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あなたもメンター

メンターとは

研究室での活動,あるいは大学生・大学院生としての生活を,充実させるための,キーワードをここで紹介することにします.
それは「メンター」と言います.
メンターは,オデュッセイアとかいうのの中で登場する人物にちなんだものだそうですが,現代では,「指導者」 「助言者」 「後見人」といった意味を持ち,仕事なんかの手本となる人を指します.
海外や,国内でもIT企業なんかで,積極的にメンター制度…メンターシップとも言うそうですが,インターンシップと紛らわしいですね…を取り入れているところもあります.メンターという表現こそしていませんが,ビジネスの漫画やドラマで,主人公の新入社員に対して,メンターとして振る舞う名脇役がいることも,よく見かけます.
メンターにより人を支援する仕組みを,動名詞形を用いて「メンタリング」と言います.「メンタル」とは異なる意味なので*1,間違えないようにしましょう.

メンターがいると

メンターがいることで,こんなメリットがあります.
まず,何でも相談できます.仕事のことはもちろん,人間関係の悩みや,人生の悩みまで,打ち明ければきちんと耳を傾けてくれ,適切なアドバイスをするというのが,メンターです.
次に,そういったメンターの人と親しくしていると,有益な情報や,面白い仕事がもらえることもあります.「こいつならこの話に食いつくかな?」と思いながら,情報提供するのが,メンターです.
そもそもメンターは先輩です.一般に,上司とは違う人になります.上司-部下の関係では,業務が「指示」され,その業務を完了させて「報告」することが,望まれています.一方メンターは,「対話」を行い,そこから本人が「気づき」を得ることが重要となります.
いま「本人」と言いましたが,メンターと反対側の人のことは「プロテジェ」と呼ばれるそうです.言いにくいですね,ギリシア語は.あるいはMentorに対して,Menteeと綴って「メンティ」と呼ばれることもあります.
あと1個,メンターの持つメリットを言わないといけません.それは,そのメンターの生き方,組織での立ち振る舞いというのが,キャリアパス・人生設計の参考になるという点です.
ばりばり働いている,けれども,あなたの相談には耳を傾ける先輩,というのをイメージするのもいいでしょう.
あるいは漫画やドラマだと,出世街道から外れたとしても,いいタイミングで語りかけ,ヒントをくれる人というのは,主人公にも,そして組織にも,不可欠な存在と言えるでしょう.

大学生活におけるメンター

で,大学生活におけるメンターですが…
想像できる,あるいはすでに経験しているかもしれませんが,先輩・上回生は,後輩・下級生のメンターになっていることがあります.ただ,チューターや,コーチングとは,若干意味が違うのですが,ここではそういった関連語を紹介するだけとして,違いは気になった人が自習してください.
教員は多くの場合,残念ながら,メンターになりません.別になってはいけないという規則とか不文律とかがあるわけではありませんが,なぜかというと,教員のゴールと,学生のゴールが違うのが大きいように思います.私自身も,研究の指導や技術的なアドバイスを中心とし,全人格的な関わりというのは,不得手なのが分かっているので避けています.
研究室の先輩は,後輩にとってのメンターになることを,希望します.
といっても,あなたのメンターは誰々さんです,という割り当てはしません.企業によってはそういう強制的な割り振りってあるのですかね.ともあれ私の見かける限りでは,自発的かつ用意されていない状態で,対話を通じて気づきを得るという姿を見かけます.ここで「用意されていない状態」と言ったのは,例えばゼミや定例の研究ミーティングで気づいたことは,これはメンタリングではないからです.
じゃあ研究室で後輩のいない4年生は,上の人を見て,そこから自分にあったメンターを見つけるだけでいいのかというと,そうでもありませんね.
1年生から3年生までの下級生に知り合いがいて,助言を求められたら,メンターとなるべきなのです.例えばですね,先生の出すレポート課題なんかが重圧になっているとき,先生のいないところで対話し,ときには後輩の愚痴も聞き流し,発言の中から重要なキーワードを見つけオウム返しする,といったことだけでも,「ああそういうことか」と思ってもらえるかもしれません.
大学を離れて,アルバイト先などで「先輩」と見られる,言われることもあるでしょう.塾講師や家庭教師というのも,メンター的要素が見逃せない職だと思いますよ.
そういった「にわかメンター」の心構えを,再確認しておきます.「上から目線」「指示的」では,いけません.「対話」,「助言」,そして「気づかせる」です.

