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大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

技術者教育のエッセンス

大学で,講義・演習や研究室での指導を通じて,学生に何を身につけてもらいたいか,考え直しました.
突き詰めたところ,答えになるのは次の2つです.一つは,社会人として仕事をしていくのに不可欠な知識や技法,もう一つは,設計です.なお,この2つは完全に分離した概念というわけではなく,例えば「段取り」は,複数の人が携わる仕事で不可欠な要素である*1一方で,設計段階にも関わってきます.
技術(technology)あるいは工学(engineering)のエッセンスは何かというと,ここでもまた設計(design)です.いくつか引用します.

例えば原子力発電の仕組みや原子力発電所がいかに耐震性や耐久性に重点を置いて設計されているかについて教えても、原子力発電所が実際どう稼働しているか、その設計理念や職員の規模までは教えない。自動車工場でもいい、製鉄所でもいい。もしくはウェブサービスでもい。これら理屈をどうモノにしたかは、高校までの教育では十分扱えていない現状がある。
(略)
外国ではテクノロジーに関する教育は、10〜12年程度が基本で、テクノロジーに限らずその本質である設計についてやその周辺である労働、それからテクノロジーが社会にどういった影響を与えたかという歴史までみっちりと教育している。

科学研究費事業仕分け問題を教育で解決する現時点でのたった一つの最適解 - 技術教師ブログ

『Standards for Technological Literacy』を翻訳した桜井宏氏によると、この本の大部分を占める内容こそ、日本の技術教育に足りない内容という。詳しくは邦訳をお読みいただきたいが、例えば、「技術と科学との違い」「技術の本質はデザイン(設計)にある」「デザインとは相反する複数の要求あるいは制約のバランスをとっていくこと」などが教えられるという。そしてITやエネルギー、医療、バイオといった領域を例にとり、各分野における技術やシステムの構造を説明している。繰り返すが、このような内容を読者の方は習っただろうか。

第59回:「技術とは何か」、学校で習いましたか? | 日経 xTECH(クロステック)

工学の本質は制約の下でのデザインである
すべての工学デザインは,特定され,考慮されなければならない制約の中で行なわれている。そうした制約の一つは絶対的なもので,例えばエネルギー保存などの物理的法則や,柔軟性限界,電導率,摩擦などの物理的性質である。この他の制約にはある程度の柔軟性があり,例えば経済的(個々の目的に利用可能な資金),政治的(地方,州,国家的な規制),社会的(一般市民の反対),生態学的(自然環境の破壊の可能性),倫理的(一部の人々に対する不利益,後続世代に対する危険度)な制約である。最適なデザインは,あらゆる制約を考慮に入れ,その中で何らかの合理的な妥協点を探ろうとする。特定の追加的な技術開発を行わないといった決断を含め,そうしたデザイン上の妥協点を定めるには,個人的,社会的な価値を考慮する必要がある。デザインは時に既知の要素の組合せに関する所定の作業しか必要としないこともあるが,問題解決のための新たな手法,新たな要素,及び新たな組合せの発明に向けた優れた創造性,新たな問題や可能性を見極めるための革新を要することもしばしばである。
しかし,完全なデザインというようなものは存在しない。一つの制約を適正に組み入れることによって,他の制約に触れることもよくある。例えば,最軽量の材料は強度に問題があったり,最も効率的な形状が安全性や美観を損ねるものであったりする。したがって,すべてのデザイン上の問題は,人々が様々な制約にどのような価値を与えるかによって,多くの代替的な解決方法につながるものである。例えば,強度と軽量性のどちらが重視されるのか,外観は安全性より優先するのか,といったことである。重要なことは,最も安全で最も信頼性があり,最も効率的で最も低経費であるような単一のデザインが存在しないことを理解しつつ,両立しない多くの要素間で合理的な均衡のとれるようなデザインを考案することにある。
使用される広範な条件を考慮することなしに,隔離された対象や過程をデザインすることはほとんど実際的な意味を持たない。技術によって生み出されたものの大部分は,運用され,点検・保守され,時には補修され,最終的に置き換えられねばならないものである。(略)
すべてのアメリカ人のための科学(PDF), p.31)

