この件,日本でも同様の調査がなされているのを知りました.
乗法九九の状況は,報告冊子 p.15にあります.表を切り出してみます.
イギリスの結果(http://i.imgur.com/tE4ncBy.gif)と照合できるような画像を,自作しました.RのソースファイルはGistに置いておきます.
解答者が,イギリスは5〜8(学)年,日本は小学2年*1,と異なっているにも関わらず,6×8と8×6の正解率の低さが共通しているのは,注目に値するところです.
表や図が,Y=X*2を軸にして対称でないのは,九九は数え足しで覚えたり思い出したりするのが基本だからで,交換法則から2×8も8×2も16だというのは,九九の答えを出す際には必ずしも使われない,といったところでしょうか.なお,ベネッセ教育総合研究所の報告冊子p.15では,誤答傾向についても書かれていて,「交換法則の成り立つ関係の九九をセットで間違える」や「交換法則の成り立つ関係の九九の一方を間違える」を挙げています.
昔書いたこと:
その後,日本中で,九九は7の段からになったかというと,そんなことはありませんでした.では,7の段からではなく2の段からのほうがよいという反証が出たのかというと,知る限り,そうなったわけでもありません.
エビデンスに基づいた「かけ算の順序」研究
エビデンスがあるのは,それに基づく教育・指導をするための必要条件にも十分条件にもならないと思うのが良さそうです.とはいえ,ある指導法を支えるものにはなるでしょう.限界には注意をしつつ,より良い学びとは何なのだろうという問題意識を常に持って,エビデンスを見ていかなければならないように思います.
乗法の意味に関する学習者の理解については,[Vergnaud 1983]にも事例が見られ,質的研究に位置づけられるものとして[高島2000]があります.乗数を整数から小数・分数へ拡張する際に,児童は適切に理解しているのかというのはわりと古くから見られる問題意識で,この点に関する,第5学年や教員志望の大学生を対象とした意識調査・理解度調査も,いくつか文献があります([中島1968a] [今井1994] [岸本2000] [浅田2006] [小原2007] [齋藤2011]).
「倍」と「積」から学んだこと
といったところで,「かけ算ではかける順序はどちらでもいい」という主張に基づき,課題設定,国内外の関連研究,設問を含む実験方法,実験協力者(学校,教室)の選定,解答例の整理,統計処理,(結果を踏まえた)考察・展望に渡って,これらの実態調査に肩を並べるような研究成果を,誰がいつどのようにしてパブリッシュできるのか…静観したいと思います.
視覚的にはテーブルですが,「加法九々」という名称が添えてあります.そういえば,「乗法九九」は,multiplication tableに対応するのでした.
さくらんぼ計算 再調査
ここに載せませんが,上の表の左には,また別の表があります.45種類のたし算を「容易ナモノ」「中位ノモノ」「困難ナモノ」に分け,15個ずつのたし算の式が並べてあります.(略)
「容易ナモノ」にあがっているのは,繰り上がりのないたし算と,「5+5」「9+1」です.「困難ナモノ」はすべて答えが10を超えており,しかも,同数のたし算(2倍で求められる)はありませんでした.Carpenter & Moserの記した知見は,したがって,日本で算数ではなく算術と呼ばれていたころから,存在していたと言えます.
(最終更新:2014-07-16 昼)
*1:解答者数は1,287人です.ただし調査の解答者全員が,81個の九九の答えを求めているのではなく,2種類の問題冊子のいずれかですのでその半分です.実際,2年の問題 http://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/keisanryoku/2013/pdf/keisanryoku_2013_data_02.pdf を見ると,「小2ーA表」の九九の計算は40問,「小2ーB表」では41問あります.
*2:Multiplicand=Multiplier,と書くべきか?