メンターであるための心がけ

メンターを持つこと,そして自らメンターとして振る舞うことは,人間関係だけでなく,あなたの人生を豊かにします.仕事・業務という観点でも,目の前の問題だけにとらわれない自分を作るということになり,なので企業も積極的に導入しているのでしょう.
そうそう言い忘れていましたが,職業や役職・肩書きとして「メンター」ということはありません.なので自分から「メンターになる」と言わないように.
メンターとは何ぞやというのを書いた本やWebの情報を見て,さて,良きメンターを支えるものは何なのかについて,ちょっと触れたいと思います.
メンター自体は,賢者が未熟者に知恵を授けるという形での上下関係なのですが,先ほどから言ってきたように,大学生は先輩にメンターになってもらうと同時に,将来的にはそのメンター役になるかもしれない,だけでなく,大学1年生の時点からメンターだったかもしれません.
そのような2面性を考えたとき,古くさい言葉ですが「ギブ&テイク」を呼び起こしたいと思います.
同じ人に対して,あるときにテイクしたら今度はギブする,こともあるでしょうが,むしろ,先人からテイクしたことを,自分なりに理解し変形した上で,後輩に,あるいは学外にギブする,という,情報,技能,知恵の伝承が,できるようになりたいものです.
そのためには,情報を収集することと,技能を磨くことが大事です.技能として,我々はコンピュータの学科ですから,情報機器・通信機器のことは広く知っておかないといけませんし,よりよいコミュニケーションのため,日本語の運用能力というのも,おろそかにできません.語彙は豊富ですか? 「あの言葉を知っている」だけでは不十分ですよ.ある表現を,我々と異なる人々の場で何と言うのが適切かを考えて発すること,すなわち「言葉を選ぶ」ことが重要であり,そのための語彙力と思ってください.
あとは,メンタリングは基本的に2者関係です.しかしその関係にとらわれるというメンターシップは,よくありません.企業内の強制的,半強制的な割り当てはともかく,メンターは自由に変えられるべきです.
そういったことを考慮すると,日常から,人間関係をより広く持つことを,アドバイスしたいと思います.
よく自分のところに来ていた後輩が,来なくなったとして,メンターとして振る舞っていたあなたに致命的な欠陥とか失言とかがなければ,もしかしたらあるテーマにはあなた,別の話には別の人を,メンターとしているだけなのかもしれません.
間違ったことをしていなければ,人は来ます.徳孤ならず,必ず隣ありです.
そうだ,日常の心がけではないのですが,そうしてメンティさんから打ち明けられる中に秘密にしないといけないことがあります.そう,言ってくる場合もあるでしょうし,言わないかもしれません.「秘密厳守」も,メンターによる人間関係を支えるのは,知っておいてください.

何これ?

ゴールデンウィーク明けに,研究室の学生に対して,心得を説明しようと計画しています.pptファイルは去年のを使い回すのですが,今年,人間関係的な心得を追加しようとして,メンターのことを言うだけでなく,「あなたもメンター」という表現で,メンターをより身近に感じてもらい,教員-学生の2者関係が研究のすべてではないですよというのを言いたかったのでした.
研究室の学生で,本日のエントリを読んだ人も,ご安心ください.研究室活動心得を口頭で説明するときまでに,いろいろ考え直し,表現を洗練させる予定です.

*1:Merriam-Webster's Online Dictionaryを引きましたが,mentalやmindの語源は,mentorのそれと全く異なっていました.