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教科専門から見た算数

「教科教育学(算数)」を調べていると,「教科専門」という用語を見かけました.

事業の趣旨によると,「教科専門」と「教科教育」の対象はそれぞれ次のとおりとなっています.

  • 教科専門:教科に関する学術的な内容を教える
  • 教科教育:教科の指導法を教える

2つの語が対等,あるいは「教科専門」が主であるように見えますが,wikipedia:教科教育学がある一方で,「教科専門」や「教科専門学」で検索しても,関連情報がヒットしないことから,「教科専門」は比較的新しい用語なのかなという思いを持っています.
と,気になるところはあるものの,研究成果報告書(全文)のPDFをダウンロードし,ざっと目を通しました.
研究事業としては上越教育大学,鳴門教育大学兵庫教育大学の三大学による研究協議会のもとで進められ,シンポジウムの開催だとか,この研究成果報告書だとかになっていったのが読み取れます.またPDFファイルの26ページ*1から始まる最終報告書では,「教科内容学」という,また新しい言葉がタイトルに見られ,本文中でも繰り返し使われていました.
「算数・数学科内容学」構成案(pp.142-162,PDFファイルは134ページから)は,じっくりと読んでいきました.チーフは鳴門教育大の松岡隆教授で,数学を専門としており,鳴門教育大からはほかに数学教育学を専門とする方も入っているとのことです.
全体として,教科教育の算数を批判するものとなっています.このことは例えば,p.149にある小学校から大学まで,数学の内容構成の表から見てとれます.数量関係が式・関数・統計で別々の要素とし,量と測定も2分しているのは,大なたを振るったといったところでしょうか*2
その一方で,p.155より始まる「単位量当たりの大きさ」の内容については,読んで釈然としない思いがありました.何度か「内包量」という言葉が現れますが,数学や算数・数学教育のもとで,これが何を表し,この概念がどのように活用されるのかが,文章中には見当たりません.内包量の表記で注意を要する「パー(/)」についても,同様です.
次に,p.156に書かれている3用法の式と,内包量,速さの関係がきちんと整理されていません.第2用法の「A=B×P」と,その前のページにある「道のり=速さ×時間」を見比べると,被乗数と乗数の位置が入れ替わっています(「異種の二つの量A,Bから除法によって作られる内包量P」にも注意).学習指導要領解説で書かれている,A・B・Pの3つの式は,第1用法が包含除,第3用法が等分除の拡張なのに対し,内包量の3用法についてはそれぞれ等分除,包含除の拡張になっていることも,思い出さずにはいられません.「割合,比,比例の概念も同一の構造をもつものとして把握できること」(p.157)への試みを提案したものの,この報告を進展させ,内包量---この言葉を小学校で教えるかどうかは別として---の概念の指導しようとする教師が現れるのか,疑問を持ちました.
最後に,人口密度と速さについて,「根底にある考え方は別物」(p.156)と指摘して同一の概念であることへの指導を促していますが,これらは用途が異なります.というのも,人口密度は「混み具合」の一形式です.混み具合では,複数の場面に対し,単位量当たりの大きさをそれぞれ求めてその値を比較し,どちらがより混んでいるかを推論することが,一つの用途となります(速さについて,2者のうちどちらが速いかを答えさせる問題は,ほとんど見かけません.).人口密度と面積(人口)から,人口(面積)を求めることを,算数においても実用においてもなされないのもまた,速さの利用と違う点となります.「混み具合」では単位面積あたりの人数も,一人あたりの面積も,求めることに意味がある*3のですが,速さに関して「1mを進むのに要する時間」を求めることに,算数としての意義が認められるかはやはり疑問です.
内包量および速さの扱いについて,量,比の3用法―1965年の座談会よりで取り上げた件と,いくらか重なりがあるようにも感じました.ポイントだけ書き出すと,算数寄りの方の「乗法・除法の適用の場を構造として捉えると,あのような形にまとめられる」という発言に対し,「数学というものの進んでいる方向は,こうした3用法を1用法に統一する方向なのではありませんか」などと述べているところです.今回読んだ文章と合わせて,「構造」という言葉の使われ方については,自分なりに見直しを図っていかないといけません.
「算数・数学科内容学」構成案について,いまの算数教育を揺さぶるという効果はあるのかもしれませんが,改革の試みとしては,この流れで変わっていくのか,それとも報告書を出しておしまいなのか,気になるところではあります.

(最終更新:2014-08-18 朝)

*1:本日の記事では,PDFファイルのページ番号参照には「xページ」,PDFファイルのノンブルに書かれているなどのページ番号には「p.x」「pp.x-y」を使用しています.「xページ」のほうは,http://www.juen.ac.jp/050about/050approach/030relation/sendou/files/sendou_seikahoukoku.pdf に続けて「#page=x」を書いて,ブラウザでアクセスすれば,該当箇所を表示できますが,このPDFファイルが40MB超のサイズであるため,推奨しません.

*2:小学校の「数学の基部」が該当なしというのも,興味を持ちました.ここについて個人的には,この調査は「数学教育の現代化運動」など,歴史的な経緯には触れず,未来志向で書かれたのかなと思っています.

*3:大小比較に使えます.その上で「面積の方を単位量として人口で比べることが多い」(小学校学習指導要領解説(PDF版)p.180)であり,社会などで使われる人口密度へとつながっていきます.なお,割合の大小比較については,同種の二つの量においても,例えばバスケットボールのシュートのうまさや,野球の打率において,考えることができます.