上記のほか,この方の直近の記事をいくつか読みました.
まず感じたのは,「かけ算の順序問題」あるいは「かけ算の順序」が,対外的に明確に定義されておらず,こう書けば分かるでしょ,ね,みなさん,といったニュアンスで,用いられているように見える点です.
パブコメを促す提案として,その確認がないのはまずいと感じました.
算数教育の実情から見ていくと,「かけ算では,順序を変えてかけても,答えは同じ」は,結合法則(□×(△×○)=(□×△)×○)に関する文脈で活用されてきました*1.教科書や学習指導案にも,記載があります*2.歴史的には,交換法則と結合法則の両方を指して,「順序を変えも答えは同じ」と読むことのできる例を把握しています.
□×△と△×□の比較に関しては,2009年刊の洋書が参考になりました(([http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20141002/1412193761])).教師・児童のディスカッションを通じて交換法則を理解していく際,「答えは同じ」と言う子どもに対して教師が「2×5と5×2は,違った場面を表すのに使えないっていうの?」と質問しています.この件から次のことが読み取れます.すなわち,交換法則により5×2=2×5あるいは□×△=△×□が成り立つとしても,ある場面を表す式が,□×△でも△×□でもいいとする考え方は,その先生の持つねらいでも,クラスで共有したい内容でもないのです.それに対し『[isbn:9784000295802:title]』や『[isbn:9784860643409:title]』では,「「1あたり量×いくら分」でも「いくら分×1あたり量」でもどっちでもいい」「4皿×3個/皿=12個と考えるのは自然な発想なのである」を優先していますが,先生方からの支持は得られるのでしょうか.
「かけ算の順序」が適切に定義されていない状況なのは,次のQ&Aからも伺い知ることができます.
- 5人に飴を4個ずつ配ると飴はいくつ必要か 赤ペン先生回答│NEWSポストセブン
- http://cgi.city.yokohama.jp/shimin/kouchou/search/data/25003016.html
- http://cgi.city.yokohama.jp/shimin/kouchou/search/data/25003257.html
これらで「順」を検索すると,ベネッセの回答には最初の文に1回だけ出現し,横浜市の2件には,回答の中に見当たりません.各質問・投稿には,1つ以上見つかります.
これらから,算数の教え方として,回答するにあたっては,「かけ算の順序」という用語は不適当ではないかと考えることができます.順序あるいは順番を用いない,回答文あるいは算数教育の実情を見て,「かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきである」「かけ算には順序はない」という信念の人々が憤っている*3のが,近年の状況なのではないでしょうか.
用語はさておき,「行き過ぎ」を止めたいという主張に関しては,経緯(とくに1960-70年代を中心とした,現代化をめぐる国内外の状況)のほか,「1回分(0.55g×6錠)×8回分」や,棺桶の絵に「×2」を乗せるといった,日常見られる多様な用法と照合しながら,算数教育は何を基本とし,そこから子どもたちは何を学び中学の数学につなげればいいのだろうか,といったことを考えていきたいものです.いろいろ読み書きしてきた者の目には,「かけ算には順序はない」は,数学的にも日常的にも暴論と映っています.
それとなんですが,
に入っている,
を読みまして,まず,タイトルと中身が合っていないように思いました.「実践家」と「研究者」が誰なのか,そして具体的にどのような「協働」がなされたのかが,本文から読み取れないのです.最後の最後に「註:本データは大谷・中村(2004)の加筆修正である.」とあって,ここから研究者・実践家の推測はできますが,当時あまり使われていなかった「協働的」を,2013年の招待講演にあたりタイトルに加えようというのなら,それぞれの相互作用や,協働的デザインを通じた研究者・実践家それぞれの影響についても,あるべきではないかと感じました.
2004年(またはそれより前)の指導と,2013年の招待講演との間に出ているコンテンツで,今回読み直したものが2つあります.一つは蟹江・佐波(2009)で,タイトルにある「協同」とは何か,そこでなされた相互作用はどんなものだったかが,本文を読んでいってイメージできたのでした*5.教材論の基礎として振り返ったのは,2008年の小学校学習指導要領解説算数編です.5年で,簡単な場合の比例の関係を扱う中で「その際,これまでに指導した乗法の場面と深くかかわっていることにも気付かせる。」とあり*6,これが大谷(2013)にある中の「今までのかけ算っていうのは,実は比例だった」と重なります.
そういった照合をせずに
大谷実さんの論文の記述にいちいち頷いてしまうわけですが、果たして現在の算数教育のメインストリームをなしている方々は、こういうことをちゃんと考えて学習指導要領や教科書を作っているんだろうか?という疑問がわいてしまいます。
いったん別の論文をはさみます/算数と数学の接続をはかる比例の学習 | TETRA'S MATH
と書かれているのには,今年3回目になりますが,「ドン・キホーテ」が思い浮かびました.
最近見かけた興味深い2chの書き込みを転載しておきます.
932 :132人目の素数さん:2014/10/23(木) 11:02:09.59
http://ai.2ch.net/test/read.cgi/math/1385801318/3
http://wc2014.2ch.net/test/read.cgi/math/1407702179/932
の子供なんかは「何回言っても文章題に出てきた順番で書きます。」ということだから
「ただし、掛け算の式は 一つ分×いくつ分 の順で書きなさい」と明示してあっても
きっと間違えるだろうね
そう明示したパターンのテストもやって正解率が変わるのか確かめてみるのも面白いかもね
明示しても正解率があまり変わらなかったら自由派はどういう反応をするのかな?
3 :132人目の素数さん:2013/11/30(土) 17:53:51.01
えーと、例えば以下の例の場合
http://ai.2ch.net/test/read.cgi/math/1385801318/3
https://twitter.com/dokikoYAMAYOKO/status/406687620597432320/photo/1
私はどう考えても、「全部、出てきた順番に数字かいてるだけだろ」としか思えないんですが
どうやら、「1,4と、2, 3では、異なる考えに基づいて立式してる(キリッ」っていう人々が論争をしかけていす。主にネット上で
最新のスレは,「×4」から「×6」までを飛ばして小学校の掛け算順序問題×7となっています.
(最終更新:2014-11-01 早朝)
*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140810/1407660260, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130424/1366749623
*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140705/1404486005, http://members.jcom.home.ne.jp/pc-library/library2gakusyuu/18syoninkenn/sugimoriitou.pdf
*3:その憤っている状況への「安住」も,つけ加えておきます.「かけ算には順序はない」とツイートすれば,叩ける方に回れるし,叩かれないし,もし叩かれたとしてもブロック推奨(アドバイスをくれる)で終わってしまうわけです.
*4:昨年開催された,日本数学教育学会第46回秋期研究大会の招待講演の一つです.
*5:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120531/1338411301
*6:この趣旨の文は,一つ前の解説には見当たりませんでした.