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カイカイマン

5歳児クラスでのエピソードです。アトピー性皮膚炎の子に対して、他の子たちが「カイカイマン」と呼ぶということがありました。ある保母は、「こんな傷つけることば使いは許せない。すぐ注意しなければ」と思い、他の保母は「そこまで厳しく注意しなくても」と思うのです。
会議では、5歳児の理解、5歳児のことばと意識を学習していくのですが、そこで終わらないのがアトムの職員会議です。「許せない」と思った保育者の意識と背景を探っていくと、彼女は成長過程で、自分が傷つけられてきたという思いがあるのです。一方、「そこまでは」という保育者には、「自分は小さい頃から、自分の思いを表現できなかった。だから子どもの表現は最大限許してやりたい。押さえ込みたくない」という思いがあるのです。
子どもを見る視点の違いをつきあわせていく作業は、子ども・保育を鏡として自分を映し出す作業になるのです。この過程は保育者それぞれの育ちの違いや生活意識・価値観の違いを浮かび上がらせます。保育者それぞれが自己紹介を積み重ねていく作業です。「子どものケースカンファランス」は、実は職員同士の相互理解(育ちを含んで)の過程なのです。
自分と違う他者が深く理解できると、他者へのいままでの苛立ちが消え、他者のよき理解者と変わっていきます。短大を出てアトム歴10年の保育者は、「アトムでなかったら、茶髪だったり、ツッパリの経験のある保母と仲間にはなれなかったろう。自分とは全く違う人種として近寄りもしなかったろう。しゃべらない人は、理解できない人と思っていただけだろう。しかし自分と違う表現をし、違う考え、価値観の人を理解し、共に仕事をしている自分が不思議だ」と語る言葉にアトムの人間関係が簡潔に表されています。
実はこのような不揃いの職員の相互理解の努力と方法の蓄積が、多様多彩な親を受けとめる力にもなっています。
(『地方国立大学 一学長の約束と挑戦』pp.209-210)

途中に出てくる「アトム」は,アトム共同保育所(現・[http://www.atomfukushikai.net/atom/:title=アトム共同保育園])を指します.他のページで「ボランティアの所長をしています」と記しています((Webだと:[http://jicr.roukyou.gr.jp/old/hakken/2001/08/110-child%20care-2.pdf])).

この引用部を読んで,3つの階層をイメージしました.ここで著者が伝えたかったのは,アトムにおける職員の相互理解がしっかりしていることであり,組織(保育所)運営の“根幹”をなすものと言えます.それと反対に位置するのは,アトピーや茶髪,短大出といった,乳幼児や保育者*1の諸属性です.そのいくつかは見た目で分かるものであり,言ってみれば“表層”です.それらをつなぐ“中間層”となるのが,職員会議や,カイカイマンと呼ぶといった,保育所にかかわる人々のコミュニケーションであり,また,コミュニケーションを通じて個々人が形成する認識となります.
「カイカイマン」あるいはアトピー性皮膚炎なのですが,個人的には,小中でも見てきたものの,記憶にあるのは今の職場になってからです.研究室配属で受け持った中で,これまで3人(何期生かはあえて書きませんし,年代も離れていたのですが)が,アトピーであることを申し出ていました.入院した際,見舞いに行ったこともありました.
その3人に共通していたのが,大学の外で人付き合いの場を持っていたことです.いや,症状の有無に限らず,どんな学生も,大学や研究室以外に,人間関係の場があるのは,当然のことかもしれないので,付言すると,彼らの特徴は,その学外の場での活動について,こちらが聞き出すことなく,Webを通じて知ることができたという点です.
彼らもまた,「カイカイマン」と同様の呼ばれ方,あるいはいじめを受けてきたと想像します.
そこで,見た目だけで判断されないよう,それぞれなりに活動を行い,コミュニティで実績が認められ,でもって,私も見る機会を得たのだと思っています.
ありていに言えば「逆境をバネに」ってやつです.
そんな学生を見て,教員としての私の対応はというと,治療は大事だし,病院にかかる(それがゼミやミーティングと重なる)というのなら事前連絡を求めるけれど,それ以上については深く立ち入らず,卒業研究をきちんと進められるかを基軸に指導していきました.
上の話とは別件で,学生の身上相談にこちらが淡々と応じたとき,その学生が「先生はそう反応されると思っていました」と言っていたのも,記憶に残っています.
実はあのときは,研究でほんの少し,面白い結果が出たので,探ろうと思っていたときの学生来訪だったのですが.


今月をもって和歌山大学を去られる学長の本は,やっと読み終えることができました.いまは以下の本を読んでいます.

ボイドン校長物語 ―アメリカン・プレップスクールの名物校長伝―

ボイドン校長物語 ―アメリカン・プレップスクールの名物校長伝―

スポーツを教育に取り入れ自らも汗を流すのは,東京高等師範学校で校長を務めた嘉納治五郎を連想します.興味深いエピソードが出てきたらまた取り上げます.

*1:保育者には,保育所の職員のほかに,親が含まれます.