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さくらんぼ計算 再調査

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以上に目を通してから,そういえば英語文献で,さくらんぼ計算はどうなっているのかなと,手元の本を開いてみました.すると,「当たらずとも遠からず」と言ってよさそうな記述が見つかりました.

  • Carpenter, T. P. and Moser, J. M. (1983). The Aquisition of Addition and Subtraction Concepts. In Lesh, R. and Landau, M. (Eds.), Acquisition of mathematics concepts and processes, Academic Press, pp.7-44. isbn:012444220X

Although learning of basic number facts appears to occur over a protracted span of time, most children ultimately solve simple addition and subtraction problems by recall of number combinations rather than by using counting or modeling strategies. Certain number combinations are learned earlier than others, and before they have completely mastered their addition tables many children use a small set of memorized facts to derive solutions for addition and subtraction problems involving other number combinations. These solutions usually are based on doubles or numbers whose sum is 10. For example, to solve a problem representing 6 + 8 = ? a child might respond that 6 + 6 = 12 and 6 + 8 is just two more than 12. In an example involving the operation 4 + 7 = ? the solution may involve the following analysis: 4 + 6 = 10 and 4 + 7 is just 1 more then 10.
(私訳:1桁どうしのたし算の学習は長い時間を要するように見えるものの,たし算やひき算の単純な計算問題については,大部分の子どもは最終的に,数え足しやモデルの利用といったやり方ではなく,覚えたことを使って答えを出せるようになる.学習においては,ある組み合わせのたし算を先に行い,それを活用して,たし算の表を完全に覚えてしまうよりも前に,他の組み合わせの計算ができる.そのときには通常,2倍や,和が10となる数を用いる.例えば,6+8を計算するときに,ある子どもは6+6=12なのと,6+8はそれよりも2大きいことを用いて答えを出す.また4+7を求めるのに,4+6=10なのと,4+7はそれよりも1大きいことを使えばよい.)
(p.21)

さくらんぼ計算に対応するのは,"4 + 7 = ? ... 4 + 6 = 10 and 4 + 7 is just 1 more then 10"(4+7を求めるのに,4+6=10なのと,4+7はそれよりも1大きいことを使えばよい)のところです.一つの式で表すなら,4+7=4+(6+1)=(4+6)+1=10+1=11です.
ただし,段落の前半では,子どもたちは最終的に,何たす何は何というのを表(addition table)として頭の中で持っておき,取り出すこと(recall)ができるようになっているとしています.それがこの段落の主要部であり,ADDITION STRATEGIESというセクションの結論となっています.
ところで,addition tableとは,どんなものでしょうか.子どもたちの頭の中を,のぞくことができたら,面白いのかもしれませんが,そうもいきませんので,かわりに昭和初期の日本の本から,表の実例を見ておきます.

  • 木村教雄 (1936). 小学算術教材ノ基礎的研究, 培風館.

(p.11)
視覚的にはテーブルですが,「加法九々」という名称が添えてあります.そういえば,「乗法九九」は,multiplication tableに対応するのでした.
ここに載せませんが,上の表の左には,また別の表があります.45種類のたし算を「容易ナモノ」「中位ノモノ」「困難ナモノ」に分け,15個ずつのたし算の式が並べてあります.手持ちの本には,鉛筆でいくつか訂正が入っています.あれれ,1年向けの学習内容で,こんなに誤記があっていいのかいなと戸惑いながら,次のページを見ると,「問1. 本表ニ誤植ガナイコトヲ検スルニハ如何ニスベキカ.」とあり,どうやらその誤記は意図的*1なようです.
「容易ナモノ」にあがっているのは,繰り上がりのないたし算と,「5+5」「9+1」です.「困難ナモノ」はすべて答えが10を超えており,しかも,同数のたし算(2倍で求められる)はありませんでした.Carpenter & Moserの記した知見は,したがって,日本で算数ではなく算術と呼ばれていたころから,存在していたと言えます.
現代に戻って,昨年発行のものから,「さくらんぼ」と書かれていないさくらんぼ計算を取り上げます.

(p.38)
いつものように文字にしておきます.

[2] よういちさんは 8+7の けいさんを したのように しようと して います。

8は あと 2で 10です。

よういちさんの かんがえを あらわしている ず を したから えらび、したの □に かきましょう。
(図省略)
[3] [2]の もんだいで えらんだ ずの かんがえを したの ぶんに つづけて かきましょう。

アイウのどれを選べばいいかというと,イですね.「2」が読み取れる図は,イしかありません.なお,アは被加数分解(8+7=(5+3)+7=…=15),ウは両方から5を取ってきて足す(8+7=(3+5)+(5+2)=…=15)という方略のようです.
この問題は,子どもたちの記述力・表現力の向上を狙ったものです.[3]について,1年生ですらすらと答えを書けるとは限りません*2.筋道を立てて答えを求めること,他の人の発言の断片からその意図を見出せるようになることは,日常生活を模した文章題だけでなく,純粋な計算問題においても可能だというのを,上の出題例は教えてくれます.
ところで,この本には「『B問題』に強くなる」というサブタイトルがついています.「B問題」といえば,全国学力テストです.実施は本日*3なのですね.相当な予算と人員のもと,実施されるのですから,直接携われない自分としては,問題文や解答の状況,また指導例・指導案を見守りながら,自分のペースでこれからのことを考えるとします.


もう一つ,昨今のTwitter

[twitter:@p_tenchan]さんは小学校の先生とのこと.毎日ごくろうさま!

*1:こういう表があるとして,漫然と見るのではなく,表内の数値のチェックや,指導・実践を通じて,1点1点,確かめることが期待されているわけで.

*2:大人でも,この記述は困難なのでは?

*3:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/1341965.htm