いきなりですが問題です.
a[m]の重さがb[g]の針金があります.この針金1[m]の重さは何[g]ですか.a,bを用いた式で表しなさい.
本日の問題のオリジナルは,今年の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の数学A[2](3)です.以下から問題文や解答の割合,出題意図や誤答の分析などが読めます.ファイルサイズが32MBと大きめなので注意してください.
PDF内の解説をあえて無視して,答えを作ってみるなら,次のようになるでしょうか.針金1[m]の重さをx[g]とおき,比を使った式で表すと,a:b=1:x.これをxについて解きます*1.ax=bだから,aでわる…前にaが0でないことを確認します.a≠0という指示はないけれど,問題文が「0[m]の重さがb[g]の針金があります」だったら1[m]の重さは求められないので,a≠0として差しつかえないでしょう.なので両辺をaでわることができて,x=b/a.答えはb/a[g]です.
解答類型と反応率が,出題の数ページあと(ノンブルp.32)に書かれています.それによると,b/aと解答しているものが31.4%,b÷aと解答しているものが2.3%で,いずれも正答としており,合わせて33.7%です.
正答でない解答類型には,a/b,a÷b,ab,「上記以外の解答」,無回答があります.それぞれの割合と原因についは少し後で引用します.
全国学力テスト(学力調査)としては,平成22年度の算数Aで「8mの重さが4kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか。求める式と答えを書きましょう」を出題しています.それを解答した児童が3年たって中学3年生となり,同様の場面に対して(中学生なので)文字式で適切に表せるかを問うたところ,正答率は下がっていると指摘しています.
解答類型の表と同じページに,誤答の分析もあります(強調は引用者,以下同).
○ 誤答については,「ab」と解答した解答類型5の反応率が14.0%である。この中には,除法を用いて単位量当たりの重さを求める問題であることを理解できなかった生徒がいると考えられる。また,わる数とわられる数を逆に解答した解答類型3,4の反応率を合わせると,12.7%である。これらの中には,針金の重さが長さに比例する関係を捉えることができず,問題文に登場する数量の順に,a mをb gでわればよいと捉えた生徒がいると考えられる。
誤答である解答類型9の反応率は,21.8%である。この中には,文字を用いた式について理解していないとみられる「a=b」,「a m=b」,「a+b」,「a−b」,「b」などの解答がある。
無解答率は,17.8%である。
「問題文に登場する数量の順」というのは,かけ算のほう(いわゆる「かけ算の順序」問題)でよく見かけました.
問題 3人のこどもに,えんぴつを2本ずつあげようと思います。えんぴつがなん本いるでしょう。どんな九々をつかえばわかりますか。
どんな九々をつかうかという問に対して,3×2=6と答えたものが予想以上に多いことがわかった。これによってこどもは問題に出てくる数を,その数の意味を深く考えもしないで,出てくる順に書き並べ,その間に,かけ算記号を書き入れることがわかった。問題に出てくる数を頭の中にいったん収めて,演算の決定に導くように問題の場を組織だてる力が欠けているらしいことがわかった。そこで,その欠けていることについての再指導に入るわけである。
(小学校学習指導要領 算数科編(試案) 昭和26年(1951)改訂版 Ⅴ.算数についての評価.転載元)
大きく増えた誤答は、かける数とかけられる数を逆に立式した「6×8」です(2年生34.7%、3年生65.5%)。文章題に出て来た数の順に立式していると考えられる誤答で、「1つ分の大きさ」と「いくつ分」のそれぞれに当たる大きさについてのとらえが曖昧で、かけ算についての意味理解が不十分な実態が見られます。
(『小学校算数 これでバッチリ!計算指導 (指導のこつシリーズ)』pp.72-73.問題文ほか)
いずれにおいても,演算の順序(かけ算の順序,わり算の順序)や式の順序としてかくあるべしというのではなく,間違いとされる式の分析として,「問題文に登場する数量の順」「出てくる順」「文章題に出て来た数の順」と表記しているのは,興味深い共通点のように思います.
これらより,かけ算なら「基準量が後に示された問題」,わり算だと「全体量が後に示された問題」*2は,算数・数学の学習や評価において意義がある,という仮説を立てることができます.その意義に賛同しない人々がいることも,十分に想定できます.
「意義」をもう少し,詳しく書いておくと,文章題では「指示された場面からその数量や関係を適切に把握すること」と「その数量や関係を適切な式で表すこと」が期待されます.基準量・全体量が後に示された問題が,かけ算・わり算の意味を確認するのに適切なものとして,算数教育の実践(授業や学力調査)を通じて培われてきた,ということです.
書籍では『田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)』pp.66-67,当ブログでは「計算の意味の理解」の調査における一考察が関係します.
なお,近年ではPISA型テストや算数的活動(数学的活動,言語活動)を背景に,「自分や他の人が書いた式の根拠を適切に説明すること」もまた,要求されているという認識を持っています*3.
(最終更新:2022-10-06 早朝)
*1:複数の文字からなる等式をもとに,「〜について解く」のは,中学校学習指導要領解説 数学編によると,第2学年の学習内容です(p.107).
*2:かけ算・わり算で共通化を試みるなら,「被演算数が後に示された問題」と表現することができます.4×8,4÷8に対しては,いずれも「4」が被演算数で,演算子(オペレータ)は「×8」,「÷8」となります.このような演算子のとらえ方は,12×8÷6=12÷6×8を説明する際に役立ちます.木村教雄『小学算術教材ノ基礎的研究』では,「乗法及ビ除法ヲ混淆シテ引続キ行フベキ場合ニ,無意味ノ除法ガ起ラナイ限リハ,算法ノ順序ヲ変ヘルコトガ出来ル」と述べています.
*3:2020年の小学校算数の大問2(2)で出題されました.https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2021/01/29/055223