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学んでほしいのは「提案力」

これから何回かに分けて,『学んでほしいのは「……」』というタイトルで,当学科の学生や,当学科の受験を考えている人へのメッセージを書いていくことにします.
最初に挙げたいのは,「提案力」です.
提案力があれば,レポートや試験で文章をすらすらと書け,高い点数を取りやすくなります.会話やメールで,状況に応じた円滑なコミュニケーションをとることができます.
提案力とは,何をしなければならないか,何は(作業あるいは表明)する必要がないか,期限はいつか,その結果はどうなるか(誰が見るか)などを考慮した上で,適切な「形」を作り上げる能力です.単に何でもいいから提案する…無から有を創る…能力ではありません.
提案力を構成するものとして,思い浮かぶものを挙げてみます.

  • 一つの問題に対して,複数の答えが存在し得ることに気づくこと
  • 複数の答えの候補から一つを選ぶ手段としての,設計思想(デザインコンセプト)
  • 制約を発見し,明確化すること
  • 一つの大きな問題(すべきこと)を,複数の小さな問題(すべきこと)に分割すること
  • コスト意識*1

これらを授業で学ぶのは難しそうです.私自身も,授業でこれらの一つ一つを教えているわけではありません.ただし,試験では,この能力を培ってもらうための問題を入れています.やや難しめで,こちらでは複数の正解を用意しておいて出題します.その一つを提案してくれれば正解としますが,用意した正解よりもよい答案が出ることもあります.
この提案力は,JABEEで言われているエンジニアリングデザインと似ていますが,異なる点もあります.まず,エンジニアリングデザインは工学・工業での問題に対するデザイン能力と言えます.提案力は,工学・工業に限らず,社会人になってからも,結婚して家庭を切り盛りするようになってからも*2,活用できます.
もう一つ異なる点として,エンジニアリングデザインにおいて「提案」とはたいてい,単に何かを案として挙げるだけでは不十分で,その提案が有用であることの検証をするか,それが無理なものについては,十分な事例調査や有効性の検討が不可欠です.上記の提案力は,検証・検討までは要求していません.むしろ,のちに検証・検討する(してもらう)ためのものを目に見える形として作り上げるための技能が,提案力です.

*1:ここでのコストは「減らすべきもの」ではなく,作業実施により消費する金銭・時間などのことで,作業をする前にこのコストを認識することが,コスト意識です.

*2:もしあなたが一人暮らしをしている人なら,毎日の食事をどうしていますか? 単調にならないよう,栄養に過不足のないよう,工夫していますか? この工夫も,提案力なのです.