情報も見つかると思います.


この1年,「かけ算の順序」についての新展開も,いくつか見ることができました.上で紹介できなかったものとして,第一に挙げないといけないのは,いくつかの教育委員会の対応でしょう.

かけ算の出題で,印象に残っているのは,以下の画像です.これは東京都算数教育研究会による学力実態調査の1問で,約6万人の2年生が解答しています.前回(2年前)から,問題提示が少し変更されています.

これから1年はというと,平成27年度から使用される小学校の教科書の検定結果が出て,読み比べる機会ができるはずです.読めるところに足を運びたいのですが.

その後のリファレンス

2017年4月より,「かけ算の順序」に関する記事はサブブログ(かけ算の順序の昔話)で扱っております.2017年に公開された新しい学習指導要領や,2020年度からの算数教科書についても,記事を書いています.「答えは同じだけど,意味は違う」を取り上げた記事の最新版は,3×4と4×3,答えは同じだけど,意味は違う(令和2年版)です.

*1:「外国だと…」「単位を付けて書くなら…」といった条件が加われば,それに応じて説明も増やすことになります.

*2:[●●][●●][●●]は,2×3で表されるものなのに対し,[●●][●●][●●]も[●●●][●●●]も,2×3で求められます(後者では少し操作を必要とします).2年の授業やテストでは,(3×2で表したり求めたりするのではなく)「2×3で表す」ことができるよう意図して授業を組み立て,また出題をしています.

*3:この推論結果は,ピンポイントで言うと学習指導要領解説で書かれている「記号×を用いた式の簡潔さや明瞭さを味わうこと」と,また広い目では国内外また歴史的な算術・算数・数学の知見---とくに被乗数と乗数の違いに関して---と,合致しません.

*4:http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text/shou/subject/sansu/tsumazuki/ebook/pdf/2.pdf は現在デッドリンク

*5:http://www.dainippon-tosho.co.jp/h23/sansu/sansulink/sa11/default1.html は現在デッドリンク

*6:これは定期的に流しているものらしく,https://twitter.com/GakkenKyoshitsuを開いて遡っていくと,1月23日や16日にも同一内容のツイートがあります.前後も同じなので,機械的に送っていると思われます.

*7:ある状況まではナニナニだけれど,実はコレコレなんだよという演出は,他にも見たことがあります.ちょうど良い書籍が見当たらなかったので,思い出しながら書くと…封筒を横にし,紙を引き出していきます.どの列にも3個ずつ,○が描かれています.3個の○,3個の○,3個の○,と出たところで,○の数は,3の段のかけ算で求められることを,教室内で共有します.式で表すと,最初の3個が出たときは3×1,次は3×2,それから3×3です.さらに引き出したら,やはり3個の○.なので3×4です.その次に仕掛けがあって,○は2個しかありません.このときは,3の段のかけ算で表すことができません.なのですが,2個ずつで7つあるので,2×7=14として求められます.そしてこれが,学習指導要領解説に書かれている,「一つの数をほかの数の積としてみる」活動になっている,ということでした.

*8:「かけ算の順序はどちらでもいい」を,日本の小学校の算数指導の主流にしようとするなら,それは中国の後追いになるのではないですか,という問題点も投げかけておきます.これに対する個人的な認識は次のとおり:「かけ算の順序はどちらでもいい」は「ネット上の定説」であり,そこには国際面・歴史面・学術面・実践面での検証がなされておらず,学校教育では受け入れにくいだろうなと感じています.

*9:a×b≠b×aや5×6≠6×5を示せ,とは書かれていません.積(かけ算の答え)が同じになるのを前提として,a×bとb×a,5×6と6×5といった,別々のかけ算の式で表される場面を,それまでに学習したかけ算の意味や式の意味に基づいて,作ってみましょうという意図なのが読み取れます.