うえの子は2年生ですので,小学校ではかけ算を学習しています.
先日,机の上で,問題集を開いたままにしていたので,見てみると,「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう」のタイプの文章題*1が並んでいました.
そういった出題に対し,うえの子の答案はというと,5×3=15のように,出現する順に数を並べ,かけ算の式を書いていました.他の文章題も,同じようにしています.宿題らしく,○×はついていません.
戻ってきたうえの子に,式はそれでいいのかと尋ねたところ,あっ,と言って消しゴムで消し始めました.
「かけ算の順序」に関しては,Webでアクセスできる情報や,国内外で刊行された書籍・論文などを通じて,自分なりに記録しておき,できれば年に1個でも,知見を言葉で表せればと思っています.昨年の知見は,以下のとおりです.
(略)かけ算の交換法則を,イエスバットの構文のバットの後に使うのが,ネット上の論調なのに対し,バットの前に使うのが,国内外の算数教育の事例に多く出現します.
イエスバットの文を具体的に表すと,次のとおりです.
- 3×5が正解だというが,交換法則があるから5×3も正解だよ
- 交換法則から3×5=5×3となるが,3×5と5×3とで表すものが異なるよ
Order of Operationsに,エールをIt may be useful to focus attention on where the commutative law appears in an argument. Those who complain about the incorrectness of the red-pencil seen in imgur's picture often think that although a x b and b x a are different literally, a x b = b x a should hold by the commutative law. On the other hand, people for it seem to understand that even if they accept the commutative law of multiplication, a x b and b x a represent different things.
なお,3×5と5×3,a×bとb×aなどの違いや,学習者の認知,そして算数教育での展開などに関しては,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130204/1359989997やhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20151121/1448031600で整理を試みてきました.
今年の知見として,アレイ図*2の使いどころを挙げたいと思います.具体的にはこうです:かけ算の文章題に対して,アレイに基づきその数量をイメージするのではなく,数量を認識してかけ算の式で表したあと,その積を求めるために,アレイが活用されています.
2年前に6社の算数の教科書を調査し,昨年あるスライド(あとで示します)を作っていたとき,どこかの教科書に,文章題で子どもがアレイ図をイメージしていたのがあったのが,少し気になっていました.
教科書を1冊,読んでいくと,まさにその例が載っていました.
- 出版社/メーカー: 教育出版
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- メディア: 単行本
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文章題はp.8にあります.ページの最初に「1本に4こずつ入ったボールが3本あります。ボールはぜんぶで何こあるでしょうか。」という問題が書かれており,テニスボール4個が円筒形ボトルに入ったカラー写真*3を添えてあります.
そのあとの小問は2つです.はじめに,「1 かけ算の式にあらわしましょう。」で,すぐ下に,式が書ける空欄もあります.教科書のこれまでの記載から,ここでは「4×3」と書くことが期待されます.次に,「2 答えのもとめ方を考えましょう。」となっており,そこでは2人の考え方が表現されています.左側のけんじさんには,「4このまとまりが3つ分だから…。」という吹き出しがついています.右側のゆみさんは,発言の代わりに,4行3列にならべた赤いおはじきをイメージしています.
その下には,「かけ算の答えのもとめ方」という小見出しで,薄い背景色のついた囲みが設けられています.「4×3の答えは,4+4+4でもとめることができます。」という文と,4つずつ3つ分,赤い丸があることを表した図も,そこに載っています.図のうち4個で1つ分のところは,テニスボールを図に(抽象化)したものであるとともに,ゆみさんによるアレイ図のイメージを,累加で勘定できるよう分割したものにもなっています.
このように,「文章題で子どもがアレイ図をイメージしていた」を,見つけることができました.
そうしてこれは,文章題に対するイメージ(もしくはスキーマ)ではなく,4×3という式を書いた上で,4×3=12と計算するために示された,スキーマの1つとなっています.
アレイを含む,昨年作ったスライドを,以下に示します*4.
教育出版のボールの文章題の事例は,大きい矢印(のように子どもがイメージすること)を,認めるものにはなっていないのでした.
とはいえ,教科書を通じて学べることとなると,次のように,矢印を少し修正したいと思います.
大きい矢印は依然として無効ですが,青い矢印(グラフ理論でいう有向辺)を通して,「3枚に2個ずつ」という場面が「3×2=6」の式につながることを,示しています.
もちろん,経路が存在することと,そのように考える子どもが存在すること,授業で認められることとは別である点には,留意しないといけません.
なお,アレイに対して,かけられる数とかける数とを交換するシチュエーションは,今回の教科書ではp.31に見られます.「1れつに8人ずつ,4れつにならんでいます。ぜんぶで何人いるでしょうか。」という文章題と,式を書く欄(8×4が期待されます)のあと,「答えのもとめ方を考えましょう。」という小問で,8行4列のアレイが出てきます.けんじさんは縦方向に,またゆみさんは横方向に,赤丸を囲っています.ここから,既習の4×8=32を使って,8×4=4×8=32とすることが読み取れます.この流れにおいても,8人ずつ4列の人数を4×8で表すことは,認められていません.
今月,見かけた,「かけ算の順序」を含む論評として,次の2つにリンクしておきます.
*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131229/1388265996, google:基準量が後に示された適用題
*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20151229/1451314800
*3:asin:B00Q6BSHLQから製品名を含むラベルが取り除かれた形態です.ボトルの底部はほぼ同じ,キャップは色違いです.