第一幕
「ただいま…」
「たけちゃんおかえり」
「あ,お母さんですか.車はないので,(妻)が子らをお迎えに行ったのですね」
「そうやねんけど,うえの子ちゃんは,電車で帰ってくるねんて」
「はあ」
テーブルを見ると,おいしそうな,骨付き鶏もも肉が,何本か,焼き上がっていました.
1人2本,いや1本でしょうか.今,食べるわけにいきません.
リュックサックから水筒を取り出してテーブルの上に置き,手を洗ってから,2階に行きました.
第二幕
「みなさん,晩ごはんよ~」
「…あ,ママの声や」
「みんな,降りといで」
「ほな,降りて,いただくか」
階段にたどり着くまでに,一つ,部屋の明かりがついていました.
ドアに手をやったときに,暗くなりました.開けると,あとの子が,こちらに向かっていました.
右手には,なんと,骨付き鶏もも肉がありました.
しかも,肉の部分は食べられていて,骨だけです.
「そのまま降りたらあかんで」
「うん,手,洗う」
「いやその,鶏さんやがな.ゴミ箱に捨てとき」
「…」
「ちり紙に包んでな.それから手ぇ洗うんやで」
第三幕
テーブルには,1人分しかありませんでした.
別室から,声がかかりました.妻(ママ)です.テーブルの食事は,うえの子の分で,パパとママと(うえの子を除く)子どもらは,畳の部屋で食べるというのです.
畳に尻をつけて座り,いただきますを言いました.
「あのね,パパ」
「ん?」
「この鶏肉やねんけど…ママ先に半分食べるんで,残り半分,食べてほしいねん」
「よっしゃわかった.大皿にあと1本あるけど,これは?」
「それ,ちょっと置いといてくれる?」
「あいよ.パパとママは,0.5本ずつってことか」
「そうやねん.子どもらは1本ずつな」
妻から受け取って,かじりつき,骨だけの状態になったところで,あとの子がやってきました.
さきの子とあとの子の間で,短いやりとりがありました.
「あとの子ちゃん,鶏,食べた?」
「食べたよ」
あとの子の返答が耳に入った瞬間に,自分は大笑いをして,横方向に倒れました.
骨付き鶏もも肉からすると,状況はこうです.おばあちゃんは,1人1本ずつになるよう,骨付き鶏もも肉の照り焼きを作りました.帰宅してすぐの自分は,ノータッチだったのですが,その後に帰宅した,あとの子が,1本を取って,2階で食べたのです.
パパとママと(うえの子を除く)子どもらで食べるにあたり,大皿には,1人1本ずつ,マイナス1本が並べられました.おじいちゃん・おばあちゃん・うえの子には1本ずつ確保しています.盛り付けの時点で,子どもの誰かが食べたと,おばあちゃんとママは判断していました.
もし,「鶏,食べた?」に対してあとの子が「食べてないよ」と言ったなら,あとの子は大皿の最後の1本を食べ,結果的には2本食べることが,できていたかもしれません.しかし,1本を食べていたのを2階でパパが目撃していましたし,あとの子は,うそをついてまで2本目を食べるという性格ではありません.
大皿の最後の1本は,再び,ママが先に半分を,その後に残りをパパが食べました.0.5×2で1本,いただきました.