わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

分母を払う,疑問詞が主語の疑問文を作る


 「移項」について,良い思い出も悪い思い出もなかったのですが,同時期に耳にした「分母を払う」のことを,思い出しました.塾長が自分ではない生徒に,「分母を払ろたらあかん!」と叱っていたのです.
 「分母を払う」という言葉は,中学校学習指導要領にもその解説にも載っていません.少し探すと,事例が見つかりました.

 要約するとこうです.\displaystyle\frac{x+5}{2}-\frac{x-1}{3}=4という方程式を解くときには,分母を払って3(x+5)-2(x-1)=24とできます.それに対し,\displaystyle\frac{x+5}{2}-\frac{x-1}{3}を計算しなさいという問題だと,分母を払って3(x+5)-2(x-1)としてはいけないのです.
 分母を払っていい・いけないの違いは,等式かどうかです.前者は等式であり,等式の性質の一つ,「a=bならば,ac=bc」を用いる(左辺をa,右辺をb,そしてc=6と割り当てる)ことで,3(x+5)-2(x-1)=24になるというわけです.しかし後者の計算問題は,等式ではないので,等式の性質が使えないのです.
 ここまでを踏まえて,中学1年のときに考えたのは,こうです.分数の方程式について,分母を払わずに計算ができるのです.
 実際,上記の方程式の左辺,\displaystyle\frac{x+5}{2}-\frac{x-1}{3}を計算すると,\displaystyle\frac{x+17}{6}になります.ということで方程式は,\displaystyle\frac{x+17}{6}=4と表せます.ここに,「a=bならば,ac=bc」を適用することで,x+17=24を得ます.そこから移項でもいいけれども,等式の性質のまた別のもの,「a=bならば,a-c=b-c」を用いることで,x=7として解が求まるというわけです*1
 または,\displaystyle\frac{x+17}{6}=4を,\displaystyle\frac{x}{6}+\frac{17}{6}=4にしてから,移項し,最後に両辺に6を掛けることでも,解が求められます.
 どの方法でも,計算ミスをしなければ,x=7に至るのですが,分数式は文字が小さくなりやすく,書き間違いが起こりやすいので,分数を早いうちになくせるのなら,なくそうという価値判断が働いて,「方程式に分数が含まれている場合には,分母を払う」という方法が確立するわけです.
 これは将棋の手筋のようなものです.等式(方程式)でない式の計算で分母を払ってはいけない,というのは,似ている局面でも駒が1枚ある(またはない)だけで,その手筋が使えないことに対応します.*2
 もう一つ,少し最適化を働かればよいというのを,中1の後半の英語の学習時に,疑問詞を使った疑問文のところで,考えたことがあります.これも当時の教科書は持ち合わせていないので,検索してみました.

  • https://www.alc.co.jp/speaking/article/question/120801.html(Who を主語にした疑問文の作り方は?|英会話|アルク,リンク切れ)

 同居人は兄として,4つの文を作ることができます.

  • 「私の母は,兄と一緒に住んでいます.」は,"My mother lives with my brother."
  • 「あなたのお母さんは,誰と一緒に住んでいますか.」は,"Who does your mother live with?"
  • 「私の兄は,母と一緒に住んでいます.」は,"My brother lives with my mother."
  • 「誰が,あなたのお母さんと一緒に住んでいますか.」は,"Who lives with your mother?"

 2番目と4番目は,疑問詞で始まる疑問文です.しかし前者の主語はyour motherなのに対し,後者の主語は疑問詞のWhoです.
 4番目の文は,「そういうもの」です.次のページでは「疑問詞が主語のとき,」に続けて「疑問詞のあとは肯定文の語順」が赤字になっています.

 これについて,1番目の文(肯定文)をもとに,my brotherを問う(質問者は誰か分かっていない)疑問文の作り方は,こうです.まず"My mother lives with my brother."のうち,質問をするのでMy motherはYour motherに変換し,my brotherは「誰」のwhoに置き換えると,"Your mother lives with who."という形(非文)になります.
 次に,疑問文の形にします."Does your mother live with who?"です.ただしこれも非文です.
 構文的に認められた疑問文にするには,疑問詞を先頭に持ってきます.最終的に"Who does your mother live with?"となります.
 同じように3番目の文について,My brotherを尋ねる疑問文を作ってみましょう."Who lives with your mother."としてから,"Does who live with your mother?"とします.疑問詞を先頭に持ってくると,"Who does live with your mother?"です.そして助動詞doesと動詞liveがくっついて,三単現のlivesになります*3.ということで"Who lives with your mother?"に至ります.
 手順としてはこうなるわけですが,このような変換を,そのつどいちいち考えていのでは,スピーディに文を組み立てられません.「疑問詞が主語のとき,疑問詞のあとは肯定文の語順」は,「方程式に分数が含まれている場合には,分母を払う」と同様のもの,だったわけです---当時の自分の頭の中では.
 ところで"Who does live with your mother?"は非文でしょうか? 中1の,自分の知識では,非文---という言葉を知っていたかはさておき---であり,doesとliveが連続するのは,おかしな形に思えました.高校で,強調のdo/does/didを習ったときには,疑問詞が主語の疑問文のことをすっかり忘れていました.論文を書くときには使いませんが,http://books.google.co.jp/books?id=2NX4I6mekq8C&pg=PA4で"Eddie says that order does matter"というのを目にしたのは,2014年のことでした*4

*1:ただし分母・分子やxの係数が整数であっても,分数式を計算すると一般にはax+bの形になるので,両辺をxの係数aで割る操作も必要となります.

*2:なのですが,\displaystyle\frac{x+5}{2}-\frac{x-1}{3}の計算について,「与式×6=」と書いて計算し,x+17と求めてから,最後に6で割って\displaystyle\frac{x+17}{6}を得るという計算方法も,実際に生徒がそのような答案を提出したのなら,認めたいところです.

*3:助動詞がdoなら,直後の動詞とくっつくとdoが消滅し,didなら,過去形になります.

*4:https://takehikom.hateblo.jp/entry/20141002/1412193761ですが,私訳はhttps://takehikom.hateblo.jp/entry/20150822/1440184614より読めます.