わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

足場とエレベーター

Kingle版を読み終えました.
全体の内容について知るには,以下の解説がわかりやすいです.

日本については,第五章から第七章までで詳しく書かれています(他の章でも,比較や想起のため,ちょくちょく出現しています).第七章(暗記、「ゆとり教育」、アクティブ・ラーニング)の中から一つ,段落を取り出します.

スティグラーとヒーバートは、中学二年生の授業について分析したとき、同じ構造の問題解決手法が用いられていることに気づいた。さきほどの、平行四辺形の授業を思い出してほしい。教師は解き方を教えないで生徒たちに問題を出した。しかし、彼らが解こうとするあいだ、何もしないで放っておいたわけではなかった。「解き方」そのものは教えなかったが、それに関連する知識を教えていった。つまりどちらにも、問題を提起して解決させるという構造が用いられ、それが教育者のよく言う「足場」となっている。ビルを建てるときの足場は、一段ずつ組み上げていけば、やがててっぺんにたどり着けるが、エレベーターのように、何の努力もなく最上階まで連れて行ってはくれない。それと同じように、教師は難しい問題を解く手助けとして、手がかりや知識を与えるが、答えを全部教えたりはしないのだ。

この章は,著者(クレハン)が日本の中学2年の数学の授業を観察するシーンから始まります.平行四辺形を扱った授業なのですが,具体的にどのような問題に生徒らが取り組んだかは,明示されていません.引用の中の「同じ構造の問題解決手法」「どちらにも」は,日本の小学校と中学校とで,参観した際の児童・生徒の行動は違っているように見えても,教える側のスタンスとして「「解き方」そのものは教えなかったが、それに関連する知識を教えていった」や「問題を提起して解決させる」が共通していたことを意味します.
段落の後半,足場とエレベーターの例えも,興味深いところです.大学の教育・研究にも,適用できそうです.すなわち,自分自身が携わっている研究にせよ,学生が修士/卒業研究として実施している活動にせよ,そしてプログラミング演習の課題にせよ,足場を意識し,問題解決のための基礎知識を確認(必要に応じて収集)するとともに手がかりを見つけ,足場を組み上げながら,所定の期間までにゴールに到達する,と考えればいいのです.エレベーターに乗るのは,ゴールに到達するためというよりは,時間をかけるべきでない行程をスキップするために使えば有用となります.
再来週から開始の演習科目について,「足場」と「エレベーター」の要素をもとに,問題解決そして「高みにのぼる」ことの楽しさを,受講生に伝えられないかを考えながら,内容を練り直すことにします.
ところで『5つの教育大国に学ぶ成功の秘密』では,日本のことに限らず算数・数学のトピックがところどころに出現します.その理由として,著者の専門が算数・数学だったというわけでもなく,以下は推測ですが,授業で見聞きした問題は,イギリスだったら,フィンランドだったら,自国だったら,どう出題し,どんな学年の児童・生徒が解答し,どんな反応を示すかを,それぞれの読者が想像しやすくするためであるように思います.
第七章のコラムの中の出題について,野暮なツッコミをしておきます.

一つのケーキを一二個に切り分けました。ケーキの三分の一を残すには、何個食べればいいでしょう。

「切り分けました」では,12個がみな,同じ大きさであることが保証されていません.例えば「同じ大きさになるよう」を「一二個」の前に置けば解消します.その上で,解き方の説明について,「同値分数については、もう習っているから、一二分のいくつが三分の一と同じになるか算出して」まではいいものの,直後の「分母の一二を消そうとする。まずは、一二と三の最小公倍数を算出しなければならない」は不自然(または著者独自の解法)に見えます.1-\frac{1}{3}\frac{2}{3}\frac{8}{12}と計算し,分母の消去も最小公倍数の算出も行うことなく,「答え 8個」とするのでもかまわないはずです.


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