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小学校の掛け算順序問題×9,復活?

424425との間に,2か月の空白期間があります.やりとり再開のきっかけとなったのが,『かけ算には順序があるのか』を読んだらなのには,驚くばかりです.
なお,427に書かれた「デカルト積(アレイ図)で掛け算を導入すると、自然数範囲での掛け算理解は良いけど、分数や小数、(連続)量の場合の掛け算理解に失敗する」に関して,個人的には異なる考えを持っています.15セントのケーキが4個で,(欧米式に)4個×15セントというかけ算の式にしたとき---整数どうしのかけ算---,結果が60セントであり60個でないのはなぜかを言うには,デカルト積による導入では難しい,というのがVergnaud (1983)の記述から読み取れます.フランス,中国,そして日本(遠山啓)の指摘については,かけ算には本来,順序がないで整理を試みました.


それから,「トランプ配り」が637と,888以降でたびたび出現していますが,その対応に関する教科書と指導例が,読んでも出てきそうにないので,少し書いておきます.
啓林館の平成23年度以降(平成27年度以降も)の1年の算数教科書に,「子どもが3人います。みかんを1人に2こずつあげます。みんなでなんこいりますか」という出題があります*1.『活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編』p.66では,皿に2個ずつ置く方法と,1個ずつ置く方法(トランプ配り)を図示した上で,「1個ずつ置くか,2個ずつ置くかという置き方ではなく,置いた結果に着目させる」を,指導上の留意点として挙げています.これを学習しておけば,2年のかけ算の学習時にも「1つ分の数になるのは,どっちかな?」と問う(忘れたら1年の文章題を復習する)ことができます.
なお,888の「そもそも文章題から「1つあたりの量」は一意に決まらかったりする」について,国内外の算数教育の調査があってもいいと思います.海外文献で,かけ算を最初に学ぶ際の典型的な出題と,被乗数・乗数の区別については,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130216/1360948813#greer1992*2が明快です.


954に見られる,アレイ図に対する式の多様性については,先例があります.

新版 小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 2年下』のかけ算の最初の授業(p.21)では,「3こずつ4つ分」や「2こずつ6つ分」も複数の取り方ができることを示しています.

アレイ図

筑波の算数での,アレイの応用については,今年出た本にも載っています.具体的には『isbn:9784491031316』pp.61-62なのですが,自分で書いたのを引いておきます.

今月出版された,筑波の算数(筑波大学附属小学校算数研究部)の先生方の著書では,アレイを持ち出しながら,交換法則は一切現れません.12×18を求める式に「12×6×3」「12×9+12×9」「12×9×2」「12×10+12×8」を並べています.結合法則・分配法則ばかりです.
これに意味づけを図るなら,交換法則を適用して12×18=18×12と表したとしても,そこから,12×18を効率良く,またミスせずに計算するための手がかりが得られない,となります.結合法則・分配法則の式では,乗数が減っており,10以下となっています.そうすれば累加で計算できるというわけです.

『かけ算には順序があるのか』を読んだら

補足すると,「12×6×3」は「12×6+12×6+12×6」,「12×9×2」は「12×9+12×9」を,それぞれ簡潔に表したものです.上記引用の中で「×3」「×2」は,幾つ分を表しますが,他のかけ算は,アレイに基づきます.意味合いの異なる2種類のかけ算を使った式は,昨年出た『数学をいかに教えるか (ちくま学芸文庫)』でも,トラックを用いて批判的に述べており,算数教育の境界付近で,もっと議論ができないかとも思っています.

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140703/1404313204

*2:20年前の文献か,と思われるかもしれませんが,今年出た,文章題(word problem)に関するサーベイ論文http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fpsyg.2015.00348/fullでも引用されています.