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サボテンは初歩的な技?

大部分は,ふむふむなるほど参考になりましたが,いくつか,気になった箇所があったので,書きとめておきます.
【座談会1】の途中で,写真の下に「初歩的な技として知られる「サボテン」[土台が荒木氏、上段が筆者]」というキャプションがついています.サボテンを「初歩的な技」と表現している,他の例は,思い浮かびません.組体操の技「サボテン」についてを取りまとめる際に,認識したのは,サボテンは,十分な時間をかけて指導することで,完成(そして運動会で披露)できるものだということです.初歩的な技と書くことによって,安全への配慮がないがしろにされているようにも思えてきます.
次に,【座談会2】では,「Point 5:「みんないっしょ」ではなく「適材適所」」として,会話がなされています.またカラーのイラストに「無理することなく適材適所で[日本体育大学体操研究室『体操教本』]」というキャプションがついています.なのですが,この記述にも,戸惑いを覚えました.
このイラスト画像と極めて類似した絵が,『イラストでみる組体操・組立体操』p.265*1に載っています.
見比べると,構成は全く同じですし,2人+1人のところの下段がみな,長ズボンなのも共通しています.ただし,白黒・カラーの違いのほか,演技者の表情や,短パンの描き方など,細かな違いもあります.『体操教本』は未入手*2のため,どのように書かれているかは不明ですが,ある程度の推測はできます.浜田靖一のノウハウやコンテンツを,日本体育大学体操研究室が引き継いで,イラストを作り直したのでしょう.そして適材適所論にぴったり合ったものとして,2013年刊の『体操教本』を紹介され,【座談会2】で貼りつけたと,というわけです.
『体操教本』のイラストを貼りつけているのと同時に,不審に思ったのは,この適材適所のやりかたについて,学校教師向けの組体操の本を見ればたいてい,載っている点です.やや古いものを1冊,挙げると,『組体操 (体育授業づくり全発問・全指示)』では,p.82を横長に使って「琵琶湖大橋*3という技の演技図を示しており,2人技の「箱」を両端に,「三段の塔*4」を中央にした,横一直線の隊形となっています.他書でも,さまざまな隊形とともに,同一あるいは異なる組み方をつくる例を,見ることができます.
サボテンに,話を戻します.1993年刊の『組体操 (体育授業づくり全発問・全指示)』には「サボテン」という名称で指導法が紹介されていますが,1996年に出た『イラストでみる組体操・組立体操』では「膝のり」であり,「サボテン」とは表記されていません.
Webをアクセスすると,日本体育大学 体操研究室が公開している動画で,「サボテン」を次の2箇所で見ることができます.

いずれも,肩車からの移行によって,サボテンを実現させています.
振り返って,冒頭の【映像資料】の【動画06】について,これが今後,小学校などの組体操のサボテンのやり方に,なっていくのでしょうか? いえいえ,ちょっと待ったです.教師向けのノウハウが十分なされていないの加えて,この動画単体で見ても,気になるところがあります.土台の人が靴下を履いていて,上になる人が素足というのが,まず目につきます.また上の人を真上にジャンプさせていますが,繰り返しの練習や,運動会の本番で,まっすぐにジャンプできなかったとき,土台の人が転倒して負傷するリスクについて,言及がなされていせん.
なお,サボテンのより安全な作り方について,肩車やジャンプとは別のアプローチも知られています.具体的には「3人サボテン」という技名です.土台となる2人の後ろから,上になる人は土台のももに足を乗せて登り,完成させます.たとえば『DVD付き みんなが輝く組体操の技と指導のコツ (ナツメ社教育書ブックス)』では,pp.30-31に3人サボテンが,またpp.48-49では5人サボテンが,カラー写真で紹介されています.
サボテン(その名称と技づくり)といい,隊形(適材適所)の件といい,さらに言うと「安全な組体操」について,大学の先生方が,小中学校で指導されてきたのを,後追いしながら,これまでのやり方は間違いと言っているように,思えてなりません.

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160418/1460991599より:「265:「11人組」は3人・5人・3人で構成され,その中央(5人)は“やぐら”.ただし最下段の2人は内向き.」

*2:この本の詳細は,http://ci.nii.ac.jp/ncid/BB13331260 http://www.nittai.ac.jp/department/gymnastics/index-page.html.ISBNが見当たらず,Amazonで検索できません.

*3:1990年度 滋賀県守山市立吉身小学校 6年生の作品.

*4:3段のタワーが,現在の視点で危険であるというのであれば,それを取り替えればよいわけです.そもそも演技図は,そのとおりにせよ(すれば成功できる)というものではなく,著者にとっては成果の設計図である一方で,これから実施しようという各校にとっては,企画するにあたり参照するためのものとなっています.