わさっきhb

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レポート答案を見比べて

レポート課題を振り返る - わさっきの続きです.
学科事務で学籍番号順に並べていただいた,レポートの束を受け取り,ざっと読んでいきましたが,ほどなく,似通っている答案をいくつか見つけました.特徴は:

  • 間違い内容が共通している
  • 自由な発想で書いてもらうところで,正解・不正解とは別に,主要な語句が一致している

三者に見てもらっても…本当に見てもらうかどうかはさておき…「これは同じだ」と認定してくれそうな証拠を見つけていきました*1.そして該当する学生に一括で(メールアドレスはBccで書いて),おおむね以下の内容のメールを送りました.

レポートの答案を見ましたが,あなたの答案には,他の学生の答案と類似した記述が見られ,十分に努力してレポートを完成させたのか,判断できません.
この件に関して,弁明したいことがあれば,メールで返信ください.
(面談でもかまいませんが,あらかじめ日時を決めたいので,メールをください.なお,アポなし面談や,学生複数 対 当方という形の面談は,実施しません.)

返信の期限は昨日としました.
送ってからすぐ,これは学生を刺激してしまうなあと感じましたが,後の祭りです.
ともあれ何人かから,返信がありました.うち2人は,面談を依頼してきましたので,それぞれ異なる日の昼休みに来てもらいました.
そういう来てくれた学生に共通したのは,自分がどれだけ努力をしたかを,熱く語ってくれたことでした.聞けば聞くほど,採点するこちらとしては,確かに時間をかけて十分な努力をしたは評価に入れたいが,適切な努力あるいは配慮をしているかが,また別問題としてあるということに気づきました.その意味の「努力」や「配慮」が何なのかは,課題に取り組む学生当人のみでは気付きにくく,レポート課題を提示し採点する教員の責任の明示すべきだぞと思うようになりました.
「配慮」の一つは,演習室環境で答案を作ったとき,他の学生に盗み見されないよう,パーミッションをつけておくというものです.面談をした学生の一人は,答案そのものを誰かに見せたことはしていないと主張し,しかし他の答案と表現が一致するのは,盗み見されたとしか考えられないという結論になりました.
これは,試験でいうと,極めて優秀な学生がいて,ある1問について他の学生には真似できない答案を書いていた*2としても,脇が甘いか何らかの理由で,答案が横や後ろの学生に見える状態になっていて,そこでコピー答案がなされた(上述の「真似できない答案」を避け,他の簡単なところをコピーした)ときに,どのように採点すべきか,という問題になりそうです.もちろん試験中に,他人が見放題の状態になっていたら指摘はしますが,そこまで目が行き届かず,道具を使うなどして巧妙に盗み見しようとする学生がいるとき,もちろん盗み見する学生には厳罰が必要ですが,悪意なく「見られた」側の評価はどうすべきかということです.ここまで状況を設定すれば答えは明らかなもので,示し合わせたという証拠が見つからない限り,見られた側に処罰(減点など)はできませんね.
もう一つの「配慮」は,複数人でレポート作成に取り掛かることに関してです.学生に時間を渡して答えを書いてもらうというやり方において,学生間のコミュニケーションを否定するわけにはいきません.しかし,自由記述問題*3で,何人かの問題と解答のペアが,細かい表現を除いて同じであるところを見ると,これでは各人の努力のあとが分からないものです.
面談で,学生に対してこのように言いました: たとえば5人でアイデアを出すのは決して悪くないけれど,どうせなら5つ出して,一人一つに振り分けて,それぞれ異なる「解答」としてほしかった.ある学生は何個もアイデアが出て,別の学生はアイデアがゼロということはあるかもしれないが,そこは,アイデアをあげてやってもいいと思う.そして,文章にする過程で,アイデアを「自分の答案」にしてくれれば,こちらとしてはコピー答案とみなすことなく,その内容できちんと評価できるのだが,と.
最後に,「弁明せよ」という日常使わない表現に対して,率直に弁明してくれた返信メールもいくつかありました.何人かが書いていたのは,「白紙にするのはよくないと思い(コピーした)」というもの.当然ながら,その考え方でレポートを解いてもらうと,出した側として悲しくなったのですが,頭を切り替えて,もしかしたらこれは,戦略というものかもしれませんと考えるようになりました.
「書き写しても,ばれなきゃいいだろう」です.
もう少し言うと,「ばれる確率×損失 + (1-ばれる確率)×利益」を計算して,0より大きいなら書き写す,という戦略をとった学生がいたかもしれません.ここで,ばれる確率,損失,利益のいずれも,かっちりとした数字で表現できませんが,とくに利益を求める人が,損失を過少に見積もりやすい*4ことには留意したいものです.
この件について,こちらは一つ一つ目を通していること,そしてレポートは出したら終わりではなく,疑義のある答案には照会を求めることがあるのを,できればレポート課題を出した際に学生に提示することで,上の「ばれる確率」は決して低くないよということを伝えないといけないなと感じました.

*1:「情報が多くなればなるほど,解読の手掛かりを与える」ってのは,情報セキュリティの授業で取り上げている,単一換字暗号解析の教訓でした.

*2:レポートの内情を少しだけ書くと,面談に来た学生は,最後の問題は誰にも真似できないと主張し,実際そこのコピーはなかったのですが,他の小問で,明らかなコピーがあったのでした.

*3:『究極の問題とも言われる,「自分で問題を作って解きなさい」』のことです.

*4:ばれてもその小問がバツになるだけだろう,と勝手に思うことです.実際には,レポート丸ごとを0点にするとか,科目を不合格にするとか,大学や教員によってはカンニングと同様に扱うとかいった可能性もあるのですが.