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代数学超入門,かけ算の順序

マンガ 「代数学」超入門 足し算、引き算から2次方程式まで (ブルーバックス)

マンガ 「代数学」超入門 足し算、引き算から2次方程式まで (ブルーバックス)

Kindle版を購入し,章末問題を含めて飛ばし読みしました.
中学から高校1年あたりまでの算数・数学を思い出すのにちょうど良い本と感じました.判別式や虚数は高校で学びました.平方完成も,用語自体は高校でしたが,中学校学習指導要領の数学に「因数分解したり平方の形に変形したりして二次方程式を解くこと」の項目がありまして,その解説も,上記の本も,先に因数分解,それから平方完成,という流れをとっていました.
欧米式の「かけ算の順序」で,以前に見かけて気になったことが,この本にも現れていたので,取り上げておきます.『マンガ 「代数学」超入門』で最初に出現するかけ算の式は,かけ算の章(第3章)よりも前のp.23でして,以下のように書(描)かれています.

吹き出しに「2をかける」とありますので,2は乗数(かける数)と判断できます.第3章の最初(p.31)に載っている式は「4×3=3+3+3+3」で,そこでも4は乗数,3は被乗数(かけられる数)です.また,「毎日$2賭け金に使う」(p.33)という話で,マイナス×マイナスがプラスになるのを説明する際のかけ算の式は,日数×お金,言い換えると乗数×被乗数で,統一されています*1
乗数×被乗数で一貫しているんだなと思いながら,読み進めると,p.38で逆数が導入され,そして「なんらかの数で割ることはその逆数をかけるのと同じ」が太字になっています.

この等式の右辺,「7×\frac15」は,しかしながら,被乗数×乗数の式になっています.
ただしこのことは,この本の主眼を知るだとか,代数学を独習しようだとかいったときには,些末な話です.そもそもこの本では被乗数・乗数といった用語は出現しませんし*2,逆数の扱いに関してはp.37で6÷2=\frac62\frac12・6=6・\frac12という式も見られます.だから,7に5の逆数をかけるといっても字義通りに\frac15×7と書く必要はなく,7×\frac15でいいじゃないかと,思えばいいのです.
以前に見かけた本は,幸いにも手元にありました.『Help Your Kids With Maths』p.47で,"DIVIDING FRACTION"という見出しがついています.まずは分数÷整数で,\frac14÷2=\frac18となるのを,\frac14÷\frac21\frac14×\frac12\frac18で示してから,分数どうしの割り算へと話を進めています.逆数の用語はなく("an inverse operation"という表記はありますが),分母分子をひっくり返すことの英語表現は"switch around"です.ですが,÷や×の左の数はそのままにして,右の数を変えているのは,欧米式の「(導入段階での)乗数×被乗数」と「被除数÷除数」の組み合わせでは,取扱注意だなあと前々から思っていた話でした.
日本では,「かけられる数×かける数=積」「わられる数÷わる数=商」のおかげで苦労しません.中島(1968b)には「乗数をoperatorとしてみる場合に統一的にでき便利である」*3とあります.


『マンガ 「代数学」超入門』のメモです.上記の件も含みます.

  • p.23:かけ算を含む式:2×(3+4),説明付き
  • p.31:第3章(かけ算と割り算)の表紙.かけ算の式は4×3=3+3+3+3
  • p.33:マイナス×マイナス=プラスの説明.ここもかける数×かけられる数
  • p.35:マス目を使ったかけ算.3×2は縦×横
  • p.37:わり算とかけ算の式:6÷2=\frac62\frac12・6=6・\frac12
  • p.38:「なんらかの数で割ることはその逆数をかけるのと同じ」,7÷5=7×\frac15
  • p.44:本棚を作る場面で5×3フィート,2×4フィート
  • p.45:計算の順序が違えば答えも違ってしまう
  • p.46:「演算順序の規則」「かっこがない場合、足し算と引き算の前にかけ算と割り算をする。」
  • p.47:5×LENGTH+2×4.本全体で,変数が×や・の左に来る式が見当たらない?
  • p.50:「1時間に60マイルの速さで移動する場合、t時間後の移動距離」は「60tマイル」
  • p.54:不等号.「≧」「≦」の下は1本線
  • p.57:結合法則.「演算の順序が問題にならないこともある」.かけ算の説明はブロックの体積.ただし直方体の体積の式はここが初出
  • p.58:「3つの数の足し算には実に12通りもの順序があるのだ」.『新式算術講義 (ちくま学芸文庫)』p.34と同等(逆順)
  • p.68:「.8P」がイラスト.横に「0.8とPをかけるのね」
  • pp.82-83:セリアの時給をwとすると,8時間で稼いだ額は8w

*1:細かいことをいうと,このページの冒頭に「ではお金を時間にかけてみよう」とあり,お金が乗数,時間が被乗数に対応するかのような書き方ですが,これは原文を見ないと何とも言えないところです.

*2:監訳者の著書について,かつて記事にしていました:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130714/1373813999#1

*3:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130217/1361035213#%E4%B8%AD%E5%B3%B61968b