わさっきhb

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さいしゅう5

2002年の,小学校算数の教科書の現状と課題

著者名で検索すると,すでに亡くなっているとのこと.追悼記事(http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/detail.php?id=BKK0000779)に,経歴が載っています.公立小学校教員のほか,教育委員会・都立教育研究所を経て,大学教員になったとあります.「2001年より教科書編集委員(大日本図書株式会社)」とも書かれており,そのあたりの経験や認識が,2002年の紀要論文になったのかなと思いながら,読んでいきました.
4節までは,経緯の整理で,5節が教科書の課題となっています.その最初,構成上の問題点のところは,今も通じる指摘だと思います.キャラクターや挿し絵の多さに関して,その後,改善がなされただとか,その数量的な調査も,聞いたことがないのですが,今年度からの算数教科書では,アートディレクション・デザインを担当したデザイナーのメッセージを,教科書紹介に取り入れたり(教育出版),カラーユニバーサルデザインに関する校閲者が書かれていたり(日本文教出版)するといった形で,反映がなされているようにも思います.
ただその後の,指導に関わる問題点は,低学年の内容の,ほんの一部となっており,タイトルの割りには物足りなくも思いました.取り上げられているのは,「①十進位取り記数法の教具」*1と「②乗法の意味の指導」の2つだけです.後者は,以下がすべてです.

②乗法の意味の指導
2年生で乗法の意味指導がなされる。乗法は一つ分の大きさが決まっているときに、その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり、同じ数を何回も加える加法、すなわち累加の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる。
しかし、どの教科書も、同じ数ずつのかたまりが幾つかある場面を示し、1かたまりにa個ずつb個分でa×bと表すという意味づけになっている。そして、答えは累加で求めることができるとしているのである。
同数累加の簡潔な表現が乗法による表現であるのに、同数累加から独立した意味づけをし、答えは同数累加で求めるのは、なんとも筋の通らないことである。

最初の段落は,学習指導要領解説解説からの引き写しで,2段落目以降が問題点の指摘となっています.教科書において,乗法の意味づけが,累加から「一つ分の数×いくつ分」に変わったのは1980年代と,数学教育協議会関連の本で読んだことがありますが,同様の言葉の式は,昭和33年(1958年)施行の小学校学習指導要領においても「(ぜんたいのねだん)=(ひとつのねだん)×(買ったかず)」(http://www.nier.go.jp/guideline/s33e/chap2-3.htm)として見ることができます.乗法の意味指導と,累加との関わりはといえば,一つは中島健三が1968年に書いたもの,もう一つはイングランドの介入研究*2でしょうか.
最後の段落については,乗法の意味の混同が解消されていないように思いました.
学習指導要領解説に書かれている,乗法の意味は,「乗法は〜の場合に用いられる」が顕著で,適用のための条件の例示と見ることができます.その場合に限られる,とは言っていません.どちらかというと十分条件です.より具体的に言うと,答えを出したいだけであれば,かけ算を採用せず,たし算だけでも正解となる式を立て,求めることができます*3
それに対し同数累加で求めることができるというのは,その時点で学習する,乗法の性質であり,言ってみれば必要条件により近い事柄となります.累加で求められるという「意味」は,今だと4年,本紀要論文のころだと5年で,0.1×3のようなかけ算を学習する際にも,ふたたび活用することになります.
なお,この十分条件・必要条件のとらえ方は,かけ算を「一つ分の数×いくつ分」で導入することに起因しています.同数累加の簡潔な表現によって,乗法を導入しているのであれば,「一つ分の数×いくつ分」という言葉の式には別途,意味づけが必要となります.

2015年度後期の,算数科教育法

経緯は省略しまして,千葉大学教育学部で,算数科教育法の授業スライドが公開されているのを知りました.

授業担当者は島田和昭教授*4です.教科書編集者からは,名前を見つけられませんでした.
「151109第4回乗法と九九」のリンクをクリックすると,タイトルどおりの内容となっています.4upの最初のスライドに,「啓林館 わくわく算数2年下」と出典が明示されていて,いさぎよいのですが,ここまで教科書の転載をして,誰でもアクセス可能にしていていいのかという不安も,よぎりました.
当ブログで「かけ算の順序を問う問題」と呼んできた種類の文章題も,載っていました.PDFで5ページ目の左上,「おかしの はこが 4つ あります。1つの はこには,おかしが 5こずつ はいって います。みんなで 何こに なりますか。」のところです.出題文の右には「1つの はこには,おかしが 5こ」を含む絵が,また上には「かけられる数と かける数」という見出しがあります.これまで学習した「かけられる数」と「かける数」に注意すると,この問題で「かけられる数」にあたるのが5で,「かける数」にあたるのが4となるのも,容易に想像できます.どちらでもいいんだという人々は,教科書のこのページから,あるいは独自に,その主張に基づいた指導の良さを使える授業例(学習指導案)を手がけてきていない,というのを添えておけば,分かりやすいここ数年の算数教育事情となります.
ところで,分配法則に関連して「定義」という言葉が見られます.PDFの4ページ目左下には「乗法の定義と分配法則」,次のページも左下に「定義から導かれるかけ算のきまり・・・分配法則」とあります.教科書をベースとして,指導の系統を検討する際には,「定義」という用語は良くないように,個人的には思っています.というのも,導入段階(分離量×分離量)の乗法の定義には,ペアノの公理に基づくものと,アレイに基づくものが考えられるからです.ただ,そういった件はもしかしたら,PDFではなく,その科目で指定されている参考書に,書かれているのかもしれません.

