自分の見聞きする範囲で,大学院に関する情報や表記を整理してみました.
マスターコース
大学を卒業して「進学」すると,2年間かけて,(大学のときと同じように)講義を受けて専門知識を学び,研究を行って最終的に修士論文を完成させます.
この2年間の学修課程のことを,大学によっては,「博士前期課程」と書いてあったり,「修士課程」と書いてあったりします.これは,「博士後期課程」があるかないかの差です.
この課程は「マスターコース」とも呼ばれます.ちなみに修士をmaster,修士論文をmaster thesisと言います.
ドクターコース
マスターコースを終えると,多くの人はそこで就職しますが,さらに上の課程に進む人もいます.
そこでは3年間かけて,研究をします.講義は基本的に受講しません.
最終的に,博士論文を作り上げます.
これは「博士課程」あるいは「博士後期課程」という名称になります.「ドクターコース」というのは,通称です*1.
博士の英訳は,言わずとしれたdoctorです.医師と区別したいときは,医師の英語表現にmedical doctorを使いましょう.博士論文は,doctor thesisでも一応通じますが,dissertationという表現のほうが,私の知る限りではメジャーです.
マスターの学生,ドクターの学生
「マスターの学生」「ドクターの学生」というとき,「マスターコースを終えた学生」「ドクターコースを終えた学生」という意味ではありません.
「マスターコースで在学中の学生」「ドクターコースで在学中の学生」という意味です.
「博士を終えた学生」については,さらに分類がありますが,後述します.
B, M, D
マスターコースのx年生は「Mx」と表記されることがあります.2年間しかありませんから,「M1」か「M2」です.
ドクターコースのx年生なら「Dx」です.3年間ですから,「D1」「D2」「D3」ですね.
留年生については,「M3」「M4」「D4」「D5」「D6」といった俗称もありますが,学修課程上,マスターコースは2年まで,ドクターコースは3年までです.
学部についても少し書いておきましょう.多くの大学生は自分の学年を単純に「x年」と言うと思います*2.それに対して先生方は,研究室で,大学院生とコミュニケーションをとることが多いこともあって,「学部」「マスター」「ドクター」と分け,そのあとで学年をつけます.
マスターのM,ドクターのDに対応する,学部の略称は「B」です.学士を表す英単語のbachelorにちなんでいます.
先生からもらう文書に,B1とかB3とか書かれていても,もう迷いませんね?
大学は卒業,修士・博士は修了
学部の課程を終え,卒業に必要な単位を修めると,大学を「卒業」する,と言います.「卒業証書・学位記」というのをもらうことになります.実は私は持っていません(後述).
マスターコース,ドクターコースをそれぞれ終えたときは,「卒業」ではなく「修了」と表記します.「終了」でもありませんのでよく注意しましょう.
卒業ではないので,証書の名称も「学位記」となります.学位記そのものは筒の中に一生,入れていてもまあかまいませんが,「第○号」の番号は,大学名と学位の種類と合わせれば,あなたが学部/修士/博士の学位を得たことを確認できる,重要な識別番号となりますので,メモしておき,就職関係で必要なときには提示できるようにしましょう.
卒業・終了を区別する略記があります.その年月と合わせて「a年b月学部卒」「c年d月修士了」「e年f月博士了」と書くのです.
英語のgraduateとundergraduateも知っておきましょう.graduateについて,「卒業する」という動詞の意味しか知らなかったら,どこかで大恥をかいていたかもしれませんね.graduateが名詞として使われると,「大学院生」という意味になります*3.undergraduateは,graduateのunderですから,「学部生」です.
留年
マスターコースは通常2年です.
「通常」という表現はいかにも粗雑なので,より適切な表現を探すと,「標準修業年限」と言います.Wikipediaには,wikipedia:修業年限という項目がありました.
ドクターコースの標準修業年限は,3年です.
それぞれ決まった年数で,修士論文,博士論文を提出できなかったときは,留年となります.修士論文は出したけれど,講義の単位が不足して,留年という学生も,決して多くありませんが,います.
学部,マスター,ドクターとも,標準年限の2倍まで在籍できるよう定められているところが多いです.先の例で「M4」「D6」まで書いて,それより上を書かなかったのは,これが理由でした.
ただし,休学は在学期間に含まれません.
実際私の経験でも,「9回生」と言う人がいたのですが,休学が入っていたのでしょう.
ドクターコースを終えて…?
ドクターコースで留年する人もいますが*4,3年間で,博士の学位を得ないまま終える人も少なくありません.
ただしその場合,課程は終えて,研究活動に対応する単位も修得しています.
そういった人の最終学歴は,博士を得た人,またドクターコースの学生がない人と区別するために,「単位取得退学」「研究指導認定退学」「満期退学」のいずれかが書かれます.
