昨日,ツイートで販促活動*1がございまして,購読しました.以下,有料コンテンツからの引用を含みます.
最後のノート*2は,これからの学習指導要領改定にあたり,パブリックコメントに先駆けて,通常窓口から意見を(字数制限があるため)5つに分けて提出した内容とのこと.
その中の,いわゆる順列に関連する記述で,考えさせられました.
(略)これらは、「1つ分の大きさ×いくつ分」という式表記を「学習目標」とする内容です。
もし、この式の形が「学習目標」となるならば、高学年で学ぶ「起こり得る場合」とかけ算の関係をどう考えたらよいのでしょうか。たとえば、A、B、C、D4人の並び方で、2番目までの並び方が何通りあるかを樹形図をかいたうえでかけ算で求めると、「1つ分の大きさ×いくつ分」の形にしたがえば3×4となります。先頭1人に対して2番目の人の並び方が3通りずつあり、その4人分と考えられるからです。しかし、場合の数の求め方としては、並ぶ人数が増えたときの発展性を考えても、4×3のほうが一般的であり、実際に学校図書6年上p.89においても4×3という式が示されています。
この件は,同じ方の他のノート*3にも書かれていました.
現行学習指導要領では式に表すことは対象外だったはずと思いまして,PDFファイルを見直すと,p.212に「指導に当たっては,結果として何通りの場合があるかを明らかにすることよりも,整理して考える過程に重点をおき,具体的な事実に即して,図,表などを用いて表すなどの工夫をしながら,落ちや重なりがないように,順序よく調べていこうとする態度を育てるよう配慮する必要がある。」と明記されていました.同ページにある「4人が一列に並ぶ場合」の具体例でも,式は出てきません.
順列の話は,現行すなわち平成20年(2008年)からの学習指導要領で,取り入れられました.他書だと,『別冊いきいき算数新単元』にも,4枚のカードを使った,順列や組み合わせの問題が入っていました*4.まずは樹形図もとに,総数を求めます.計算で求める問題もありますが,「計算による出し方は,軽く触れる程度にします」(p.103),「ここでも計算は,深入りする必要はありません(p.108)」という説明もついています.
ノートの上記引用に戻ります.「起こり得る場合」という言葉の使用から,執筆者は学習指導要領解説にある指導上の注意のことは念頭にあり,その上で,「1つ分の大きさ×いくつ分」では困難な事例が,算数の教科書に見られる,という主張をなさっているものと理解しています.
「学校図書6年上p.89」を細かく見ていくことにします.http://ameblo.jp/metameta7/image-11120967919-11702746634.html(教科書にある,「いくつ分」×「1つ分の数」の実例 | メタメタの日より)で,ページ全体を読めます.そこから,次の2つを知ることとなります.一つは,ページ上部に「力だめし」とあり,本文には「ならび方が何通りあるかを,計算で求めることができる」と書かれていることから,この出題は,いわゆる「発展的内容」と解釈できるのです.現行学習指導要領において,「はどめ規定」が削除されたのは,文科省サイトのhttp://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/tosho/003/gijiroku/08090901/004.htmからも確認ができます.したがってその件は教科書会社の裁量であり,4×3でいいのか,3×4もあるんじゃないかと,文科省に意見を言うのは,お門違いに見えます.
もう一つの留意点は,あおいさんの発言の中に「4通り」「3通り」,そして「4×3通り」とあるところです.同じ助数詞どうしのかけ算は,それより前に学習していないのではないでしょうか.「4×3通り」という2項演算だけでなく,「4×3×2」「4×3×2×1」といった式にも意味がある---それが何を表すのか説明できる---点にも注意すると,順列のかけ算は,「1つ分の大きさ×いくつ分」とは別モデル*5と考えることができます.
「「1つ分の大きさ×いくつ分」の形にしたがえば3×4となります」は,順列のかけ算という適用対象に,低学年で学習したかけ算(のモデル)を当てはめても計算ができるという主張となります.別の根拠のかけ算(のモデル)で考えられるんだよ,こう考えたり,4×3と降順のかけ算の式に表したりすれば,将来役に立つかもねというのが,学図の「力だめし」から見えてきます.
なお,「4×3通り」が6年生にとってまったく新しいかけ算なのかというと,そういうわけではありません.関連するものが2つ,思い浮かびます.
一つは「タイル×タイル」に象徴される,タイルの2次元配置です.そこでもまた,「4まい×3まい=12まい」のように,被乗数・乗数・積の単位が同じとなります.
ですが違いもあって,「タイル×タイル」の2つの因数は独立に動かせます.4×30にもできます.それに対し順列のかけ算では,各因数は独立ではありません.1番目を4人の中から決めれば,2番目は残った3人の中から選ぶ,という制約がはたらきます*6.またタイルのかけ算はせいぜい3次元(縦×横×高さ)までですが,順列のかけ算における因数の数は,並べる数nと,いくつ取り出すか*7によって,さまざまに変えられます.
「4×3通り」の基礎となる,また別の既習事項として,数量関係の表現があります.はじめに4を置き,それを3倍します.その際,被乗数と乗数と積の量的な側面(単位,次元,助数詞)は無視して,数どうしの関係として,確かにかけ算になっていると判断するのです.
このような関係のとらえ方は,「数量の関係を表す式」(学習指導要領 第4学年D(2),第5学年D(2))や「伴って変わる二つの数量の関係」(同 第5学年D(1))と結びついて,4〜5年あたりで学習済みである可能性があります.a×b=xの関係を,表や矢印を使って視覚化するのは,私自身,小学校の算数の授業で見かけましたし,外国はというとVergnaud (1983, 1988)がよく知られています*8.
「高学年で学ぶ「起こり得る場合」とかけ算の関係をどう考えたらよいのでしょうか」に対する,個人的な思いは,次のとおりです.学習指導要領改定にあたり,文科省にコメントするのは,ピントが合っていません.算数教科書の実態から距離を置き,検討や提言をしたいというのなら,VergnaudやGreer*9,Nesher*10などによる分類・分析を学んでからでも,遅くはないのではないでしょうか.
「要望メール5通」で2度出現する「素地」の語は,算数教育の書籍などで見てきたものと,使われ方がいくぶん異なっているようにも感じました.
*1:https://twitter.com/tamami_tata/status/537094148617011200
*2:「文部科学省に出した、要望メール5通」(2014/11/22 09:20)
*3:「教科書の問題点は教科書会社に意見を出していく。(並行して文科省にも)」(2014/05/24 11:34)
*4:より多彩で,算数で取り扱える「場合の数」の事例は,『算数教育指導用語辞典』pp.248-249に載っています.4人の走る順番の式は,(2×3)×4=24となっています.
*5:順列と,他の種類のかけ算については,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140822/1408718509, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130911/1378849146で整理を試みています.
*6:2番目までで4×3通り,3番目までだと4×3×5通りとなるような場面を作るには,例えば7人いてそのうち特定の3人は,2番目までになってはいけないといった,非実用的な制約を設ける必要がありますし,そうしたところで,4×3×5における2つのかけ算は,意味合いが異なってきます.すなわち前者は,順列に関するものであり,後者は,場合の数の積の法則となります.
*7:n個から2つ取り出して順に並べるときの場合の数は,と書けます.このような代数的処理(nを括り出すとき,左に書くのが自然)もまた,3×4通りではなく4×3通りが採用されることと結びつけられるなあと思っています.
*8:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140924/1411511070
*9:http://ameblo.jp/metameta7/entry-11160309392.html#cbox
*10:http://books.google.co.jp/books?id=Vyl42R9JV1oC&pg=PA189