モデルとモデル化,その意義
「第3回の授業より,プログラミングについて学習していきますが,その前に,『モデル』と『モデル化』について,理解しておきましょう.ある本によりますと,『モデル』とは『非常に複雑な対象の一つの側面を切り取って模倣したもの』であり,モデルを作成することを,『モデル化』と呼んでいます.
ある本によりますと,と言いましたが,この定義は,コンピュータ(情報科学・情報工学)に限ることなく,理工学の問題として考える際に幅広く,利用できるものとなっています.
現実世界は複雑であり,すべてをコンピュータに入力することは不可能とも言えます.また,解決したい問題に不要な情報があっては,問題解決が遠のいてしまいます.
モデル化することで,対象を適切な形で簡略化できます.それにより,問題解決の方法を検討しやすくなったり,また,対象の変化も予測しやすくなったりします」
料理の四面体
「モデル化の事例として,『料理』と『組体操』を挙げたいと思います.
料理のモデルというのは,『料理の四面体』です.このタイトルで,1980年に本も出ています.
この四面体を構成する,4つの頂点には,『火』『水』『空気』『油』という名前がついています.
図には,蒸すとか焼くとか捏ねるとかいった,世界のあらゆる調理法が書かれているわけではありません.ですが,何か料理を挙げてみたとき,その料理で『火をどのくらい使っているか』『水をどのくらい…』『空気を…』『油を…』が分かれば,この四面体上のどこかに,位置づけることができるようになっています.
位置づけたものどうしを,比較することもできます.この図では,『煮もの(シチュー)』と『煮もの(スープ)』というのがありますが,シチューの点のほうがちょっと上にあります.『火』の頂点に近いところへ,打たれています.シチューのほうが,より長い時間,火にかけて作るというのが分かるわけです.
面で考えることもできます.この四面体の底面は,『火』と対極にあります.言い換えると,火を使わない料理法です.『ナマものの世界』と書かれているのでした」
組体操の負荷算出
「次に,組体操を対象としたモデル化を紹介します.
ここ数年,ニュースによく取り上げられている,組体操です.10段にも及ぶピラミッドを,何の支えもなしに人間だけで形にし,運動会で披露していることもあり,成功事例もさることながら,失敗した,崩壊した,そしてケガしたという報道もよく見かけます.
ここで組体操(組立体操)の批判者ではなく,支援者の立場をとることにします.組体操の準備や企画に携わるとなると,それぞれの演技者に,どれだけの荷重がかかるかを把握し,より大きな荷重がかかる者には,より頑丈な者を配置する必要があるのです.
ピラミッドだとか何十人を要するものでなくても,組体操の技というのはあり,そこでも,誰が誰に荷重をかけるかを試算することができます.画像をご覧ください.
5人による組み方で,『やぐら』『山』などと呼ばれます.左右対称の形で,最下段は四つんばい,2段目は中腰でそれぞれ外側を向き,最上段は中腰の2人の上に立って正面を向きます.人の絵が貧相に見えますが,これはストローマンと呼ばれ,UML(Unified Modeling Language)においてよく使われる,人の表現方法です.
さて,この図の左から2人目に着目すると,荷重算出のモデルが明確になります.
上位の者の手足を通じて,荷重がかかります.そこに自重が加わり,自分の手足を通じて下へ荷重をかけます.これが『荷重算出のモデル』です.複数人から荷重を受ける場合には,単純に足します.
このモデルでは『荷重がかかる』『荷重をかける』という関係に基づいています.実際の演技では,各演技者の身長や腕・脚の長さには違いがありますが,荷重算出のモデル化においては無視されます.多人数のピラミッドなどで,横に並んで肩などをくっつけると,左右に揺れ,全体としては重みが外向きに広がることなんかにも,対応していません.
それと,このモデルで何kgかかっているかを算出する際には,直接的な荷重と間接的な荷重との違いにも,注意しておく必要があります.5人の『やぐら』において,最上段の人が,直接,体をくっつけていない最下段の人に,何パーセントの割合で負荷をかけているかは,設定しないようにします.もしすると,2重カウントとなってしまいます.ピラミッドの荷重計算においても同様です.
何ですので,この『やぐら』で,荷重を試算してみましょう.最上段の人は50:50で,中腰の2人に均等に体重をかけており,中腰の人は,30:70の比で,腕と足に荷重をかけているものとします.簡単のため,みな体重を60kgとします.
左から2人目の人のかかる荷重は,最上段の人の半分なので,30kgです.
そこに自分の体重を加えて,90kgを求めておいた上で,最も左の人にはその30%の荷重となりますので,90×0.3=27kgですね.
自重の半分くらいなら,負荷に関してはまあ,問題にならないでしょう.とはいえ『やぐら』にも人数や高さを増やすパターンがあって,荷重が自重の何倍にもなる組み方も,あり得るわけです」
関連情報
- 作者: 玉村豊男
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/06/30
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
- 川端晶子: レヴィ=ストロースの料理構造論―料理の三角形から料理の四面体へ―, 日本調理科学会誌, Vol.44, No.1, pp.97-98 (2011). http://doi.org/10.11402/cookeryscience.44.97
- 組体操のピラミッド(俵型・三角錐型・クイック・足つき)について
- 組体操の荷重計算をエクセルで. 体育科教育 2016年5月号, 大修館書店, pp.48-51 (2016). asin:B01BU6IYK0
補足
先週の情報処理科目の初回に,「モデル化」を解説しました.「料理の四面体」も取り上げました.
組体操の負荷算出の件は,「モデル化」で連想して,2016年に書いたものを再構成したものであり,授業では話していません.