でもドクター(博士号取得者*5)じゃないんでしょ,と言いたいところですが,学歴として履歴書などに書けることのほか,もう1点,意味があります.それは,そういう形の退学の人については,1年〜3年以内に研究業績を得て,在籍していた大学に学位申請をすれば,通常のドクターコース学生と同様の審査で学位が認められるという規則が,多くの大学で定められているということです.「1年〜3年」というのは,大学によります.
無事に博士の学位を得ても,安定した教育研究の職につけるとは限りません.脱線ばかりで恐縮ですが,大学などの学究的世界のことを「アカデミア」と言います.また,定年は別として任期のない職のことを,「パーマネント(の職)」といいます.
パーマネントでない職もあります.任期制の教員(多くは助教)や研究職です.1年とか3年とか5年とか,決まった期間だけ研究に没頭し,十分な業績が得られれば,任期を更新するか,その機関のパーマネントの職に就けます.十分な業績が得られないなどの理由で,職場を去る人もいます.他の研究所や大学に移るだけでなく,研究職から退くというケースもあります.
博士の学位を得てかつ,パーマネントでない研究職にいる人のことを「ポスドク」と言います.「ポストドクター」の略です.英語だとpostdocになります.
博士の学位を得たのだけれど,職に就けないという人は「オーバードクター」と言います.
ポスドクの略記はPD,オーバードクターはODです.ただし学生と違って,年数は添えません*6.
飛び級
高校2年まで終えて,高校3年を経ずに大学に入学するのを「飛び入学」といいます.千葉大学が,そのさきがけでしたっけ.
大学院の入学についても,同様の運用規定があったりします.すなわち,大学3年まで終えて,大学4年を経ずに大学院のマスターコースに入学するのを「飛び級」と言います.
私も飛び級で大学院生になった一人です.始まったのはたしか,私の1年前でした.
私のいた学科は,そして進学したNAISTは,飛び級に積極的でした.飛び級条件も,在籍する学科で卒業に必要な専門科目の単位のうち,3年までに取れるべきものを取ることで,成績は不問,教養科目も不問でした.この条件はのちに(当然,より厳しい方に)変更されたと聞いています.また,現在いる学科でも,飛び級のルールが定められていますが,成績(優の数)もチェックされます.
飛び級をすることで,1年早く,より高度で深い専門の世界に飛び込むことができます.授業料や生涯獲得賃金のメリットは,挙げていいのかどうかわかりません.面白い人間関係を築けることは,ソースは俺ですが,書いておかないといけませんね.
デメリットもあります.
飛び級の場合,大学は中退となります.自身,退学証明書を受け取りました.ちなみに見合いの釣書には,入学の年月と大学(学科名まで)を書いた後に,「x年3月 同退学(大学院進学のため)」と書きました.
飛び級をして,しかも何らかの理由でマスターコースを中退しないといけなくなると,退学が2個続き,学歴上は高卒扱いとなります.
そして大学4年生の1年間を過ごしていないので,研究の仕方が身についていない状態で大学院生として研究を始めることになる,というのも指摘せざるを得ません.ちなみにこれは,飛び級を採用しないことの,見聞きする限りで最も多い理由でもあります.
これらのデメリットは「本人の覚悟」と「理解ある周囲(学部,大学院それぞれの指導教員)」で克服できると信じています.飛び級を決めたときから,入学時に研究者のスタートラインに立てるよう,学科の指導教員から課題をもらい,自分なりに展開してみましょう.
もし飛び級をしたいけれど協力者が見つからないという人は,相談ください.私の飛び級の経験は今となっては古いものですが,知る範囲でお答えしますし,より適切な人を紹介することも厭いません.
残りは続・大学院で書きました.
*1:英辞郎を引くと,doctor courseに「和製英語」という注がついていました.doctoral programあるいはdoctoral courseですか.そういえば,masterという名詞は形容詞的用法がよく見られますが,doctorについては,doctoralという形容詞を使わないといけませんね.
*2:私が大学生だったときは「x回(生)」と言うのも耳にしましたが,今いる大学では,皆無ですね….
*3:「卒業生」という訳語もありますが,その意味ではむしろalumnus/alumna/alumni/alumのいずれかが使われます.
*4:私も,ある投稿論文の採録通知が,D3の年内に届かなかったら,留年しないといけませんねと言われたことがあります.何とか間に合いましたが.
*5:doctoral digree holderという英語表現があるのですね….
*6:ふと思い出したのですが,当時助教授のある先生が,ホワイトボードに,学生時代からの研究室旅行の行き先を並べるとき,D1,D2,D3,助手1,助手2,…と,助手に年数を添えていました.今にして思えば,それぞれ西暦年を書けばよかったのですよね….