都算研の平成26年度学力実態調査

東京都算数教育研究会のトップページより,平成26年度 学力実態調査の結果と考察のPDFがダウンロードできるようになっています.
2年の大問3,「子どもが 3人 います。みかんを 1人に 4こずつ ふくろに 入れて くばります」の出題は,前回とまったく同じです.
正答率に少し変化があります.問題に合う図を選ぶ問題・式に表す問題の両方が正解なのは,これまでより3ポイント減って51%,その一方,「C 左記以外の誤答・無答」が3ポイント増えて15%となっています.
調査人数(解答した児童)54,865人に,15%をかけると,8,000人を超えます.分析に当たっては,問題場面・図(絵)・式からなる図や解説文よりは,Cにあたる誤答の例にはどんなものがあるのかを,知りたいなと思いますが,難しそうです.
各学年を見たところ,正答率の低かった問題3つは以下の通りでした.

  • 3年・4 (2)・わり算の式になる問題を選ぶ・37%
  • 5年・6・割合を求める式・38%
  • 6年・2 (1)・分数のわり算の式・44%

いずれもわり算ですし,3年と5年は,正解率を高くしない要素が入っているので,そんなもんかなと思います.
6年も,過去3回分の比較で,これもこうなのかと思いつつ,直後の,分数のかけ算の式を各問題で,2の数の順序を間違えずに書くのが,60%台となっているのは,興味深いところです.同じページで解説されている,ペンキの量とぬれる面積では,領域(そして量)を長方形でシンボル化した上で,縦に切ったり横に切ったりできるのに対し,与えられた鉄の棒の問題では,そのような切り方が困難となり,解く手がかりに使えないのが,正解率の低さに繋がっているのかなとも思ったりします.ですがそれでは,分数のかけ算の正解率の高さが,説明できないことに気づきました.真相は不明です.

「掛け算順序固定」問題,リニューアル?

更新履歴が比較的新しいです.内容は,過去に見たものばかりです.2015-12-02付けで更新されたという,テキストパターンマッチングの罠を読んでみると,未だ「スキーマ(シェマ)」がない*5のか,最新の教育情勢に追いつけるのはいつになるだろうという思いもあります.
探すと,過去のWikiも見つかりました.http://www18.atwiki.jp/kakezan/です.URLが全く異なっています.
2011年末から2012年はじめまでのWikiと,今回とで,内容に最も大きな違いがあるのは関連情報リンクです.
Wikiの方針は,掛算順序固定に肯定的な考え方や指導法の問題点を明らかにし,否定的な考え方(ただし指導法は見当たらず)を集約することと見受けましたので,その方針に異論を唱えるつもりはありませんが,「わだいのたけひこのざっき」と題する3件は古いので,代わりにリンク集を設けておきます.当ブログの記事というよりは,とくに最後の見解の整理のリンク先情報を,確認の上,採用していただければと希望します.

前回の「さいしゅう」

(リリース:2015-12-03 朝/最終更新:2015-12-05 朝)

*1:「正しい」「明らかに誤りである」など,厳しめの表現が入っていますが,説得力を感じませんでした.「正しい」という,百の位を○が3つで書くようなスタイルでは,繰り上がりや繰り下がりの処理で,例えば一の位の○が10個を十の位の○が1個に替える操作を視覚化しようとすると,その半具体物の外で行うという手間が,想像できるからです.ところで今のデジタル教材であれば,探せば(ないなら作れば),タイルの束にすることも,十(や百)がいくつという見方も,1画面で可能ではないかとも思います.なお,一体化した図が,http://tosanken.main.jp/data/H27/gakuryokujitaichousa/h26kekkatokousatu2nen.pdf#page=3に載っていました.

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130410/1365541100

*3:実際,東京都算数教育研究会実施の学力実態調査でも,http://tosanken.main.jp/data/H27/gakuryokujitaichousa/h26kekkatokousatu2nen.pdf#page=2で見られるとおり,「くばる みかんの 数」を求める式では,かけ算のほかたし算の式も正解となっています.この件,1つ前(平成24年度実施分)では,1つのかけ算の式だけが正解例に書かれていました.

*4:http://www.education.chiba-u.jp/?active_action=multidatabase_view_main_detail&block_id=953&content_id=208&multidatabase_id=0&search_flag=1

*5:用語よりも,認知モデルの欠如が気になっています.wikipedia:オットー・フォン・ビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」に関して,「他者の経験(から学ぶ)」を極めて限定的に採用しているように,読んで思うのです.