わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

デザイン的発想

本の紹介の前に,考えていたことを.
当雑記でときどき取り上げている「エンジニアリングデザイン」について,簡単に言うと何なのかを,考えていました.今のところこんな感じ:

  • 「未来を見据えて,今を決める」ための行動がデザインであり,
  • この意味のデザインを,工学上の課題に適用することが,エンジニアリングデザインである.

「見据えて」は字数とリズムからとってきた言葉です.「これからのことをよく考えて」とすれば,平易になります.「今を決める」が,漠然としていると思われる可能性はあります.「方向性を決める」とするのが,分かりやすいようにも思えます.ただ,過去-現在(今)-未来の軸は,おろそかにできません.
今を決めるためには,「過去」のことも必要ですが,これはあえて省略しました.というのも,未来を見据えるときに,過去すなわちこれまでのことを踏まえればいいのです.例えば,新規性のある研究課題・手法を選ぶという行動の中で,「もしコレを研究課題・手法としますと言ったら,他の人(先生,査読者など)から,過去にコンナノがありますよと突っ込まれるだろう.だからそのままでは採用できない」と考えるわけです.
さてこの,「未来を見据えて,今を決める」という表現が自分なりに確立したのは,次の本を読み進めていく中ででした.

中小企業のデザイン戦略 (PHPビジネス新書)

中小企業のデザイン戦略 (PHPビジネス新書)

著者は,工業デザイナーです.そして序盤から,「デザイン的発想」が,その定義がきちんと与えられないまま使われています.それが何なのかは,ほぼ終わりのところで書かれています.

デザイン的発想とは,商品を作ろうと思ったその段階で,商品企画・商品化・ユーザーによる使用・破棄まで含めた商品の全体像を,手を動かす前に頭の中で計画すること,すなわち,しっかりした意思を持って「実行に先立つ計画」を立てることなのです.
目標となる一〇年後の夢や希望も,全体像を見渡し問題点を見つける鳥瞰図的な視点も,ユーザーの心に届き共感を呼ぶ物語作りも,スムーズなコミュニケーションも,ユーザビリティ(使いやすさ)の検証も,事前に頭で考えられることであればすべて,限られた時間の中であきらめずに考えて「実行に先立つ計画」を立てることが,デザイン的発想なのです.
(pp.221-222)

「未来を見据えて,今を決める」が,その表現には改善の余地があるものの,このデザイン的発想に一致しています.
デザインに関連して,よくある批判は「図面書いたら終わり」じゃないのか,です.情報の分野だと,設計を綿密に行ってから実装(コーディング)にとりかかる,言い換えると,設計と実装を分けて考えるのが,支配的にも思えます.図面に関しては,本文で教訓とも言うべき記述があります.

(略)図面やモックアップなどデザイン成果物を納品し,契約上業務が完了した顧客の中小企業から問い合わせがありました.先方でデザイン図面から実施設計を進めたところ,内部機構の変更があり,商品外観にも影響が出るため,デザイン図面の修正を依頼したいという内容でした.事務所の見解として,契約完了したのだから,図面修正には別途費用がかかると返答したところ,先方はいくら契約完了しているとはいえ,同じ商品のデザイン開発にかかわる図面修正は,契約の範囲内だと譲りませんでした.
このとき,中小企業にとって,デザイン図面以降に実際の開発業務が始まるのだ,と改めて気がつきました.デザイン図面以降,すなわち,設計・製造・販売まで手伝わなければ,本当に中小企業に役立つデザイン開発はできない.スケッチやデザイン図面という「絵に描いた餅」を提案しているだけでは駄目だ.必要なのは,生産できる「食える餅」,販売できる「売れる餅」のはず.中小企業が求めるのは,「絵に描いた餅を食える餅に,食える餅を売れる餅に」できるフリーランスデザイナーなのだと,そのとき悟りました.
(pp.63-64)

工業デザイナーならではと感じたのは,VI (Visual Identity)に関する作業スケジュール案の図(p.108)で,第1次デザイン提案に40案も出すというところです.情報システムの研究・開発に携わる者には,とうていできません.我々は,ゼミでも研究発表でも,複数の解法が考えられるときは,基本的に発表者側で一つに選定する習慣がついています.質疑で厳しい突っ込みが来るのは,早い段階で一つに絞り込んでいることの弊害と言えるのかもしれません.
ほかに,悪徳デザイナーと良心的なデザイナーの見分け方や,打ち合わせ時間をベースとしたデザイン費用の見積もり方が,読んでいて勉強になりました.
かつて聴いた曲,書いたこと: