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統計,速さ

Lepton先生の楽しく学べる統計―イラスト図解ですっきり実感!

Lepton先生の楽しく学べる統計―イラスト図解ですっきり実感!

統計処理の方法と考え方が,日本語・数式・図を織り交ぜ,分かりやすく説明されています.
大学の授業で統計を学んだけれど,よく分からないまま終わった,再勉強したいという人におすすめです.
私自身,大学の教養科目で1年間,統計学を学んだときも,最初に相関係数の計算をさせられましたが,内容はほぼ本書の通りでした.
ただし,ざっと読んだ限りで,確率統計の議論で間違えられやすい「条件付き確率」と「p値」について,説明があれば,もっと多くの人に勧められるのになあと感じました.前者は,書名に「確率」の文字が入っていないので*1しょうがないとして,後者の例は,相関係数についてくるP値とは何ですか? -相関係数についてくるP値の意- 統計学 | 教えて!gooblankエクセル2003でのF検定時のP値 - 心理学・社会学 解決済み| 【OKWAVE】医療におけるエビデンスとP値など,枚挙にいとまがないものです.
もう一つ個人的経験ですが,p値の概念は,Excelからではなく,Rの本,具体的には『工学のためのデータサイエンス入門―フリーな統計環境Rを用いたデータ解析 (工学のための数学)』から学びました.

英語と初年次教育 - わさっきで取り上げた本の続きです.前書ではいくつかの大学の初年次教育を比較していましたが,今回の第1章には,分野(科学教育あるいは科学リテラシー数学教育歴史教育,経済教育)ごとの報告が置かれています.
何点か,引用したいと思います.pp.13-14で,「遂行目標志向」と「学習目標志向」の比較がなされています.特にp.14の表が分かりやすく,具体的には,遂行目標志向における目標は「自分にはできるか,人からよく見られるか」であるのに対して学習目標志向は「どうすればできるか,何が身につくか」であり,教師の位置づけはそれぞれ「審判」と「知識の供給源」であり,誤りに至っては「失敗」と「当然であり,役に立つ」のように,極めて対照的です.そして,学生の学習に対する動機づけを遂行目標志向から学習目標志向に変換することが,「学びの転換」となるわけです.
p.20の図3とその解説には,なるほど半分にしても半分です.「『誤認識の問題』の一例」で,問題文は,「大粒の雨と小粒の雨が降っている.地上でみると落ちてくる速さはどちらが大きいか」です.「小学校の低学年の生徒は,どう考えるだろう.ほとんど,自分が現実に体験したことのある雨の場面を想像する.そして理由はわからないが,たとえば雷のなるときの大粒の<どしゃぶりの>雨と,春のしとしと降る<こぬか雨>を比較し,「大粒!」と答える.そして正解となる」(p.21).なるほどです.
にしてもです.図3の直下にある「この問題の答えは,大粒の雨が小粒の雨より速い,が正しい.この正解を答える生徒は,学年があがるにつれて少なくなり,大粒の雨も小粒の雨も同時,同じ速さで落ちてくる,そう答える生徒が多くなってくる.そして,物理で,しっかり落下運動の意味を学ぶ子は,正しく意味がわかって正解に気づくが,そうでない子はそのままになる」(p.20)については,承知できません.
というのも,物理の知識で雨粒の問題を解くには,落下運動の知識は当然必要ですが,それだけでなく,空気抵抗があり,またその値は質量よりも小さいことが前提となるからですその抗力を求めるのは高校や大学初年度レベルでは困難と思われるからです.
自然現象と数学-期末試験の問題Iに,大粒・小粒の雨の終末速度(地上でみると落ちてくる速さ)を計算する問題がありますが,運動方程式微分方程式として立てて*2解き,その上で,流体力学の知見に基づき「空気中を走る球体に働く抵抗力の比例定数」の式を問題文中で与えてやっと,答えが出せるというものです*3.「雨粒は本当に球形なのか?」や「空気抵抗の比例定数が,球体の半径に比例するのはなぜか?」といった疑問は,「しっかり落下運動の意味を学ぶ」だけでは,解決できないのではと思うのですが.

*1:第2章は「確率分布」ですが,これは確率の説明というよりは,推定・検定のための準備ですね.

*2:終末速度を求めるだけなら,「終末速度で落下している = 重力と空気抵抗が釣り合っている」ことを使えば,微分方程式は不要です.http://www12.plala.or.jp/ksp/mechanics/fallInAirResistance/も興味深いです.

*3:問題文を読めば,具体的な数値計算をすることなく,大粒と小粒の雨の速さを比べることができます.すなわち,終末速度がmg/kで,抵抗力の比例定数kが雨滴の半径rに比例し,雨粒の質量mがrの3乗に比例するので,割り算して,終末速度はrの2乗に比例するということになるようです.