- 作者: 中島健三
- 出版社/メーカー: 東洋館出版社
- 発売日: 2015/07/06
- メディア: 単行本
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奥付によると,「本書は、1982年に金子書房より刊行した『算数・数学教育と数学的な考え方―その進展のための考察― 第二版』を復刊したものです。」とのこと.現代化のブームを反省材料としながらも,その間(1960〜70年代)どんなことをしてきたか,これからの算数・数学教育はどうあるべきかが凝縮された本です.
かけ算については,「4. 「かけ算の意味とその拡張」についての積極的な取り扱い ―戦後の進展―」がp.75より書かれています.
「かけ算の順序」への見解を探ってみるなら,以下のところでしょうか(pp.81-82).
そこで,A×pを,これまでは被乗数のAと乗数のpを一応区別してその意味づけを行ってきているが,この点については,算数の段階でも,特定の場面への適用を考える場合を除いて,抽象数として用いる場合には,A×Bで,AとBの意味をいつも区別する必要はない(交換法則の成り立つことが,これまでの図式でも説明できないことはない)。
この引用の後には,「A×Bは,AとBとに比例するもの」すなわち「複比例の考え」の必要性が指摘されています*1.複比例という用語は明示されてないものの,杉山吉茂氏の解説にある,直方体の体積の授業(pp.251-252)も,複比例を念頭に置いていることが読んで想像できます.
とはいえ「かけ算の順序」の観点では,「特定の場面への適用を考える場合」という表現が興味深いところです.著者が用意した場面は,『小数・分数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)』で読むことができます*2.「新しい算数研究」第100号を記念して実施したという公開授業研究会にて,小数のかけ算の授業を行っています.ある文章題に児童が「120円×3.4」と立式し,授業者(中島氏)が「他に違う式の人はいませんか.」と尋ねているのは,「3.4×120」という式を立てた児童がいたら,時間をとって指導する用意があったからと推測できます.
ところで本を適当に開いて読んでいると,「構造」という言葉をよく目にします.今の算数教育の本で,ここまでこの言葉を使うものは,思い浮かびません.*3
そうすると「かけ算の構造はこれだ!」という文があるかなと思いまして,じっくり読むと,見つかりました(pp.77-78).
上の図式は,A×p(=B)という「かけ算の本質(構造)」を,「Aを1としたときpに相当する大きさを表すこと」,すなわち,「pに比例する」という考えでとらえ,それを「関数尺」として表わしているものである。乗数pが小数,分数の場合は,下側の目盛りで,整数点以外のところをよめばよいということで,その一般化が比較的容易とみられるところに一つのポイントがある。(30×2のようなかけ算を「30の2ばい」といって,いわゆる「ばい」で規定していこうというのは,上の考えにのせていこうということを指していると解してよい。)
「上の図式」というのは,1本の数直線です.左端は0です.数直線の上と下に,数値(それと未知数の□)が並んでいまして,上は値段,下は長さに関する数量です.「30(円)」と「1(m)」が,数直線の1点を共有しており,これをもとに,長さが2mや4m,mやmのとき,いくらか求めよという問題になっています.二重になる前の数直線,といったところでしょうか.
と,打ち出してみましたが,かけ算の構造の分かりやすさについては,Vergnaud (1983, 1988)が図示した,2×2の表*4のほうが優れています.
ですがVergnaudでは明示しておらず,数直線を活用した上記引用のほうが,算数教育の意義として良い面を持っています.キーワードは「量感」です.
私なりに「かけ算の本質」はというと,「倍と積の二面性」かなと思っています.2011年と2013年にいくつか検討し,今年,http://www.slideshare.net/takehikom/ss-45239765/49にて自分なりに統合を図ることができました.最近読んだhttp://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/826625/16で,「5」のアレイをもとに,いくつものかけ算の式を得ているのには,自分の思案を先人の知恵と照合する,またとない機会となりました.
*1:当ブログでは:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120418/1334700739,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20111010/1318188083
*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120915/1347653753
*3:1965年の座談会において,「比の用法は複雑だというご意見ですが,乗法・除法の適用の場を構造として捉えると,あのような形にまとめられるということです。」と言ったのもまた,中島氏でした.http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140610/1402399854