「お魚,焼けたよ~」と言いながら,おばあちゃんがテーブルの真ん中に,大皿を乗せました.
魚好きのさきの子とあとの子が,立ち上がり,流しのところへ行きました.
ところでこの日の夕食のメインは,カレーライスでした.サラダも添えてありました.大人はスプーンとお箸で,子らは小さめのスプーンとフォークで,食べました.
しかし魚を,スプーンやフォークで食べるわけにはいきません.2人が流しに向かったのは,箸を取るためでした.
取って自分の席に戻り…
いえ,座りません.体を伸ばして,中央の,魚の皿で箸を動かします.
2人の目当ては,魚の目玉でした.1匹に2つありますので,1つずつを,自分の手元の皿に運び,それでようやくイスに座って,喜んで食べていました.
「あのさあパパぁ」
「どした,すえの子よ?」
「二人ってほんと,お魚,大すきなんやなあ」
「いやいやよお見てみな,食べたいのは,目玉だけや」
「そうなん?」
「目ぇの周辺を荒らして,身ぃは,自分の皿に持ってってないやろ」
「たしかにそうやなあ」
「魚の目ぇだけ大好きっちゅうのも,ちょっと異常やな」
「カレシとかできたら,どうすんのやろなあ」
「いやあ恋人と,魚の目ぇを争うことはないかな.それよりも…」
「それよりも?」
「この子らにな,子どもができたらな,『お魚,焼けたよ~』言うて皿持って来て,魚に目ぇがないねん」
反対側に座っていたママが,口に入れていた食べ物を出しそうになる勢いで,笑い出しました.
「なんでないのん?」
「そんなん,こいつらが先に食ぅてまうからやがな.『目ぇは体に悪いから』とか何とか言うて,取ってまうねん」
少しだけ先祖をたどっておくと,自分も父母も,魚の目を好んで食べるという風習はありません.滋賀の親類の会食を機に,鮒寿司は食べますが,頭部がついていても食べるわけではありません.
ただ,エビの尻尾を好んで食べるのが,実家の母と,さきの子・あとの子とで共通しています.フライでも寿司でも,誰かがエビの尻尾を残していると,口に入れてしまうのです.
ある日の食事でパパが,アジフライの尻尾を指で挟み,軽く持ち上げて「尻尾,誰かいる?」と尋ねると,左隣に座っていたさきの子がひったくって食べ,あとの子が「あー,あたしも食べたかったのにー」と言い出しました.すえの子の分のアジフライの尻尾を,あとの子に渡すという展開になったのでした.