(e)種々の科学、技術及び情報を活用して社会の要求を解決するためのデザイン能力
ここでいう「デザイン」とは、「エンジニアリング・デザイン(engineering design)」を指す。すなわち、単なる設計図面制作ではなく、「必ずしも解が一つでない課題に対して、種々の学問・技術を利用して、実現可能な解を見つけ出していくこと」であり、そのために必要な能力が「デザイン能力」である。デザイン教育は技術者教育を特徴づける最も重要なものであり、対象とする課題はハードウェアでもソフトウェア(システムを含む)でも構わない。
実際のデザインにおいては、構想力/課題設定力/種々の学問、技術の総合応用能力/創造力/公衆の健康・安全、文化、経済、環境、倫理等の観点から問題点を認識する能力、及びこれらの問題点等から生じる制約条件下で解を見出す能力/結果を検証する能力/構想したものを図、文章、式、プログラム等で表現する能力/コミュニケーション能力/チームワーク力/継続的に計画し実施する能力などを総合的に発揮することが要求されるが、このようなデザインのための能力は内容・程度の範囲が広い。このことを踏まえ、この項目(e)では、社会の要求などや、分野別要件が定められている場合は、その意図するところを考慮し、個別基準に定める次の内容も参考にして適切な学習・教育到達目標を具体的に設定することが求められる。
「認定基準」の解説(適用年度:2012年度)(PDF), p.6)

「設計」が,「教育」と「技術・工学」と「社会」を組み合わせているとも言えそうです.
ではそのような設計だとかdesignだとかは,大学の中でのみ指導すべきなのでしょうか? 大学に入るまでの学習において,その要素はないのでしょうか?
あります.真っ先に思い浮かぶのが,算数の「筋道を立てて考える」です.

第1 目標
算数的活動を通して,数量や図形についての基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け,日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考え,表現する能力を育てるとともに,算数的活動の楽しさや数理的な処理のよさに気付き,進んで生活や学習に活用しようとする態度を育てる。

第2章 各教科 第3節 算数:文部科学省

算数科の改訂は,中央教育審議会の答申に示された算数科,数学科の改善の基本方針を受けて行われた。
(略)

○ 数学的な思考力・表現力は,合理的,論理的に考えを進めるとともに,互いの知的なコミュニケーションを図るために重要な役割を果たすものである。このため,数学的な思考力・表現力を育成するための指導内容や活動を具体的に示すようにする。特に,根拠を明らかにし筋道を立てて体系的に考えることや,言葉や数,式,図,表,グラフなどの相互の関連を理解し,それらを適切に用いて問題を解決したり,自分の考えを分かりやすく説明したり,互いに自分の考えを表現し伝え合ったりすることなどの指導を充実する。

(《算数解説》, pp.4-5)

個別の科目としては,算数や数学のみならず,理科や社会が重要となるでしょう.
入試で出題文を読み,答えとして求められる情報に注意し,数学であれば解けそうな方法をいくつか思いついた上で最も見通しの良さそうな方針を一つ決め,解答を書いていく作業(そしてそのための訓練=受験勉強)を通じ,関門を突破して大学に受かったという達成経験は,大学でも生かしてほしいものです.
小中高の理科と,技術との関連についてそれを否定する人はいないでしょうが,社会については説明を加えます.歴史で,時代時代に結びついた技術の名称を覚えさせられますね.もちろん,地理や公民からも,その地を代表する産品や技術,諸概念のトレードオフは学べるでしょう.「理科や社会」と対等に並べたのは,私が高校2年のとき,地理と化学の科目で同じ週に,アルミニウムの精錬の話が出てきた*2ことを思い出すからです.
他の科目だと,国語や英語の教材に,科学技術の光と闇の話を出すことができるかもしれません.現実としてなされているでしょうか.科目を離れ,クラスを良くするとなると,それはマネジメントであり,唯一解が存在しないことや,ハードな制約とソフトな制約があることへの理解が不可欠です.また決めたことの継続性(必要に応じて,目標や活動内容の再設定)というのは,デザイン活動あるいはデザイン能力と,密接に関係しています.
まとめとして,大学卒業までに学んでほしいことを挙げてみます.いくつかは,大学に入るより前でもできることだと思っています.

  • 科学と技術の区別,そしてその一方でこれらが対等に結ばれて語られていることへの理解
  • 科学技術に限らず,モノを見て「面白い」と感じる(という経験を多数持つ)こと.なぜそれが「面白い」のか考えること
  • 「自分が行動することで作るもの」と「自分以外の人の手により作られたもの」の違いを知ること

*1:あなたが「段取り」を決めるとは限らず,むしろ,必ずしも明示されていない「段取り」(コンテキストとも)に従って皆が行動しているときに,それに反するような行動や,矛盾を引き起こすような構成員への働きかけをすると,しばしば反発を招き,また高コストになり得ることは,知っておいて損がないと思います.

*2:アルミニウムの精錬には電気が必要→水力発電で低コストに,だったと記憶しています.